笑いながら走った
「死ね死ね、死んじまえ!お前なんて死んでしまえぇ!」
と、この女に何度言われた事か。最初のうちは、応戦して「うっせぇ!」とか「しつこいんだよぉぉ!このクソガキがぁぁ!」等と言葉の砲煙弾雨を繰り広げていたが、最近は面倒になってきたので、、
「なんでそんなひどい事毎日言うんだよ?俺はなぁ、ぶっ壊れやすいガラスのよーな心の持ち主なんだよ。そんな事ばっかり言ってると、すぐにでも俺の心が崩壊して廃人になるぞ!」
なんて質すと
「防弾ガラスだろ」
そう冷笑しながら言ってまた俺の繊細な心に傷をつける。
「防弾ガラスでも強化ガラスでも繊細なの!ガラスってのは何でも繊細なの!」
「繊細じゃねーよ。銃弾くらっても平気な顔してんじゃねーかよ、奴等は」
「うっせぇ!言うんじゃねーよ!頑張ってんの、彼等は!」
まぁ最終的には、言い争ってしまう。しかも毎回妙な敗北感までついてくる。
そこで今回は思慮を凝らして、驚かす作戦を決行した。
パンッ、と軽い音がして背中に痛みが走る。
「痛ってぇぇ!何すんだよいきなり!」
「防弾ガラスだろ」
ガキの手にはエアーガンが握られている。顔には笑みが浮かんでいる。本当に死んでほしいと思ってしまった。
だが、作戦を遂行させるために、怒らずに真摯な顔つきで言う。
「実は今まで黙っていた事があるんだが……」
「何?」
びっくりさせてやる。驚かしやる。だが、またそのエアーガンで俺を狙撃するそうな事があったなら、今日こそ殴ってやる。モンゴリアンチョップを炸裂させてやる。
「実は前からお前の事が好きだった!……」
虚実を吐く。
「……本当?」
「ああ、本当だ!お前、Love!うおぉぉ!」
虚実を吐きながら突進。腰あたりに抱きつきながら倒れ込む。
「…!」
手首を掴んで自由を奪うてこない。妙にしおらしい。おかしい。俺の目をじっと見つめて動かない。頬が紅潮している。まるで、俺を受け入れているようだ。
「……別にいいよ…痛くしないでね…」
俺はにやつきながら、
「いいのか?やっても?」
「……いいよ」
拘束していた手首を放したがやはり抵抗はしなかった。俺はさらににやつきながら、己の両手を空にかかげて思いっきりに、
「痛!??」
クソガキの鎖骨にめがけて打ち下ろす。
「気持ち悪いんだよ!何が『……いいよ』だよ!気持ち悪!」
「……このぉ、馬鹿あぁぁ!」
逃走する俺の背中にBB弾がヒットしまくるが、今日は初めて勝利した気分になった。
痛かったが、笑いながら走っていた。