第六話 歌の上手なお兄さん
今回はかなり短いです。
「死神ちゃん、一緒にカラオケ行こう!」
「却下。死ね」
「何で?!」
すぐさま泣きそうになるユー。
俺は無視する。
「じゃあ私とは?」
「んー……可愛いからオッケー」
「俺も女に生まれたかったぁ!!」
泣きじゃくるユーを、俺とベーロは汚物を見るような目で見る。
良い歳した男が、何を泣いてるんだか。
「金はいるか?」
「あ、いえ。俺が払うんで」
そう言ったアクアさんは、正直俺の憧れの人だ。
だってカッコいいし、大人だし、落ち着いてるし。
これで独身って言うのだから女どもは何やってるんだろうと不思議に思う。
「あと、俺からの頼みなのだが……アイツも連れていってやってくれ。うるさくて敵わん」
「……へいへーい」
俺はチラリとユーに視線を向ける。
そして指を一本立てて歌いだす。
「カラオケに行く人この指止まれ、はーやっくしーないっと切っちゃ……」
「切るなぁ!!」
ユーはすぐさま勢いよく俺の指を掴む。
ただ一つ言おう。
力入れ過ぎ!!
「痛い痛い痛い!!千切れる!!千切れるぅ!!!」
「ズルい。私も」
「ベーロやめてぇ!!」
そのあと、何とか俺の指は千切れずに済んだのだった。
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「やった、やった!死神ちゃんと、カラオケ♪」
楽しそうなユー。
先程まで泣いていたというのに、現金なヤツだ。
しかし、俺はあまりこいつとはカラオケには行かない。
というか行きたくない。
何故なら惨めになるからである。
「しーちゃん、何歌う?」
「んー、お前らとだしボカロで良いかな」
「じゃあ俺とデュエットしようよ!」
「却下」
「酷い!」
すると一番最初に歌うベーロ。
点数は九十三点代である。
「ベーロは綺麗な声してるな」
「そんなことないよ」
「次は死神ちゃんだよ」
次に俺が歌う。
点数は九十点代だ。
「ひくッ……」
「そんなことないよ?」
「良いよ、ベーロ。慰めなくて」
「じゃあ次は俺ねぇ!」
そして最後にユー。
得点は…………
百点。
「やった~!」
「次、ベーロな」
「うん」
「ちょ、無視しないでよ!!」
正直これは分かりきっていたことである。
だから俺とベーロはシカト。
ユーはカラオケの採点では必ず百か、それに近い数字しか出さないのだ。
つまり前回いった人とはこの人のことをいう。
どうもこいつには絶対音感があるらしく、次の音などを聞き分けているらしい。
「いーよなぁ。そうやって色んな特技を持っていて」
「そうかなぁ?」
「俺はちょっと羨ましいもん」
「じゃあ俺はちょっと嬉しいかなぁ。死神ちゃんに羨ましがられるなんて、幸せかも」
「キモッ」
「毒吐くのはやめて!」
するとユーは何か曲を入れると、俺にマイクを差し出した。
これはデュエットをする合図である。
俺は仕方なしにマイクを受けとる。
なんだかんだ言って、俺はこいつにちょっと甘いところがある。
それはたぶん幼馴染みでもあり、俺の善き理解者でもあるからなのだろう。
ずっと一緒にいても苦ではなかったので、今でも一緒にいるが、かなりそれは当たり前だったのだ。
そしてその当たり前が、もう少しで変わることをこの時の俺は知らない。
次回は来週!