七対七~レナ対サラ
黒い銃剣、ルシフェルスキアーと青い大剣セラフィーブロクス、天使の名を冠する二つの武器が交錯する。
高い金属音が連続し、剣と剣がぶつかり合う。
この二人の戦いに、ウイングス達は加勢しようとした、が、ホムンクルス1stの声で、押し止められる。
「手を出すな!これは俺がやらなければならない戦いだ!」
剣を持っていない左手でウイングス達の動きを止める。
ホムンクルスの力、sinの制御を使ったわけではない、ただ、その言葉を放っただけで、ウイングス達は動きを止めた。
(わかりました、レナ様を連れて先に行きます!)
レナを連れたウイングスは羽ばたきながら方向を転換し、前に進もうとする。
だが、ここでレナを落とさないように、身を捻った。
赤い羽が何枚かそこら中に散らばった。
(なるほど、ただでは通してくれないというわけですか、エリアの改造兵)
「驚いたたニャ~、まさかホントに会話ができるとは、イグナの言ったとおりだったぜい」
ぺロット舌なめずりをしながら急にウイングスに斬りかかってきたバンダナの男はビルの上に立ち、手に二本のサバイバルナイフのよな形状をした武器をもっており、先ほどの攻撃でウイングスの羽を二三枚、もぎ取っていたようだった。
「ホントに士郎君が例のテロリストだったとはね、でも合点がいったよ、改造兵でもない人間が何故あれほどの力を手に出来たのか、彼もまた、僕たちとは違う方式の超人だったってことが」
続いて、細身の日本人が髪を撫で付けながら冷静に呟く。
いつの間にか、ビルには第一小隊のメンバーがセイファを除いて全員揃っていた。
サラ、ノア、サクヤ、ビクター、テイルズ、ロト、そして、イグナ。
対するは、ウォルフ、ユニ、クリス、ウイングス、ライガ、レナ、そして、ホムンクルス1st
「ウイングス、私も、たたかえるよ!」
レナをひとまず安全な所へ置こうと辺りをみまわしていたウイングスに、レナは言い放った。
(しかし、レナ様・・・)
ウイングスはしばし逡巡したが、やがて、レナの眼に確かな闘志があるのを確認すると、レナを地上に降ろした。
七対七、それぞれが相手を選び、向かい合う。
「第一小隊所属、サクヤです、負けるつもりはありませんよ」
(ウイングスです、こちらこそ負けるつもりはありません)
サクヤとウイングスが、
(僕と戦おうよ、そこのちびっ子!)
「君、なんだかむかつくよ!」
ユニとロトが、
「いやー、おんなじ猫同士、頑張ろうにゃ~」
(ワシは虎だ)
ノアとライガが
(貴方がお相手?私を満足させられて?)
「俺も英国紳士として、最大限にエスコートさせてもらうよ」
クリスとビクターが、
「ハロー、女の子同士、仲良くやりましょ」
「あなたからおおきな力をかんじる、でも、わたしはにげないよ」
レナとサラが、
「どうやら、俺とお前が残ったみたいだが」
(ふむ、そのようだな)
テイルズとウォルフが、
それぞれの思いを胸に、それぞれの敵を見据え、今、激突する。
全員の掛け声は一緒だった。
戦いの火蓋はその声と共に切られた。
ビルとビルのい挿まれた、今は封鎖されている道路で、レナとサラは向かい合っていた。
先に動いたのはサラだった。
「はあああああああ!!」
気合と共に、渾身の拳が放たれる。
サラは両拳にメリケンサックのような武器をつけて、レナになんの躊躇も無く殴りかかった。
跳躍して、勢いをつけて、前に繰り出される渾身の突き、それは少女の華奢な体など簡単に粉砕するはずだった。だが、そうはならない。
レナは華麗に身をかわしていた、その拳の動きを察知し、ほんの少しだけ体を横にずらしただけだった。
サラは、面食らったが、追撃の手は緩めない、彼女は空中で一回転し、鋭い蹴りをレナに放った。
だが、またもやレナにその攻撃は通じない、先に動きがわかっていたかのように、レナは後ろに下がった。蹴りが空振りして空を切る、膨大な風圧を起こし、レナの髪をなびかせながら。
ここで、サラはフッと笑った。
「女の子の形をしてても、やっぱりsinなのね」
「あなたのこうげきはあたらない、わたしにはあなたがやろうとしていることがてにとるようにわかるの」
「じゃあ、試してみましょうか!」
サラは今度は地に足をつけて、渾身の拳を放とうとした。
(みぎのじょうわんさんとうきんがひだいかしてる、みぎの突きをはなつみたい)
