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七対七 ロト対ユニ

 仮面の男と、イグナは剣を何度も交わせ、言葉をぶつけ合っていた。

「何でだ!何でなんだ!士郎!なんで、そっちがわに付いた?」

「お前には言っておこう、このエリアを潰すためだ!」

「なんでそんな結論を出した?なんの為に!?」

上段から剣を振り下ろし、それを受け止めたホムンクルス1st、士郎と鍔迫り合いを演じる。

「お前が戦う理由と同じだ、妹を守るため!」

言葉と共に、ギリギリと金属同士が擦れる音がし、剣と剣が火花を散らし、ホムンクルス1stの剣がイグナの剣を弾き返した。強力な腕力で、イグナの剣を弾き返したのだ。

「っ!」

イグナは、吹っ飛ばされながらも、違うビルに跳び移り、落下を防いだ。

ズザザザと、アスファルトを擦る音が聞こえ、イグナは必死に地面に手をついて前を見据えた。

見ると、士郎がこちらのビルに跳び移り、銃を撃ちながら、イグナに襲い掛かってきている。

イグナは、その銃弾をその場から跳び下がって交わすと、同時に跳躍し、空中の士郎と剣と剣をぶつあわせた。

空中で三度、身を捻りながら、剣をぶつけ合わせる二人。

ガン!キン!ギイイン!という音が響き、二人の体が反作用を受けて空中でよろめいた。士郎は不可解な浮力を使って、空中に浮き、落下を阻止し、イグナはビルの屋根の端を片手で掴んで這い上がった。

二人はもう一度ビルの上で向かい合い、雄たけびを上げながら斬り合った。

ぶつかり合った剣、ルシフェルスキアーとセラフィーブロクスが唸りを上げた。

それは風を切る音だ、まるで動物の鳴き声のような二つの音は共鳴するように響きあった。

その刃と刃がぶつかり合い莫大な音、莫大な衝撃が辺りに波及する。

ゴワッ!と、空気が震える音がする。

比喩ではない、本当に空気が震えたのだ、それほど、二人の力は常軌を逸していた。

もう一度、二人は異様な唸りを上げて振りかぶられる武器をぶつけ合った。

先程と同じ現象が巻き起こった。空気が震え、莫大な音を辺りに響かせる。

しかも、それが連続で起こったのだ、二人が何度となく剣と剣をぶつかり合わせたのだ。

その音は、衝撃は、何度となく爆発が起きたような感じだ。

見る人が見れば、それを嵐だと思ったかもしれない、雷が連続で落ちたのだと思う人が居たかもしれない、ある意味、それは間違いではない、紛れもなく、それは人智を超えた化け物が起こした嵐であり、雷だったのだから。それほどの、衝撃が連続で辺りに伝わっているのだ。

だが、人智を超えた二人の化け物は未だに本気を出していなかった。

言葉を交わすほどの余裕がまだ二人にはあったのだ。

「妹のためっていうのはどういうことだ?」

「言葉の通りだ!」

斬り合いながら、剣をぶつけ合いながらも、ウォーミングアップとでも言うように二人の言葉は止まらない。

「俺の妹、レナを助ける為、その為にはエリアという組織そのものが邪魔なんだ!!

 だから、どけとは言わない、お前にもこの街を守る理由があるのは分かっている。

 言葉をぶつけ合っても意味はない、言葉をぶつけて、分かり合えるような次元で事は進んでいない、お前にも守りたいものがある。俺にも守りたいものがある、それだけで十分だ」

黒い銃剣を左に振りかぶり、勢いをつけて、振り回しながら、士郎はイグナはそれを受け止めたイグナに静かにそう告げた。

ここで、イグナはフッと笑った。

武器の勢いを受けたまま、その勢いを利用して後ろに下がり、距離を取って、直後、大きな声で笑いだした。

「ハハハハ!そうだよな、やっぱ変わってねえじゃん、シロー、今も俺と前に戦ったときも、お前は何かを守りたい、だけど、その正体が分かってなかった、でもその正体が遂に分かったってことか!

