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七対七 ビクター対クリス~テイルズ対ウォルフ

エリアの統括理事会のビル、その最上階、一ヶ月で建てなおされた最上階で、サイモン=ロードはため息をついていた。

「どうかしましたか、理事長?」

「うん、トップでありながら何も出来ないのが心苦しくてね、結局私は傍観者だ」

秘書のアリアに問いかけられ、サイモンは大変心苦しそうに答えた。

またか、と、秘書は心の中で呟く。

この人が言うことは奇麗事ばかりだ、しかも奇麗事で世界は成り立つと本気で信じているに違いない。

「順調に、敵は殲滅しています、先方の千人の改造兵は例のドラゴンのような生物に引っ掻き回され、算を乱したようですが、今、一番小隊隊長セイファ=レオ=ミカエリが向かっています。この戦争の終結は間近かと」

「ああ、そうだといいのだがな・・・」

ビル越しに見える、戦場を見ながら、サイモンは呟いた。

「雲行きが怪しくなってきたな・・・」

空に暗雲が立ち込め、太陽を隠してしまっている。

「雨が降らなければいいのだが・・・」

悪い予感を押し殺すように、祈るように。

新しいリーダーは、そう締めくくった。


 海岸沿いに密集している大部隊を軽く蹴散らしながら、黒い物体は辺りを見渡していた。

グレンにとっては、そんな動作は、敵を蹴散らすのに支障をきたすようなことではなかった。

そんなグレンに、大型の剣を手にした兵士が後ろから斬りかかってきた。

地上十メートル辺りで空に留まっていたグレンの首筋を狙う一撃。

だが、グレンはそちらを見もせずに尻尾をはらって迎撃した。

黒い尻尾が鞭のようにしなり、強かに兵士を叩き伏せた。

(戦意を失わないのは見上げたものだが・・・。無駄に命を捨てることもないのではないか?)

地面に叩き伏せられた兵士に問いかける。

(まあ、聞こえるわけもないか・・・)

そう思いなおし、気絶した兵士をチラッと見て、その場を後にしようとした。

あらかた敵は殲滅した。

こちらのsin達も、敵によって殲滅された。

どちらも計画通りだ。

ホムンクルス1stにとって、失敗作のsinは完璧な捨て駒だった。

ここで全員に死んでもらうのが一番なのだ。

(最後までレナはその決断に反対していたが、まあ、後々のことを考えても、ここで全てを処分しておくのが一番だろうな)

グレンは、そのまま飛び上がり、ホムンクルス1stとレナの居場所へ向かおうとした。

だが、思いとどまり、地面に降り立ち、両手を地面について、薄く笑った。

(お前が立ちはだかるか・・・)

その視線の先には、雄々しきライオンをイメージさせるような風貌の男が立っていた。

百戦錬磨を思わせる眼光、肉体、そして、風格。

セイファ=レオ=ミカエリ、第一小隊の隊長にして、事実上エリア最強の戦士。

桜色の太刀を鞘から抜き放ち、構えのようなものをとらず、セイファは、突っ立っていた。

だが、隙があるとは思えない、その刀の届く範囲に入った時点で痛手を負いそうな殺気が滲み出ている。

「お前が一匹いれば、エリアはものの一時間で壊滅させられるだろう。

 ここを通すわけにはいかない、ユリアを守るために、サーシャを守るために」

(分かるぞ、お前の力は、俺とそう変わらない、もとはただの人間がよく、そこまでの力を手にしたものだ。お前を殺すのは骨が折れそうだな、手加減ばかりで退屈していたから、嬉しいぞ)