その予兆を、レナは完璧に見破っていた。
レナは体や、電子部品に流れた電気の道筋を見ることできる。
脳から出された命令は電子情報として筋肉などに送られる。
その結果、人間の体は自由自在に動くわけだが。
レナは、その体に流れる電流を見、次にどんな動きを相手がするか見ることが出来る。
加えて、その電子情報を筋肉の動きと関連付けることで、更に明確に敵のやることがわかるようになっているのだ。
微細な筋肉の動き、体に流れる電流の二つを「見る」ことで、拳法の達人に勝る反応の能力を手に入れている。
その能力によって、サラの拳も蹴りも全てが空ぶっていた。
実際の所、相手の動きがわかっても、避けるのは難しい、それでもやはりレナもホムンクルスだ、生態兵器なのだ、十一年間ほぼ動くことがなかった状態でも、ある程度の運動神経を持ち合わせている。だが、ネックだったのは、相手を絶対に倒そうという意思が無いこと、つまり彼女は攻撃を仕掛けようとしないのだ、ただ、サラが疲れるのを待つ。
何度と無く攻撃を見切り、何度と無く避けるのだが、それでも、サラのスタミナは底を見せない。
(きんにくにひろうが未だにみられない、それどころかうごきのきれが増していってる、これがえりあのかいぞうへい・・・)
レナは感心しながら、連続で放たれるジャブを大きく後ろに下がって避けた。
「貴方、攻撃する気がないみたいだけど、私のスタミナ切れを狙っているなら、それは無理、スタミナだけは第一小隊の他の誰にも私は負けないの、二十四時間だってこうして動いていける。」
一旦攻撃を止め、立ち止まりながら、サラは告げた。
それは勝利宣言だ、貴方に勝ち目は無い、貴方が勝てる確率は万に一つも無い。
事実、レナはもう息を切らしていた。
「そうだね、でも、おにいちゃんのあしでまといになるわけにはいかないから、あなたをたおす!!」
「お兄ちゃん?」
ピクッと眉を動かすサラ、その聞きなれた、と言うよりは言い馴れたワードに、一瞬だが戸惑ったのだ。
「うん、あそこにいるのはおにいちゃん、おにいちゃんはわたしがほんきをだすのをのぞんでない、でも、わたしのためにたたかってくれてるんだもん、ほんきをださなくちゃ、そうよ、ほんきをださなくちゃ!!」
レナは自分に言い聞かせるように叫ぶ、というにはか細い声だったが、それでも精一杯声を出す。
直後、旋律が鳴り響く、この世のものとは思えないメロディー、動物の鳴き声にも似ていて、オルガンの音にも似ていて、子守唄のような賛美歌のような歌、それを歌っているのは、レナだった。
紛れも無い肉声、サラの動きは止まった。
その音に魅了されたのもあったが、主な理由は違うところにある。
レナの体から、オーロラのような色調の光が発散されていくのだ。
「ニルヴァーナ、なの?」
サラは独り言のように呟いたが、サラの頭に声が直接響く。
(ううん、これはあなたたちがいうニルヴァーナとは違う、このひかりはひとが神にちかづいたあかし、あなたたちも、にくたいをきょうかすることで、神にちかづいていたから、あのひかりがからだからはっさんされたの、でも、わたしのこれはちがう、せいしんを神にちかづけることで、わたしじしんをたかめているの、あなたたちのいう、ニルヴァーナとは、たいりつするちからだよ)
そう、違いは肉体という器を使って人間としての限界を超えるか、それとも、精神という器を満たすものを高めることで、人間としての限界を超えるか。
レナは、旋律を奏でることで、自らの精神を高め、人間を超えた精神力を呼び起こす。
そのため、精神が限界まで高められた結果、体からオーロラのような光が発散されたのだ。
遂に、エリアの科学者達がさじを投げた正体不明の粒子、その力の正体の一端を、レナは既に理解していた。何度と無く、この不可思議な力を使って、色々なことをしてきた。
これは断じて、人間に理解できる力ではない。
使っている本人も、それを見ている周りも、その力を理解することは出来ない。
その全てを理解するには、人間という器の形に留まっていては無理なのかもしれない。
ともかく、そんな不可思議な力を、レナは纏っていた。
思念に応じて性質を変える、その粒子を、理解できなくとも、掌握はしているレナのとった行動はシンプルだった。念じたのだ。
(こうげき、よけてね、かげんはできないよ!)
