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会戦

 一ヵ月後、エリアは、物々しい警戒態勢と共に、その日を向かえた。

「なあ、本当に来ると思うか、例のテロリスト」

「さあな、今の所は影も形も見えないが・・・」

エリアは海に囲まれた人工島で、太平洋のど真ん中に位置している。

そのエリアの海岸沿いにあるグレイブヤードの場所に配置された兵士がぼやいていた。

もちろん、彼ら二人だけでなく、もっと大勢の兵士がそこにはいた。

更に、全員が物々しいまでの装備を固めている。

海沿いに、いくつか砲台があり、海に向けてその銃口は伸びている。

レールガンや、コイルガンではない、技術的には可能だが、電子的な回路を使った兵器ほど、例の粒子の力で乗っ取られやすくなる。

つまり、シンプルイズベスト、という結論を出したのだった。

「しかし、幾らなんでもこんな前時代的な兵器で大丈夫なのかよ、固定砲台って対艦ミサイルの普及で大昔に消えたんじゃないっけ?」

「上には上の考えがあるんだろ、それに主役は俺達でもあのレトロな骨董品でもなく、千人の改造兵様だ、俺達はせいぜい死なねーように、むこうが上陸したらさっさと逃げろってさ」

「その改造兵も、例のテロリストが現れてから急増した烏合の衆だって聞いたんだけど・・・。

 本当に大丈夫なわけ?」

「さあ、でも、上層部の連中は十中八九こっちが勝つって踏んでるみたいだぜっと、敵さんとうとうやってきやがったみたいだ・・・」

海の方向を指さされて、恐る恐るそちらを見る兵士の一人が驚愕を露にする。

「おいおい、何だよありゃ!一万はいるんじゃねえのか、まさかあんな大群がこの国全部囲んでるのか?」

そう、そこには海を埋め尽くすほどの大群がひしめいていた。

それは兵士でもなく、潜水艦でもなく、怪物、未確認生命体だ。

一匹を取り上げて映画をとっただけでそれなりの怪獣映画を作れてしまいそうな貫禄とクオリティーの怪物がそこには沢山いた。

「ふ、泣きそうになってきたぜ・・・」

「おい!ンなこといってる場合じゃねえ、砲を向けるぞ!」

「マジかよ?絶対意味ないぜ!!」

兵士達が骨董品と揶揄したガラクタは、ガタンゴトン、ガタンゴトンというレトロな音を出して敵に照準を向ける。そして、派手な音と共に、大口径の砲台から、続けて砲弾が射出される。

続けて撃ちだされた砲弾は海の怪物たちへまっしぐらに飛んでいった。

海が破裂したような音が轟いた、水しぶきが上がり、敵の一匹に砲弾がヒットする。

「どうだ?少しは効いただろう?」

さすが、前時代的な砲台でも砲台は砲台だな、なんて感心していたのだが、水飛沫が収まり、戦果を見ようと思ったら、怪物たちは無傷でピンピンしていた。

「まじかよ、ていうかやっぱり・・・」

「逃げるぞ!」

二人は顔を見合わせて、直後逃げた、それを咎めるものは居なかった、何故なら他の兵士達もほとんど逃げていたからだ。どうやらこの戦争は、人間離れした怪物たちが勝手にやってくれる、そんな普通の人間が手を出すのが馬鹿らしくなるような戦いだったらしい。

それが分かって、兵士達は情けなさを感じる以上に、恐怖を感じる以上に、現実逃避してしまった。

「やっぱりだ!やっぱりなんだ!あんなガラクタで何とかしようってのが何かの間違いだったんだ!

 何とかなるかも、なんて思ったのが間違いだったんだ!」

既に、何匹かの怪物は上陸している、ホムンクルス1stの力によって操られた怪物たちは、中心のビルに真っ直ぐ向かっていた。

『ピンポーン、勇敢なる兵士諸君、聞きたまえ、今すぐ戦闘を離脱しろ、今すぐだ』

そのとき、どこからとも無く、スピーカーか何かの音声で気の抜けた男の声が聞こえる。

「もうやってるよ!バカヤロ!!」

「つうか、誰だ?ピンポーンは、電子音でもなんでもなく自分の口から言うなんて、本当にふざけてやがる!」

二人が疾走しながら叫ぶと、どこからか聞こえる声は相変わらず気の抜けた声でダラダラと喋った。

『ああ、こちら第四小隊隊長、ゼーマンだ、よろしく、今から作戦フェイズ2に入るから、さっさと海岸から離れなさい、つうか、こんなとこで爆弾ぶっ放したらグレイブヤードも吹っ飛ぶんだが・・・まあ、建て直せばいいか・・・。それでは、エクスターミネートコマンドを施行する」