グレンの血走ったような色合いの眼が細められる。

そして、グレンは咆哮を上げた。

地面が、空気が振動する、その場にいた全てが震えだしそうな迫力。

だが、セイファは瞬き一つしなかった。

ジャキッ!と刀を剣道の剣士のように構え、正眼に敵を捉える。

直後、激突は始まった。セイファが跳びあがり、刀を振りかぶる。

桜色の刀身が光に反射し、鮮やかなラインを描く。

グレンは大きな尻尾を振り上げた。

ガキイイイイン!!と二つの物体が衝突する音が聞こえた。

凹凸のあるグレンの尻尾と、桜色の太刀が擦れあって規則的な周期で金属同士がぶつかり合うような音が聞こえた。

だが、この攻撃には決定的な優劣があった。

地に足をつけたままのグレンと、空中で剣を振ったセイファでは、地面に足をつけたグレンのほうが有利に力を加えることが出来る。

あえなくセイファは吹き飛ばされ、海岸沿いの砂浜に叩きつけられた。。

エリアを取り囲む人工的な砂浜、堤防は地震による波にも対応できるように高く作られており、エリアの都市自体も高く作られてある。

この砂浜自体は、リゾート用のものであり、戦地になることを想定したものではなかった。

ここは兵士達に息抜きをさせるためのリゾートであり、あんな危なっかしい、砲台が建てられることはなかったのだ。

そんな娯楽用に作られた場所は、いまや戦場へと変わっている。

セイファは、何事もなかったように立ち上がり、体についた砂を払った。

堤防の上から、ここまで、二十メートル近く吹き飛ばされたのだった。

セイファは力では勝負にならないことを再確認した。

最初から分かりきったことだが、体格が違いすぎる。

今の攻撃で、地に足がついていても、結果は同じだっただろう。

セイファは、立ち上がり、服についた砂を払いながら。

次の瞬間、そこから消えていた。

変わりに砂埃が舞った。

その砂埃がグレンの視界を遮った。

(下らん、この程度で俺の眼を誤魔化せるとでも思っているのか?)

その言葉と共に、グレンは飛翔した。

あたり一体を消す、竜の息吹。

その正体は攻撃の意思を感じ取った粒子が破壊の力を得、高濃度に圧縮されたものとなって跡形もなく、触れたもの全てを消してしまう。

地上から、三十メートル程の所に飛び上がり、グレンは青い粒子を体中から放射し、それを一点に集めていく。

そして、放った。

壮絶な音と共に、砂埃が吹き飛ばされ、そこに隠れるセイファを炙り出すために。

案の定、セイファは、姿を現した。

しかし、グレンの真後ろにだ。

三十メートル近い跳躍をし、セイファは桜色の太刀を一振りする。

慌てて振り向いたグレンの片目を、セイファの太刀は捉えた。

鮮血が舞い、痛みに呻く声が聞こえる。

グレンはセイファを振り払うように、右の鋭い爪のついた手を振り回した。

セイファは、それを何とか桜色の太刀で防ぐと、その勢いで地面に落下した。

ズザザザザ!と、砂浜に手をつき、何とか地面に叩きつけられるのを阻止したセイファはゆっくりと、痛みに呻く竜を見上げた。

グレンは、何とか痛みに耐え、セイファを一瞥した。

なるほど、この人間の相手をするには、自分はやや分が悪いらしい。

そう悟ると、グレンはセイファの跳躍できない、はるか彼方に飛翔した。

そして、今度は、先程の比ではない量の粒子を体から放射した。

それを一点に集めていく。

グレンの首が左右に揺れ、巨大な球体のようなものが出来る。

圧縮した粒子の塊だ。

それを、下に向けて打ち出す。

直径十メートルほどのエネルギーの塊が、セイファに向けて打ち出された。

その球体は、光線に形を変え、地面にぶつかると、爆発した。

壮絶な爆発だった。

音が消え、光が走り、その範囲にいたもの全てを消し炭にする。

セイファも例外ではない。

グレンが見下ろす地面があった場所には、今や海水が流れ込んでいた。

直径百メートルほどの範囲を、消し飛ばしたのだ。

(レナの為だ、許せよ、人間)

届くはずのない言葉を、それでも心の中で呟く。

勝敗は決した。

セイファは跡形もなく消えたのだ。

ハザード、ドルク、セイファ、これで如月総司の計画に携わっていた人間が全て消えた。

それでも、ホムンクルス1stの計画は止まらない。

レナを兵器として扱う可能性があるもの全てをなぎ倒すまで。

グレンは、ホムンクルス1stの元へ急いだ。

エリアを完璧に潰すには、グレンの力が必要不可欠だった。


 ビクターは手に持った大きな槍、三又で、刃の部分が金色に塗られた、おおよそ近代的とは言えない武器を構えて、敵が飛び込んでくる一瞬を狙っていた。

ビクターは動かない、対して、クリスも動こうとしない。

(エスコートしてくれるって言ったのに、何も動かないのは失礼じゃなくて?)

