第八話 一瞬の別れ
前回の続き。
一連の動作を繰り返して、俺は画面を見る。
俺の目には、全ての携帯の履歴が一人の人物で埋め尽くされていた。
【フェルムセーテ】
それを見て俺はすぐに思った。
バカだと。
先程から俺は自分の携帯の履歴からフェルムセーテ以外の人の着歴等を消していたのだ。
何してんだよ、て話だ。
こんなことをする意味が分からない。
ただこれも、依存しているが故のことだろう。
もっと依存したいと、そう考えるからこその行動なのだろう。
「あ、そういえば、アイツ何してんだろ。最近連絡してねぇや」
誰に言ったでもない言葉が室内に響く。
俺は携帯を取り出すとある人物に電話した。
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退屈な授業。
いつもなら居眠りをするのに、今日はあることが気になり過ぎて全く眠れない。
「寝れない……」
空しい呟き。
誰かが吹いた音が聞こえたがこの無視だ。
(ユーたち、今頃北海道かな?
でもいつ出るかは聞いてないし……先にアクアさんが行くんだっけ?
今日がアクアさんで明日がユーとベーロだっけ?)
そんなことを考え、黒板を見る。
もうすでにどこまで進んでいるのかが分からないほど進んでいる。
未だ教科書すら開いておらず、居眠り体制にもう一度突入。
正直今すぐ携帯を見たい。
しかしこの学校、なんと携帯を持ってきたらダメなのだ。
…………え? 普通中学校はどこもダメなのではないかって?
そーなの? でも漫画では……いや、何でもない。
まぁ、どのみち電話が出来ない。
だから着信を確認する以前の話でもある。
(北海道か……寒いだろうなぁ……
あれ? でも北海道って南だっけ? 種子島が南だから北なのかな?)
アホですまん。
因みに北海道は北の方角にある。たぶん。
俺は帰ったらすぐにでも電話しようと思いながら、黒板を眺めた。
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家に帰った俺は驚いた。
携帯を開いた瞬間、まるで予想したかのように電話がかかってきたのだ。
とりあえず俺はその電話に出る。相手は女の子だった。
『しーちゃん、元気?』
ベーロだ。俺はベーロの声に顔が綻ぶ。
「おぅ。元気。どーした?」
『あのね、バカ兄貴が変な儀式を始めたから代わって止めてもらっていい?』
しかし一気に俺は顔を顰める。
「え、アイツ何してんの?」
『えっと……ダンス? てか何か祀ってる』
ホントに何してんだろ。
「とりあえず代わって」
『うん』
しばらくして、ユーが電話に出た。
『死神ちゃんどうしたの?』
「いや、お前の頭がどうしたの?」
速攻で俺はそう聞いた。
『だって俺たち離れ離れになるんだよ?!
この危機を乗り越えるためには、悪魔たちの力が必要なの!!』
「お前の頭かち割るのに悪魔たちの力が必要だよ。
てか引っ越しごときで悪魔の力借りるな。迷惑だ。
どんだけ他力本願なんだよ、お前」
『死神ちゃんは俺たちと離れ離れになってもいいの?!』
その言葉に俺は言葉を詰まらせる。
そして溜息を吐いた。
「とりあえずその儀式を終わらせろ」
『うー……』
「返事は?」
『…………はーい……』
すると電話をベーロに代わる。
『だんまりしながら片づけ始めた』
「片づけるように言ったからな」
『んー……あ、ねぇねぇしーちゃん』
「何?」
『今日泊りに来れない? 明日は土日だし』
「無理無理。俺今出ていったら怒られるじゃん」
『そっか』としょんぼりしながら言うベーロ。
少し心にグサッと来る。
なので俺はこう言った。
「……し、深夜ならちょっとだけ……いいぞ」
『ホント? やったー』
喜ぶベーロ。
そこで俺は疑問を口にした。
「てかお前ら、いつ北海道行くの?」
『ん? 明日の朝。九時くらいだったと思う』
「そっか。意外に早いな」
『まぁね』
そこで俺とベーロの間に沈黙が流れる。
ここまで会話が続かなかったことがあまりないので、かなり気まずい。
『……どこがいい?』
「え?」
『待ち合わせ場所』
ベーロが最初に沈黙を破った。
「…………ベーデ公園……」
俺は少ししてそう答える。
ベーデ公園は、俺とベーロたちが住む家の丁度中間地点にある家だ。
『じゃあ三時に来てね』
そう言ってベーロは電話を切った。
俺はしばらく携帯電話を見つめた後、こっそりと準備を進めた。
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俺がベーデ公園にある滑り台に行くと、既に人影が二つあった。
ベーロとユーだ。
「よぅ」
「しーちゃん!」
そう言ってベーロは俺に突進のような体当たりをしてくる。
それを軽くかわして、俺はユーに近づいた。
「次は変な儀式するなよ」
「保証は出来ない」
「殴るぞ」
「ところでいつまでいる?」
ベーロがそう聞いてきたので、俺は考える。
「んー……五時?」
「それじゃ早いー」
「でも俺伯母がいつ起きるか分かんねぇし」
ムスッとするベーロ。
ユーがガサゴソと何かを出した。
「とりあえずお菓子食べよ。コンビニで買って来たんだ」
「マジか。じゃあ俺ポテチ」
「私アイス」
「はいはい。順番ねー」
ユーの持つ袋から各々好きなお菓子を取り出す。
そして並んで食べ始めた。
「ん、うま」
「つめたーい」
「美味しいねー」
各々感想を述べる。
「にしてもいきなりだったな、引っ越し」
「ホントだよ」
「まぁ海外じゃないだけマシだけど」
「でも海外は延長ってだけだよね」
「そうなのか?」
「どーも俺が大学卒業したら行くらしい」
「ふーん」
俺は食べ終えたお菓子の袋を片す。
「死神ちゃん早いねー」
「そうか?」
「しーちゃんは食いしん坊だから」
「褒めてねーぞ、ソレ」
俺は新しいお菓子を食べ始める。
「まぁ、また旅行がてらこいよ」
「毎日来るもん」
「毎日は来るな。迷惑だ。てか学校行けよ」
「やーだー」
「バカ兄貴、我が儘過ぎ」
「コイツどんな教育受けてんだよ」
俺とベーロが軽く呆れると、ユーはクスクス笑った。
「んだよ。とうとう頭のネジ全部外れたか?」
「一つも外れてないよ。ただやっぱこうしてるのが一番楽しいなって」
「アクアお兄ちゃんもいたら良かったけど」
「ベーロ、それは言わねぇ約束だ」
「しーちゃん、そんな約束した覚えないよ」
少しして俺も笑った。
「まぁ確かに、こっちの方が楽しいかもな」
「すぐ来るよ、絶対」
「おう。できれば学校ないときな」
そんな感じで、俺たちはしばらく駄弁って解散した。
そして今でも、三人はたまに(かなり頻繁だが)こっちに来るようになったのだった。
次回は来週でお送りします(笑)