 でも、ユリアはどうした、ずっとあの娘の事を守りたいんだと、俺は思ってた、あの娘の事忘れたのかよ?シロー」

「お前が気に掛けることじゃないさ、手は打ってある」

「そっか、じゃあ、その仮面、外せよな、本気で戦うなら、そんなもん必要ねえだろ!」

「・・・ああ、そうだな」

そう言って、ホムンクルス1st、神谷士郎は仮面を外し、ビルから投げ捨てた。

その素顔がさらされる、紛れも無い、親友の顔。

「それじゃあ、いくぜ、こっからは本気だ、隠し事無しの本気の戦い。

 知ってるか、俺とお前が戦って、この戦いで丁度百戦目だ、そんな記念の戦いで、負けるって手も、手加減するって手も無いよな!」

「変わらないな、イグナ、百戦目は、俺が勝つぞ」

二人は、もう一度戦闘体制に入った、今度こそ、本物の本気、殺気と殺気がぶつかり合い、二人の体から、光が噴出する、青く鋭い光と、紫がかった黒い光。

ニルヴァーナだ、その力の噴出が合図だった、神に迫る力を手にした二人が激突する。


 市街地の中、とっくの昔に住人達は逃げてしまった場所で、ロトはユニコーンのような風貌の生物と向かい合っていた。

白い毛並み、紛れも無い馬の体、そして、なによりその長い角が特徴的な想像上の生き物。

のはずだったのだが、その生き物が目の前に居る。だが、その正体はsin、未確認生命体だ。

その生物を相手に、まずロトがやったことは、いたってシンプルだった。

体のあらゆるところに忍ばせた爆弾、その信管を抜き、取り出して投げつけたのだ。

コロコロ、と転がり、ユニコーンのような生物が、ん?なんだこれ?といった具合にそれを見下ろしたのと、それが爆発したのは一緒だった。

詰まる所、ユニコーンのような生物は爆風に巻き込まれたのだ。

ロトが歓喜の声を上げる。

「おっしゃ!一丁上がり!!」

彼は勝利を疑わなかった、彼が投げたのは、スタンダードな手榴弾、ヒトは進化の過程で、石程度の物を正確に遠くまで投擲するという能力を獲得している。ヒトの腕と脳は投擲に関しては、あらゆる動物の中で最も高い能力をもっているのである。この能力は戦争にも遺憾なく発揮され、熟練した投擲手の投石は弓矢や初期の銃に匹敵する戦闘能力を発揮した。そして近代から現代にかけての投擲手は小型の爆弾を投げるようになる。その中でも、洗練された爆弾が手榴弾である。

そんな手榴弾に、ロトは更に手を加え、その威力を三倍にまで高めていた。

その過程で、とても人が投げられるような重量では無くなったが、改造兵の運動能力を考慮すれば、そんなことは問題にはならなかった。

そんなロトお墨付きの爆弾がヒットしたのだ、これまでは動物の敏感な察知能力で避けられることが多かったし、敵味方入り乱れた戦場では、彼の爆弾を軸にした戦い方は、あまり使えなかった。

もちろん、その能力を生かした格闘戦だって出来ないことはない、それでも、彼は爆弾をメインにした戦い方を好んだ。

「やっぱり、肉弾戦の良さが分からないや、こうやってふっ飛ばしちゃえば同じなのに、身体能力がもったいないのは分かるけどさ・・・」

(その爆弾が本当に僕に効いてたらね!)

直後、煙の中から、白い物体が突然こちらに向かってきた。

ユニだ。その白い毛並みは、吹き飛ばしたはずのユニコーンを模した生物の姿だった。

その角が、こちらに向けて、猛スピードで、槍のように迫ってきたのだ。

「うわ?」

ロトは慌てて横に転がり、その槍とかした角を避けながらも、次の爆弾を投げていた。

だが、次はその眼で確認した、その爆風を受けても、相手が微動だにしないことを、改造兵の腕力は、実際のところ、生半可な凶器よりも凶器になる。

運動エネルギーは、武器の質量と、速さの二乗に比例する。

つまり重ければ重いほど、速ければ速いほど、その力は増大するはずなのだ。

もしも、もしもだ、スピードも、重さも段違いの一撃を放てたとしよう、爆薬などと違って、その衝撃は一転に集約される。改造兵が皆、好んで古風な武器を使うのはそういう訳からだった。

銃弾をも超え、爆薬をも超える一撃を放つことが出来、なおかつ高速の戦闘を行えるのは、自然とそんな時代錯誤と言われるような武器だったのだ。

しかし、ロトは一番有効であるはずのその武器を持っていなかった。

ひたすら自分自身に爆風が来ることがないように注意を払いながら、既に人々が非難してもぬけの空となった市街地で容赦なく手榴弾を爆発させていく、その結果、ビルが揺らぎ、崩れ落ちていく。

それでも構わずロトは手榴弾の信管を抜き、ユニに向けて何度も投げつけていた。

だが、向こうも何度も爆発に巻き込まれるようなことは無い、ものすごいスピードで地面を蹴りながら、次々に投射される爆弾の範囲から逃れていく。

その過程で、ビルが壊れてもお構いなしだ、一応、ロトは、他の改造兵がいるビルから遠ざかるように、また、ユニもホムンクルス1stが居るところから遠ざかるように走っていた。