「悪いけど、これが俺のエスコートの仕方さ」

(あら、女性が飛び込んでくるのを待っていたら、何年たっても恋人なんか出来ないわよ?)

「分かってる、だから俺には恋人が出来ないんだろうね」

ビクターは苦笑いしながら、大柄な体をその姿勢に保ったまま、苦笑いを浮かべた。

「もちろん、このまま動かないって訳じゃないけどね」

次の瞬間、ビクターは動いた。

足を折り曲げ、精一杯のばねで、クリス、白い馬に大きな翼がついたような生物に向かっていく。

そして、槍がクリスの体を貫いた。

だが、ビクターは首を傾げる、手ごたえがない、出血もない。

(それが私のたどり着いた答え、幻惑)

「例の粒子の力か!」

ビクターは辺りを見渡しながら、叫んだ。

(面白いものを見せてあげる)

心の中に、声が響いたと思った瞬間、変化は始まっていた。

ペガサスのような生物が、何匹もビクターの視界に現れたのだ。

「!?」

ビクターは、槍を構えなおして、辺りを見る。

取り囲まれている、四方八方に、幻惑が敵の姿を映し出しているのだ。

空にも、地面にも、それらは、存在していた。

そして、戸惑っていたビクターの背中に衝撃が走る。

クリスの攻撃だ。

大した威力ではなかった。

普通のsinと変わらないような、決定打にならない一撃。

だが、反撃しようと思った瞬間には、敵は他の幻惑に紛れ込み、その姿を隠していた。

「く!ロトだったらこんな状況でも対処できたかもね」

決定的に分が悪いことを、ビクターは悟った。

(あらあら、弱音を吐く男は嫌いだけど?)

そんなビクターをおちょくるように、声が心に響く。

「仕方がない、多少乱暴だが、一匹ずつ潰していく!」

ビクターの決断は早かった。

高速で動きながら、幻影に対して、二メートルほどもある槍を振り回していった。

幻影がわずかに揺らめくが、本体には当たっていない。

その攻撃の隙を突き、クリスは、攻撃した。

単純な体当たりだ。

そして、ビクターがよろめいている間に、幻影の中に紛れ込む。

「やはり、待つのが一番かな・・・」

ビクターは幻惑に紛れ込むクリスに対処できないことを知ると、先程の戦略に切り替えた。

カウンター戦術だ。

我ながら似合わないことをしてしまったと思う、トライデント(三又の槍)は、待つことに特化したものだ。

一瞬の隙を突いて、相手を倒す。

相手が動くのをひたすら待つしかない。

そして、クリスは決まって後ろからしか攻撃しない事を彼は見破っていた。

密かに後ろに注意をやり、動く気配がした瞬間、ビクターは槍を後ろに向かって振り回した。

正確に相手の体を捉え、その体を通過する。

「?」

しかし、手ごたえが無かった。

空ぶったような感じしかしない。

そして、再び後ろから衝撃が走る。

ビクターは前のめりに吹き飛ばされた。

普通に攻撃だけでよろめいたのではなくて、やや前傾姿勢だったビクターのその勢いを利用して吹っ飛ばしたのだ。

(残念ね、それじゃあ私の相手にはならないわ)

「そうみたいだね、少し乱暴だけど、こうするしか無さそうだ」

その言葉と共に、ビクターの体から光が噴出される。

黄色い光だ。

その光に包まれながら、ビクターは幻影を一つ一つ見た。

「俺のニルヴァーナは、第六感的な能力が高められるみたいなんだ。

 ようは運任せだけど、やってみるしかないよね!」

ビクターは跳躍した。

一直線に、本物を見破ったわけでもなく、ただ、勘に近い形で真っ直ぐにクリスの元へ槍を突き出した。

結論から言うと、それは正解だった。

完全に意表を突かれたクリスは、トライデントを首筋に刺しこまれたのだ。

ビシャアア!っと血が辺りに撒き散らされる。

勝敗は決した。

(ふふ、いいエスコートだったわ)

その言葉と共に、幻影は全て消え去った。

「運良くそうなってしまっただけさ」

そんな風に言葉をやり取りし、倒れたクリスを見、そして、別の戦場を、ビクターは見た。

「イグナがもしも負けたら、俺達が全員で神谷士郎を止めないといけない、君には悪いけど、看取ってやることは出来ないな・・・」

(あら、看取ってもらう必要なんてないわ、私は今、とても嬉しい死を迎えているのだから、来世の私にあったら、もうちょっと優しくエスコートしてあげてね)