「おい、何て言った?あの馬鹿、ここら辺一体を焼き払うつもりだ!」

「そりゃーいい!焼き魚が海の上に沢山浮かぶことになるじゃねえか!エリアの食糧問題には当分頭を悩ませずに済む!」

「一概に魚ばっかりとは言えないけどな、なんか、普通に哺乳類みたいな奴もいたし・・・」

「そりゃーいい!魚とお肉のフルコースだ、あと、とりあえずここまでくりゃ大丈夫だろ!」

二人はもうすでにグレイブヤードから数キロ離れた場所にいた。

冗談を言い合いながら、もう安心だ、なんて思ってると、チュドーン、ドカーン、チュドーンと、連続で爆弾がsinの放つ粒子の影響を受けない遥か上空から爆弾が落ちてくるのが分かった。

猛烈な閃光だった、そして、猛烈な爆音だった。

二人は眼を瞑ったが、容赦なく閉じたはずの瞼から光が漏れ出し、網膜に光を送り届けた。

一瞬、目が見えなくなる。

更に、猛烈な爆音で鼓膜が破けたのではないかと錯覚するほど、耳が痛くなる。

「つあっぶ!後ろだ、後ろを向くんだ!」

さすがに爆風までは飛んでこなかったが、被害は甚大だ。

海岸沿いから離れた兵士達は皆一様にこの二人の兵士と同じような被害を被っていた。


上空、第四小隊の撲滅指令により、数機の戦闘機が空から爆弾をドバドバと投下していた。

「うん、まあこれで死ななかったら、ちょっとさすがに気味悪ぃな」

戦闘機のコックピットの助手席と言ったらいいのだろうか、とにかく二つ目の席で、ゼーマン=エイブスは呟いた。すると、ジェット機を操縦している兵士が異変を隊長に報せた。

「隊長、前方から何か近づいてきますが・・・」

第四小隊隊長、ゼーマン=エイブスは、操縦桿を握っている部下の言葉にピクット眉をひそめると操縦席の無線機を引ったくり、全てのジェット機へ向けて命令を発信した。

「ああ、聞こえるか、こちらゼーマンだ、今すぐユーターンしろ、そして、陸地の上に降りろ、飛行系のsinが迫っている、繰り返す、飛行系のsinが近づいてきている、みんなすぐにユーターンしろ、さもなくば、怪物の死骸が浮いた海に放り込まれるぞ、以上」

「隊長?」

訝しげな顔で呟く操縦席の兵士。

「聞いてなかったのかよ?俺と心中でもしてえのか?俺はごめんだ、お前と心中なんて、さっさとユーターン、そして着陸!死にたくなかったらな!」

は、はいっ!と、指示通りに機体を動かす兵士、ジェット機は海岸へ向けて、ユーターンした。


 その頃、海岸の兵士達はというと、

「はっはあ!やったぜ、全員消し炭だ!やっぱ本物は違うな、おい!」

喜び勇んでいた。

閃光と爆音が止み、大質量の生物達が海に浮かんでいく。

「ホントに焼き魚って感じだな」

「まさか、食うつもりじゃねえよな?」

そんな冗談が言い合えるほどの余裕は次の瞬間砕け散った。

「なんでこっちに向かってんだ、あの戦闘機・・・」

「さあ、帰還かな凱旋でもしようって魂胆か?」

だが、それにしてはおかしすぎる、まだ海上にはsinが残っていた。

そして、それ以上になんだかまずいのは、複数のジェット機がこちらに真っ直ぐ向かってくるということだ。

「おい、避けろ!!」

同僚の言葉と共に、兵士は駆け出した。

その後を追うようにジェット機が着いてくる、二人はギョワー!なんて叫びながら必死にジェット機から距離を取る。

「くそ、これで怪我でもしたら、第四小隊からせびり取ってやるからな!」

「つうか、これ絶対それ以前に死ぬだろ!」

ズザザザット顔面からスライディングし、何とかジェット機から身をかわす二人。

だが、ジェット機の上から飛び降りてきた何者かがそれを踏み潰した。

グエッと腹の中のものが出そうになるのを押さえながら、二人は地面に突っ伏したままで抗議もせず、吐き気と戦っていた。

だが、その人物は謝りもせずに二人を踏んづけたまま、悪態をついた。

「ったく、もうちょっとだったてのによ、なんだってんだ!