なので、他のメンバーの戦いに干渉することは無いが、二人の通った跡は、瓦礫の山だった。

洋装店のショーケースや、カフェの電光掲示板などが次々と吹き飛んでいく。

そして、これがもう一つ、改造兵が重火器を使わない理由だ。

神出鬼没の未確認生命体は、必ずしも誰も人の居ないところで発生してくれるとは限らない。

むしろ、建物や、重要な文化財、自然などが溢れる場所で、彼らは行動する。

そんな訳で、無用な破壊を避けるために、近接戦闘用の古風な武器を使うのだ。

その点から言って、ロトの戦い方は、改造兵のコンセプト、無用な破壊をせず、事態を早急に、的確に収拾する、という目的に全く合わないのだった。

それでも、彼はこのような周りの状況を一切考慮しない戦いでは、かなりの戦闘能力を誇る。

爆弾が通用しないと割り切ったロトはスタイルを切り替えた。

どこからか取り出した二丁拳銃、反動や銃身のブレなどを一切考慮しない三転マグナム。

ロトはケルベロスと呼んでいる、文字通り、三つの銃身からマグナムの実弾が発射される。

それが二丁、その銃弾はとんでもない威力だった。

ロトは大雑把な照準をつけて、その引き金を何度も引いた。

一転に集約されるハイマネティックゲノムを使った銃弾の威力。

ズボッ!と、廃ビルの壁にその銃弾が当たり、風穴を開ける、しかしそのままでは終わらない、連続で放たれた銃弾は、ユニが逃げ回っている間に、そのビルをの壁を切断するかのように穴を開けていき、そのビルは一気に崩れ落ちた。

どうやら、穴を開けたのは銃弾が直接打ち込まれた壁だけでなく、その向かい側にある壁もだったようだ。

ユニは崩れ落ちていくビルを見ながら、楽しそうに嘶き、ロトに不可解な力を使い、話しかけた。

(へえ、中々いいの持ってるジャン)

「そりゃ、どうも!!」

ロトは適当に返しながら、更に引き金を引く、そして、道行く建物を破壊していった。

これが、彼の特注武器、ケルベロスの力、二丁のケルベロスの反動は、彼の力でなければ押さえきれないだろう。普通の人間が使えば肩が脱臼するどころか、腕が吹っ飛ぶかもしれない。

そんな拳銃を、彼はエアガンでも撃つような感覚で撃ち続けていた。

ユニは、その銃弾を避けながら、勝機を探っていた、銃弾をも避けるスピードを維持しながらも、その頭は割りと冷静に状況を把握していた。

銃弾が撃たれているあいだ、攻撃され続けている間、近づくのは難しい、ならば、銃弾が切れるまで待てばいい、それが彼の導き出した答え。

その時は割りと早く来た。

ロトが引き金を引いても、カチッカチッと、言う音がするだけで、その銃身から弾丸が発射されなくなった。

ユニは好機とばかりにその大きな角を振りかざして、ロトに突進した。

「く!」

ロトは弾を込めるか、避けるか思案し、避けるほうを選択する。

再び、横に転がり、その槍のような角をかわした。

そして、弾を詰め込もうとするが、再び突進が来る。

弾を詰めようとしていた手を止めて、今度は上空に跳びあがった。

そして、勢い余って自分の居た辺りの後方でストップしたユニに手榴弾を投げつけた。

その信管を抜き、地面に踏ん張れないその状態で、その爆薬を投げつけた。

ズドオオン!!と手榴弾の弾ける音がする、しかし、相手に傷を付けられないのは明白だった。

それでも、時間稼ぎぐらいにはなる、空中で、金色の弾丸を、ケルベロスのバレットを外し、装填しながら、地面に着地し、砂埃が舞い上がった方向へケルベロスの銃弾を乱射する。

馬の嘶くような声が聞こえた。

煙が散ると、体中に、無数の傷跡を付けられた純白の一角獣が立っていた。

その体から、大量の血液が流れていく。

傷付いた身体を四本の足で支えながら、ユニは立っていた。

そして、その体から、光が溢れ出す。

緑色の光、死を悟った生物の最後の悪あがき。

ユニは、正面の敵を見据え、突進した、破れかぶれの突進、そう、それがユニの出した結論だった。

何の小細工も無しに敵に向かっていく。

ロトは、銃身が三つついた、巨大な二丁拳銃を構え、乱射した。

ユニの角が突き出される、その角は真っ直ぐ、ロトの心臓を打ち抜こうとした。

交差は一瞬、僅かに、僅かにユニの力は届かず、ユニの血まみれの体は地面に崩れおちた。

ロトは注意深く、その様子を観察した。

(これで、僕は終わりみたい、だけど、僕の願いはこれで叶えられる、死ぬのは嫌だけど、イーブンかな・・・)

声が心に響く。

その言葉と共に、ユニの意識は途切れた。

「僕の、勝ち。

 ごめんね、それでも負けられなかったから・・・」

ロトは、そう呟いて、イグナと士郎が戦っている戦場へ眼を向けた。

そして、ゆっくりと歩いていく。


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