「うん、そうするよ」

ビクターは、短く答えると、イグナの元へ向かった。


 テイルズは、炎のような模様が描かれた幅広の剣を持って、市街地を走りながら、ビルを隔てて向こう側にいる敵の場所を探っていた。

ビルとビルの隙間から、突如大きな狼のような生物が飛び出してきて、テイルズに挑みかかってきた。

その白い鬣が残像を残すほどの速さで、ウォルフはテイルズの喉元を狙った。

右の爪振り下ろされる。

剣を盾にする形で、テイルズはその攻撃を凌いだ。

顔半分に刻まれた、炎のような刺青、口元に刻まれていたそれがやや歪んだ。

それは笑みだった。

ウォルフは飛びのいて、身を低くかがめながら、やはり口元を歪ませた。

これも笑みだ。

「今のは小手調べだよな?もちろん」

(ああ、心配するな、次はこの程度の速さではない)

ブオンッ!と虫が羽ばたくような音と共に、ウォルフは消え、次の瞬間、先程を遥かに上回るスピードでテイルズに喰らいついた。

どんな地面の蹴り方をしたのか、それは判然としないが、テイルズは何とかそれに反応した。

幅広の剣をもう一度盾のように使い、迫り来る二つの腕と、牙から逃れ、剣を押し付けるように力を入れ、敵を弾き返した。

ウォルフは、身を翻すと、もう一度地面に足をつき、虫の羽音のような音と共に、もう一度テイルズに喰らいつく。

そんな繰り返しが何度も続いた。

どちらも決定打を出せない。

ここで、その均衡を破ったのはテイルズだった。

今度の突進は、剣で受け止めるのではなく、避ける。

だが、体が反応についていけず、やや遅れたタイミングのせいで、テイルズの左肩をウォルフの爪が抉っていた。だが、この瞬間テイルズは大剣を片手で真横に薙ぐように振るう。

二人の体から血が流れ出た。

テイルズは左肩から、ウォルフも左肩だ。

テイルズの軍服は破け、左肩がはだけていた。

見ると、どうやら、腕一帯に炎のような刺青がされているらしく、はだけた部分には、顔と同じ模様があった。

対するウォルフは、純白の鬣を赤い血で濡らしている。

まるで白い雪原に血が舞ったかのような様相だ。

お互いに、自分の傷跡を見て、しばし沈黙した。

その場が静まり返った。

血がどんどん流れ出る。

深い傷をお互いに作ってしまったようだ。

だが、その沈黙はいつまでもは続かない。

先に動いたのはテイルズだ。

赤い装飾の施された剣が陽炎のよに揺らめき、ウォルフの遠近感を定まらなくさせる。

だが、その程度のことで対処が出来なくなるほど、ウォルフも弱くはない。

直ぐにその場から飛び退いた。

テイルズの振り下ろした剣が地面に当たり、コンクリートが砕ける音がした。

(そろそろ、ニルヴァーナを使ってはどうだ?)

「いいだろう、後悔しないのならばそれで・・・」

テイルズは叫んだ。

赤い光がテイルズの体を包み込んでいく。

ウォルフもまた、蒼白な光に包まれていた。

「ふん、そちらも似たようなことが出来るんだったな」

(少し違うぞ、この光は生物の枠組みを超えたという証、そして、この粒子は発散するものの思念に反応して、性質を変える、お前さんは、その力の使い方を分かっていない、ただ粒子を垂れ流しているだけだ。それをコントロールしているわけではないということだな)

「ふん、だからといってそれが勝敗に直結するとは限らない、行くぞ!!」

二人は、同時に地面を蹴った。

交差は一瞬、飛び散った血液が光に照らされ、鮮やかな色彩を帯びる。

白く巨大な狼は倒れた。

テイルズは、剣を杖のようについて、倒れるのを阻止した。

「俺の勝ちだな・・・」

(フム、そのようだ)

狼はゆっくりと眼を閉じ、穏やかな顔で答える。

「俺にはまだやるべきことがあるからな・・・、この場は一旦去らせてもらう」

独り言のように呟いて、テイルズはその場を後にする。

向かう場所はもちろん、他のメンバーと同じ場所だ。


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