第二章 発現2
「う……。うう……」
天守奏真のまぶたがうっすらと開いた。
ぼやけて何も見えないが、頬に冷たい感触がある。奏真は床にうつ伏せになって倒れていた。
両手をつき、上半身を起こそうとすると、節々に痛みが走る。
「うぐ……。俺は……」
ようやく視界のピントが合ってきたのか、辺りがなんとなく見えてきた。
飛び込んできたのは平行に長いアーチ型の天井。奏真から向こうの壁までずいぶん距離がある。側面にはいくつものステンドグラスが並んでおり、射し込む太陽光が鮮やかな色彩に変化し、電気の代わりを為している。
空気は冷たく、荘厳な空間だ。
「教会……か……?」
ふと、背後に気配を感じた。じーっと見られているような感覚。恐る恐る首だけを動かし振り返ってみると、
「うわぁっ!!」
そこには巨大な人の顔があった。
フードを被っていて髪型は分からないが、目はくっきりとしていて、鼻筋はすっと通っている。唇は薄く小さく閉じられていて無表情。
ただ生気は感じられない。というか生きていない。死んでいるわけじゃない。全てのパーツが無機質で真っ白なのだ。
これは……。
「なんだ石像かよ……。びっくりしたぁ……」
よく見ると女性のようだ。このままでも十分美人だが、もしこの石像が誰かをモデルにしているのであれば、本人はどれだけ綺麗な人なんだろうと、奏真は思った。
(あれ?でも……)
なぜこんな低い位置に石像の顔が?それにステンドグラスからの光も、直接目に入り眩しい。
違う。石像が低いのではない。
“自分が高いのだ!”
視線を落としてみる。すると、巨大な二つの座布団がお尻に敷かれていた。
そこでようやく奏真は理解した。
「えっ? 何? もしかして今俺、巨大な像の掌の上にいんの!? ちょっと待ってくれよ、どういうこと!? 何でこんな所にいんのさ!!」
なぜだ、なぜこうなった。
訳が分からない。奏真はガリガリと頭を掻きむしった。
「そうだ、あの黒い渦!!」
目覚めてだいぶ時間が経ったことで脳内に血が巡ったのか、ハッと思い出した。
そう。自分はあの変なブラックホールに飲み込まれたのだ。
今日だっていつもの様に学校へ行き、いつもの様に咲耶と夕食を済まし、いつもの様に咲耶にキツいお仕置きを受けた。
その後だ。自室でくつろいでいた所にあの黒い渦は現れた。あいつはあらゆる物を無差別に吸収し、自分まで吸い込みやがった。
すぐに気を失ってしまって渦の中がどうなっていたとか知らないが気付いたらこんな所にいた。
数分前まで、狭い六畳の自分の部屋にいたはずなのに。今じゃこんなだだっ広い教会の、しかも石像の掌の上に座っている。
「なんなんだ、くそッ!!」
こんな現状を受け入れる事など到底無理だ。
「どうしたらいいんだよ、なぁ……?」
奏真は石で出来た女性に力無く懇願するように微笑みかけるが、応えてくれる訳もない。
ただただ女性像は優しく穏やかに、奏真を見つめるだけであった。