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第一章 消えた少年1

 下校のチャイムが鳴る。

 ここは都内から少し外れたところに存在する高等学校。

 季節は秋、という事もあり、下校時刻ともなると暗くなるのも早い。

 放課後は、クラブ活動に精を出すのもいれば、真っ直ぐ帰宅する者もいる。大体この二択に別れるが、この学校の生徒、天守奏真(あまかみそうま)は、後者の授業が終わればとっとと帰る側の人間だった。

 校舎から校門までの道のりをゆっくり歩きながら、クラブ活動に励む生徒を見る。


「青い春だねぇ。キラキラ輝いてるよ」


 一生懸命頑張っているその姿は、奏真にとって眩しく映った。


「俺も何かやっとけばよかったかな……」


 奏真は二年生。この時期に入部するのも中々難しい。


「まぁ、興味ある部もなかったしな…。」


 中学時代も、クラブ活動はしなかった。運動部にも文化部にも惹かれるものはなかった。

 今さらそんなことを考えても仕方ないか、と奏真はこれから学校の外へランニングしに行く生徒に抜かれながら、校門を出た。


 この今しかない貴重な学生の時間を無意味に過ごす少年、天守奏真。

 彼を一言で表すなら“ザ・平凡”。

 勉強の成績は、赤点を取るまでにはいかない中の下程度。運動も出来るわけではない。容姿もいたって平均的……、やや童顔。

 性格もおとなしい。


 当然、彼女なんていないぜ、コンチクショーッ! というのは奏真本人の談。


 まぁ唯一、特技といえば空想すること……。それも、最近はあまりしなくなっていた。どちらかというと、一から創り上げるのではなく、マンガなどを見て『ああだったらいいな』とか、『こうだったらいいな』そんなライトな想像になっていた。


 しばらくして奏真は、授業中不覚にも居眠りしてしまった時に見た夢のことを思い出した。


「たまに見るんだよな……、あの夢」


 奏真が見たあの夢とは昔の記憶。

 母親に自分の空想話を聞かせていた思い出の記憶。 ただ、あまりにも昔なためにその内容がだいぶあやふやになっていて、うまく思い出せなくなっていた。


「母さん……」


 彼の母親は十年前、奏真に何も告げず突然消息を絶った。

 置き手紙もなく、原因もわからない。警察に届け出たが、見つからない。


 七歳の奏真は、何度も願った。

 早く帰ってきて、と。

 しかし、幾ら願っても、帰ってくることはなかった。

 十年経った今でも、その願いは受け入れられていない。

 奏真が空想をしなくなった原因はそこにある。

 空想をしても、もうそれを伝えたい人が傍にいないのだ。


 ほどなくして、奏真は親戚の家に預けられる。元々父親はいなかったので、頼りはそこしかなかった。 幸い、受け入れてくれた人物は、彼を祝福してくれた。そのお陰で、奏真はすくすくと育っていった。


 奏真が、今までの事を思い返していると、家が見えてきた。

 そこへ、急に冷たい風が吹いてくる。


「寒いなぁ……」


 突き刺さる様なその冷たさは、奏真のポッカリ空いた心に、さらに追い討ちをかけるのであった。

 


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