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prologue

※以前「calf room 、public market」にて公開していた「カレカノ」を大幅改稿しました。細かい設定を盛り込んでの物になります。以前の作品を読んで下さった方にも楽しんでもらえるよう頑張ります。

季節は入梅前の5月下旬。

GWの喧噪は落ち着き、空は初夏を迎える準備をしている。


ジメジメしているよりもカラッと晴れていて、日差しも適度に強い。

木々の緑も日差しに映えて、目も楽しい。

クラスの友人数名とランチに出たのは、そんな天気のいい日だった。

その日最後の授業が先生の都合で急遽休講になったので、ちょっと足を伸ばして新しくできたカフェへ。

ランチ時間からは少し外して向かったものの、出来てまだ日が浅いからなのか店内は満席。

道路に面してはいる物の、大きな木々に囲まれている外のソファ席は公園で食べているようで気持ちよかった。




2年前。

大好きだった父と母を一瞬で失った。

気付いたら警察からの説明もお葬式も納骨も風が吹くように終わっていて、親戚をたらい回しにされる事が目の前に置かれている唯一の事実だった。

涙なんて出るわけがない。

それ程あっという間の出来事だったのだ。

気持ちを聞いて貰えるような彼氏も、友人もいない場所で、心のよりどころだったのはラジオ。

そしてパーソナリティだったミュージシャン・HIDEAKI。

成績を落としても、取りすぎても嫌味を言われる中、進学に影響が無い程度でほどほどの成績を保つ。

学校に行かせてやってるんだ、と直接言われた事は無いが、目線や空気で伝えられるそれは、経済力のない自分にとってはどうしようもない事だった。

成績を保ちながら、嫌味を言われない程度にバイトをしてお金を入れて。

虚無感が続く日々の中で、眺めていたのはアルバムだった。

合皮でできた少し厚めで重いそれをめくると、そこには笑顔だらけの在りし日の写真達。

笑顔なんていつしかなくなっていた。

それに気付いても、泣く事はできなかった。

というよりも涙の出し方を忘れてしまったのかもしれない。

喜怒哀楽の出し方を忘れ、能面のような自分。

なんで私だけ生きているんだろう、そう何度も思い、ただ時間をやり過ごしていた。


そんなどうしようもない時に、ラジオでHIDEAKIが言った一言が、自分の中の”何か”を揺り動かした。


——— 自分の背中を押すのはさ、結局自分なんだよ。ただ、俺はそんな背中をバチーンって叩いて一緒に走りたいだけ。


話の発端は、チャレンジしたい事があるリスナーが、どうすればいいかを相談していたかなんかだったと思う。

いつも陽気にきついジョークで切り返し、笑いを取る彼が発した言葉は、「ん〜〜〜〜」といううなり声だった。


「ん〜〜〜〜。

 これさぁ、俺が決める事じゃないと思うのね。

 無責任に大丈夫、やっちゃえ!なんて言えないし。

 お前なら出来る!なんて言える程お前の事知らないし。

 ん〜とさ。

 やりたい事ってさ、基本どっかで自分が納得してるもんじゃん。

 許す許さない、環境だったり条件だったり、色々あると思うんだけどさぁ。

 本当にやりたいって思った事だったら、どんな状況でもできちゃうもんなんだって。

 気付いたら跳ね返してたりしちゃってるもんなんだって。

 結局さ、自分の背中を押すのは自分なんだよ。

 俺はそんなお前らの背中を半笑いしながらバチーンって叩いて一緒に走りたいだけ。

 そういう応援の仕方じゃだめ?

 っていうか俺、今すげー良い事言ったよね?」


茶化してるようで、それでも声質は真剣で。

あぁそうか、って腑に落ちるっていう感覚は、こういう事なのかもしれない。

今まで動かない過去に縛られて、その足下だけしか見ずにイジイジと悲観してた自分が、なんかバカらしくなった。

やりたい事ってなんだろう?自分はどうしたい?どうすればいい?


下を向いていた目線を少し前に戻しただけで、こんなにも世界が広がる。

多分、彼が伝えたい事の1/10も理解できていないかもしれないけれど。

彼が電波に乗せて伝えてくれた温度で、初めて涙を流す事ができた。

頬に流れるそれは、とても熱かった。


母は本当に良く笑う人だった。

父はそんな母を暖かく見守る優しい、大きな人だった。

その中で育った私が、こんなに悲観的に自分を見てるなんて知ったら、両親は心配するだろう。


今はまだ、やりたいと思う事は分からない。

でも、この家からは出たい。

この、今の環境を変えたい。

じゃぁ出るために何をすればいい?どうすれば出れる?

環境を変える努力って?


その時、自分の中にある何かが、カチリと音を立てたのを感じた。

いよいよスタート!

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