サラの頭に直接そんな声が聞こえる。
サラは体中の感覚器官がゾワッと何か得たいのしれない危険信号を出しているのを感じた。
彼女は慌てて後ろに下がった。
直後、膨大な光が天上から降り注いだ。
ピシャッ!と音が遅れてやってくる。
サラは必死で眼を閉じた。そうしなければその光の光量だけで眼を潰されていただろう。
眼を閉じたサラは、失明こそしなかったものの、閉じたはずの瞼から容赦なく光が漏れ出してくるのを感じた。意識が明滅する。眼を咄嗟に開いたが、焦点が定まらず、視界のもの全てが変色して見える。
サラは、光が降り注いだ場所を見た。
ぽっかりと穴が開いている、しかも、穴のそこが見えない。
攻撃性の思念に反応した粒子は、光の牙となってサラを襲ったのだ。
「く!やっぱり例の正体不明の粒子が使えるのね!」
サラがそういっている間にも、レナの奏でる旋律は続く。
(よけてくれてありがとう、ふあんだったの、あなたをころさないか)
「ふん、随分余裕じゃない、なら私も本気を出すわ!」
サラは、姿勢を低く保ったボクシングのような姿勢で、トントンと、二三回、フットワークすると、叫んだ。
「ニルヴァーナ!」
空気を揺るがすような音と共に、サラの体が青い光を帯びる。
サラはそのまま、左右にフットワークしながら、少しずつ前に進み、直後、消えた。
そして、いつの間にか、レナの目と鼻の先まで迫っていた。
右の拳が唸りを上げて、彼女の体に放たれる。
(ぼうぎょ)
それでも、やはり、レナがやることはシンプルだった、心を乱さず、揺るがさず、ひたすらに心を落ち着けて、次にやることを命じる。
サラの拳は容赦なく突き刺さった、が、レナが纏っていた粒子が突然色を変え、性質を変える。
レナは無傷だった。
「く、はあああああああ!!」
サラはひたすらに拳を放つ。
その度に光がそれを壁のように阻む。
耐久レースが始まった。レナの精神力が尽き、その力が出せなくなるか、サラの体力が無くなり、その動きが止まるか、さっきの攻防とは訳が違う、一瞬でも攻撃の手を緩めれば、きっとレナは、この光を攻撃性のものに変え、襲ってくるだろう、ならば、防御に徹してもらうしかない。
そういうわけで、サラは全力の攻撃を繰り出し続けていた。
先ほどと違い、全力の攻撃、しかもニルヴァーナを使っているので、消耗は早い。
サラは焦っていた、幾らやっても、この少女は顔色一つ変えずに歌い続ける。
底なしの精神力を持っているようだった。
それでも、攻撃の手を緩めない、相手の体の至る所を殴り、そして蹴る。
最後まで、そう、最後まで、サラは攻撃の手を緩めなかった。
そして、倒れた、纏っていた光が消え、少女の体が崩れ落ちる。
レナも、歌うのをやめ、オーロラのような光は消えた。
サラは、完全に気を失い、眠るようにその場に倒れている。
「ごめんなさい、今はねむっていて・・・」
そう、優しく声を掛けると、レナはホムンクルス1stが戦っている場所へゆっくりと歩いていった。