 ジェット機には追いつけねえとしても、その粒子の撒布範囲に入っただけで軍用ジェットが使い物にならねえのは反則だろうが、このくそ怪物が!」

ああ、ちくしょう!と、言いながらゼーマンはトランシーバーのようなものを取り出した。

「よし、何とか動く見てえだな、ああ、こちらゼーマンだ、フェイズ3に入ってくれ。

 だから言っただろうがよ、さっさと本命出しちまえば良いんだよ!」

『了解』

短く、トランシーバーからは、そう聞こえた。

「はあ、んじゃあ俺も戦わねえとな・・・、はあ、めんどくせえ、だるい、もうまじで嫌だって、ん?」

そう言いながら、やっと下の二人に気付いた。

「なんで俺の下にいるんだ、お前ら?」

対する二人は、ピクピクと痙攣するだけだった。

「もしかして、俺が踏んづけたのか?」

もしかしなくてもそうだよ!といいたい二人だったが、ここで力尽きてしまった。

「まあ、いいや、取り合えず行かねえとな」

そのまま、二人から飛び降り、首をポキポキと鳴らし、ゼーマンはめんどくさそうに海岸へ向かって走り出そうとした。

「隊長、お忘れものです!」

その時、緑色の軍用ジェット機に乗っていた兵士が下に飛び降りた、その腕には何やら時代錯誤な剣が握られている。

「ああ、そうか、それ忘れたら話になんねえよな」

そう言いながら、またもや二人の兵士の上を踏みつけて部下の下に歩むゼーマン、部下はなんか複雑そうな表情をしてその光景を見ている。

両刃の剣、幅が広い銀色の剣を受け取り、ゼーマンは今度は二人の頭上を飛び越え走り出した。

上陸したsinと空から迫るsinを駆逐するため、第四小隊隊長、ゼーマン=エイブスは疾走する。


 遥か彼方を見つめ、少年のような形をした怪物は微笑を浮かべていた。

「上々だ、上陸できたのはざっと三千、そして飛行能力を持つ味方は一匹も討ち取られていない。

 このまま奴らがどう動くのか」

ここは海上、だがホムンクルス1stは海面に立っていた。

規則正しい波紋が足元の水面から広がり、何らかの浮力を生み出しているのが分かる。

黒いマントが風にはためき、ゆらゆらと陽炎のごとく揺れる。

彼の周りには、彼の仲間、知能を有し、特定の相手と会話まで出来るsinが6匹、その中のウイングスの背中にはレナが乗っていた。

少年は右手に持っていた仮面をつけた。

ゆっくりと顔全体を包み込み、自身の迷いすら隠し通すように、その少年の表情は黒く染まる。

「レナ、お前にはこれから起こることを全て見ていて欲しい」

「うん」

少年は、エリアを見つめたまま、少女に告げる。彼女はこくりと頷いた。

「じゃあ、行こう、全てを終わらせに」

少年は進む、十一年間封印されていた思いを胸に。

そう、それは破壊の決意、少年は少女のために、その思いを十一年前から胸に秘めていた。

破壊の意思しか持たなかったのは、やはり彼自身も生態兵器であることの性なのか。

では、そのまま記憶を失わなかったら?少年の思いは薄れていただろうか?

寸分の狂いも無く、この行動を行うことが出来ただろうか?

その思いは薄れることは無かっただろうか?全ては、仮定だが、それでも少年は言える。

薄れることは無かった、時が過ぎようとも、月日が過ぎようとも、この思いだけは消えることは無かっただろうと。

そして、少年のもう一つの強い思い、心の中に残った神谷士郎との決着を、彼はつけにいくのだ。

進撃の合図と共に、三匹と一人は海面を走り、もう三匹は空を行く。

物凄いスピードだった。光を纏った体がぐんぐんと加速していく。

それぞれ同じ思いを胸に、前へ前へ、レナは、しっかりと眼を開いてこの様子を見ていた。


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