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出会い-2

パニックになっている私を見て、クスクスと笑いつつも彼の手は私の小さな手をしっかりと握っている。

ついでに言うなら荷物は人質ならぬ物質として捕獲されていた。

逃げようにも逃げられない。

というか逃げるという選択肢は最早無い。

戸惑うように後ろを振り向くと、彼女達は手を振って「達者でなー」と言っていた。

これは明日きっと…いや確実に詰められるだろう。


唖然としながら連れられた場所は、さっき彼が降りてきたワゴン車。

押込められるように車に乗ると、静かに動き始めたのだった。


「ごめんねー、移動車で」

「はぁ〜ようやっと君を見つけられたぁ」

「こんなに近くに居たんだねー」


目の前で陽気に笑い、しゃべる彼がいるのに、どこかフィルターがかかったかのように見えてしまう。

例えばドキュメンタリー番組など、密着取材してる映像を見ている感じに近い。

ワゴンの窓はフィルターが貼られているのに、何故か彼はサングラスをかけ直していた。

目線が分からない分、自分に対して話かけてくれているのかさえ理解するのが危うい。


「って、聞いてる?大丈夫?」


あまりに私がぼーっとしすぎてたのか、はたまた話す事がなくなったのかは不明だが、私が固まったまま反応しない事に気付いたようだ。

片手をひらひらとふり、こちらを覗き込むように見てくる。

勿論、サングラス越しに。


「え?あ、はい。……HIDEAKIさんです…よ…ね?」

「はい、HIDEAKIです。こんにちはー」

「こ、こんにちは」


一連のやり取りに何故かニコニコ笑っている彼の左手は、既に私の髪の毛を撫でていた。

今日の講義でお京さんにカットされた、短めの髪を。

その手は大きくて、包み込まれている様に感じる。


髪から手を離し、サングラスを取って居ずまいを整え、コホンと一つ咳払いをした彼が聞いてきた。


「あのね、急な話で申し訳ないんだけど、付き合ってくれるかな?」


少し顔を傾げ、聞いてくるその様は何というか……可愛らしい。

この後休講でバイトも無いから大丈夫か、と瞬時に脳内のスケジュール帳をめくる。


「…別にいいですけど、私でいいんですか?」

「勿論!君じゃなきゃだめだから!」


大きく頷いてにっこり笑うその笑顔にキュンとしつつも、私でなければならない用事というの物に全く見当がつかない。


「はぁ…。で、何をすればいいんですか?」


その一言に彼は瞬時に体を固まらせて、凝視してくる。

何かおかしい事言ったかな…?


「えーっとえーっと、それ本気で言ってる?」

「え?はい。」

「付き合うって、お買い物でも、カラオケでもなくって、恋愛しましょう?ってことなんだけど」

「………は?」


この流れで思考が停止しないのなんておかしい。

目の前で起こっているこの状況に付いていけない。

彼が話している言葉は異世界の言葉なのではないのだろうか。


「いや、うん。だから急で申し訳ないんだけど」

「いや、え?付き合うってそういう…」

「そう、そういうこと。僕と恋愛しませんか?」

「いや、無理です、無理。無理無理無理…」


首を大きく振って、両手も大きく振って。

体全体で無理である事を表現する。

一瞬凄く切ない目をさせた彼だったが、すぐに表情を変えた。


「君が僕のFCに入ってる事も、明後日のライブに参加する事も知ってるよ。勿論、君の名前も」

「は……い……?」

「気まぐれとか、遊びとか、そういうんじゃないよ」

「いや、それだったら尚更無理ですけど……本気、なんですか…?」

「うん、本気も本気。だから、市井響さん。僕と恋愛しませんか?」


にっこり笑ってるけど、目は真剣。

いつの間にか両手は握られてる。


「す…すぐに返答はしかねます」

「そうだよね…うん、そうだとおもう…。でもさ、今彼氏いないでしょ?」

「は?」

「彼氏。特定の人、いないでしょ?」

「え、なんでそんな自信満々なんですか…」

「んー勘?僕、勘がいいからねー」


にっこり笑われるけど、目はいたずらっ子がするような目をしてた。

彼が勘がいいのは知っている。

恐ろしい程の晴れ男だっていうのも。

でも徹底した下調べもする努力家であることも知ってる。

絶対に無責任な発言をしない、有言実行な人だという事も ———


「………いいですよ」

「え…?」

「だから、いいですよ」


「諾」を口にしたら憑き物が落ちたかのように、楽になった。

ウジウジ考えるのはやめる。

悩んだらとりあえず一歩踏み出してみる。

それを教えてくれたのは、目の前にいる彼本人だから。


「本当?…本当に…!?!?!?」


さっきの私みたいに目を大きく開いている彼を見て、思わず意地悪な気持ちになる。


「別に撤回してもいいですけど…?」


ニヤリと笑ってしまうのは仕方の無い事。

慌てるポーズをしつつも、彼には伝わっている。


「いたずらっ子も嫌いじゃないぞー、うん。かわいい。」


私の頭を撫でながら、小さく呟いたのが聞こえてきたけど、聞こえなかった事にした。


個人情報って…個人情報って………。

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