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出会い-1

親戚の家から飛び出すように上京して、手に職をつけるという目的を果たすために入った美容専門学校。

昔から手先は器用だったから、学校の先生に勧められるがままその道を目指す事にした。

何の目標も無く、ただ環境を変えるということはしたくなかった。

自分一人で生きて行くための武器。

それを手に入れる必要があったから。


奇抜な髪型やファッションをしてる同級生達。

田舎の、どの生徒も同じような髪型をしてお仕着せの制服に身を包んでいた自分にとって、衝撃以外の何者でもなかった。

どこか異世界にタイムスリップしたのかと思う程の衝撃。

でも。

出会う人出会う人、皆優しい心と熱い志を持ってる人達だった。

その事に心底ほっとしたのを覚えている。


情報発信の地、渋谷。

その独特の空気や、速過ぎる人の流れに身を委ねる事ができるようになってきたのも最近の事。

もうすぐ上京して半年にもなれば、さすがに慣れる。

同時にクラスの人間関係もそれなりの形になり、一緒に過ごすようになった友達は皆、個性的な人達だ。


今もそう。このテーブルだけ異彩を放ってる。

代官山にできた新名所に、明らかに場から浮くような容姿をした女性が4名。

勿論、私が一番落ち着いてるので頭数から除外しているけど。


左右アシンメトリーにした前下がりボブの髪型をして、美味しそうにタバコを吸っているのが舘岩草子。

きつめのパーマをかけ綺麗なグラデーションのカラーをしている髪を持つのが柴田香織。

セピア色に染め上がったショートカットで、眉間から下は刈上げてる不思議な髪型をしているのが三枝美和。

そして真っ黒なスーパーロングの髪に所々鮮やかな赤メッシュを入れてるのが西園寺京。

揃いも揃って長身で美人さんばかりだけど、中身は竹を割ったような人たちばかり。

身長の小さな私は彼女達に囲まれると埋もれてしまう。


「そういえばさ、安斉先生、彼氏に振られたらしいよ」

「あー、だって振られるような感じじゃん」

「あのスーツの合わせ方おかしいもんな」

「仮にもデザイン科も担当してんだからさー」


大抵集まると話す内容は学校の噂話だったり、恋愛話だったり。

因に、安斉先生とは男性。

ゲイである事は公然の事実であって、本人も認めてる。

スーツの合わせ方、確かにちょっと奇抜な合わせ方するなーって思ってたけどセンスの問題なのか、やっぱり。

なんて、彼女達が話す世間話に耳を傾けながらふと通りに目をやる。

そしてそのまま一点を見て固まってる私に、美和が声をかけてきた。


「って響聞いてる?ってか固まってるよ、この子」

「おーいひびきー?」

「呼吸確認してあげて」

「ってかどこ見て固まって……」


4人が私の視線を追って同じように固まるのが分かる。

その視線の先には、フルスモークのワゴン車が止まっている。

そこから交通量の少ない道路を、颯爽と横断してくる一人の男性。

顔にはその半分を占める大きめのサングラス。

今日の空のように綺麗なスカイブルーのVネックTシャツから見える腕は、適度に筋肉が付いていてすらっと長く綺麗。

黒の細身パンツをエンジニアブーツにインして歩いてくる様は完全にモデル。

店の手前にある歩道を斜めに横断し、迷いなくこちらに向かってくるその人は、HIDEAKI本人だった。


「え…まじ?」

「うっそ…」

「あれってさ…」

「おお…」


彼女達が口々に零すそれに耳を傾けながらも、目は瞬きを忘れたかのようにその人を追う。

うつむき加減で歩いていた彼が顔を上げ、ふと口に笑みを浮かべると、サングラスを取る。

それだけで絵になるのだ。

周囲にいる他の人たちもほぼHIDEAKI本人であることに気付いている。

ザワザワとした声の中に黄色い声すらあがっているのだから。


どこか漠然と状況を理解しつつも、目を離す事も体を動かす事もできない。

そう、例え自分の目の前に立たれていても。


「ここ、いい?」


向かい合うように配置されている大きめの3人掛けソファ。

丁度私の横が空いている、その場所を指差し彼女達に声をかけていた。


「「「「どどどど、どーぞ」」」」


どもるのも仕方ない事だと、頭のどこかで冷静につっこんでいる自分。

無駄な動作も無く、ソファに足を組んで座る様子を目で追っている自分もいた。


「こんにちはって目が落ちそうな位おっきくなってるけど、大丈夫?おっこちない?」


おーいと目の前で手を振られ、漸く思い出したかのように瞬きを繰り返した。


「え?え?」

「混乱してるねー。僕が誰だかわかる?」

「え?あ、はい?え?」


アホの一つ覚えか、と自分につっこみつつも、「え?」しか出てこない口。

あぁ、今とても混乱しているのだ。それだけは間違いない。


「ん〜〜〜。今日ってちょっと時間貰えたりする?」


首を傾げてこちらを見てるHIDEAKIに、私はぽーっとしてしまって答えられないでいた。

返答がない私を見て、ちらりと腕時計を確認する。


「彼女、借りてっていいかな?」

「「「「どどどど、どーぞどーぞ」」」」


彼女達が揃って両手を差し出すように私を差し出していた。

彼はそれを見て満遍の笑みで頷くと、「荷物はこれ?」と私の荷物を手に取り、私の手も取っている。


「え?なんで?え?え?」


引っ張り上げられるように立たされ、手を引かれた私は見事にドナドナされる事となった。







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