第七話 遠距離友情
『俺たち、引っ越すみたい』
電話越しの声に、俺は思わず固まった。
「…………は?」
間抜けな声が自分の口から出てくる。
しかし電話の主は黙ったままだ。
「どこに?」
『海外』
「国名は?」
『スイス』
一応俺の質問には答えてくれた。
だが俺はボンヤリとしながら一言。
「これドッキリ?」
『なわけないじゃん』
「夢?」
『現実。ついでに幻聴でもないよ』
「…………マジ?」
俺は少し挙動不審になる。
「え、じゃあ何?もうベーロとアクアさんには会えないってこと!?」
『死神ちゃん、落ち着いて!あと俺は!?』
「お前はどうでも良い」
『酷い!!』
電話越しに嘆くユーを放っておいて、俺は考える。
海外ということは、そう何度も会えるわけではない。
しかも長電話、複数電話(何回も掛けること)も出来ない。
つまりここでお別れ。
そんな言葉が俺の頭を過り、少し寂しい気持ちになる。
『それで死神ちゃんにお願いなんだけど』
「ん?何?」
俺はユーの次の言葉を待った。
『……………………父さん説得して?』
「…………は?」
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俺は今カラオケに来ていた。
そして目の前にはユーだけ。
「何が悲しくてお前と二人っきりでカラオケなんだよ」
「まぁまぁ、そう言わずに」
ユーは楽しそうにメニューを見ている。
「第一俺は、お前の頼みは断ったぞ」
「何で断るのさぁ。そんなに俺のこと嫌い?」
「嫌い」
「泣いていい?」
すると次に曲を入れ始めた。
俺はそっと溜息を吐く。
別にホントにコイツのことを嫌っているわけではない。
ただあまり関わらない様にしたいのだ。
何故そう思うのか。それはたぶん、迷惑を掛けたくないと思うからなのだ。
「でも俺、死神ちゃんの小説読みたい」
「海外でも読めるだろ。ネットなんだし」
「死神ちゃんが目の前で見せてくれることに意味があるの」
そう言われ、どう返せばいいか分からなくなる。
実際俺が自分の小説を見せているのは、ユーかベーロ、アクアさんくらいだ。
何故そうしているのかは、幼い頃からの習慣だからだろうか。
いや、たぶん見せて安心できるからなのだろう。
他の人に見せれば、褒めてはくれるが、アドバイスしてくれる人はいない。
俺の伯母に見せてもいいのだが、あの人は褒めてはくれないし、気にしたところを一気に言ってくるから苦手なのだ。
それに比べてこの三人は、良いところをたくさん見つけてくれるし、気になるところは一つ一つ丁寧に言ってくれる。
もし気になるところがたくさんあって、一気に言いたいときは、ちゃんとメモ用紙に一つ一つ書いてくれるのだ。
そこまで配慮してくれる人たちは、中々いないだろう。
現に俺の愛するフェルムセーテも、そこまでの配慮はしてくれない。
確かに今この三人がいなくなれば、俺にアドバイスしてくれる人はいなくなるだろう。
ましてや幼馴染。しかも数々の相談などをしてきた人たちだ。
俺の家庭事情もしっかり理解してくれている。
もし三人がいなくなって、俺はどうすればいいのだろう。
「死神ちゃん」
声をかけられ、ハッと顔を上げる。
ユーの顔が目の前にあった。
「一緒にデュエットしよ」
「え?あ、おう……」
そう言われ、俺はユーとデュエットする。
こうやって二人で歌うのも、二度とないのかもしれない。
いや、『二度と』はないが、しょっちゅうではなくなるだろう。
やはり少し悲しく思う。
「やっぱりお前って、歌上手いな」
「そんなことないよ。死神ちゃんだって歌そこらの子よりも上手いじゃん」
「中の上じゃダメ。もっと上手くなんねぇと」
俺はユーがほとんど完璧にそつなくこなすことを知っている。
だからこそ、俺はユーに追いつきたくて……
何でも真似ていたような気がする。
その度にユーが優しく教えてくれて……
俺はかなり意固地だからムカついて……
うん。やっぱり結構寂しいかもしれない。
「あ、そうだ。死神ちゃん」
「ん?」
「俺、ちょっと自分で父さん説得してみるよ」
「おう。それがいい。頑張れよ」
「えへへ。ありがとう」
そう照れくさそうに笑ったユー。
俺も一応微笑んで見せた。
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数日後、ユーからこんな連絡があった。
「海外の引っ越しはなくなったよ」
「おっ!良かったじゃん!」
「うん。ただ……」
ユーはどもりながらもこう言った。
「引っ越し先、北海道に変わりました」
「…………へ?」
どうも話はまだ続きそうだ。
続きは再来週で、お願いします。