計画
森の中の研究施設、ホムンクルス1stと、レナ、そして、彼女が創り出した生物達が息を潜める場所で、ホムンクルス1stはホムンクルス2nd、レナと食事を共にしていた。
「まさか、お前が本当に木の実や、獣の肉だけで、今まで生きていたとは驚きだよ
ちゃんとした料理を食べないと、女の子らしくなれないよ?」
とは言っても、彼が持ってきたのはお惣菜なので、彼が料理しているわけではない、相変わらず彼はカップラーメンしか作れないのだ。
エリアに喧嘩を売った、際、仮面をつけていたのは、レナのために何か食べ物を持ってくるときに、顔が知られていると、色々と面倒だからだ。
レナは、恐る恐る、といった感じでお惣菜の鳥のから揚げを頬張ってみる。
「美味しい、これが料理の味・・・、焼くのが料理だとずっと思ってたけど」
今まで原始人に近い食生活を送っていた少女は感激しながら呟く。
よく、こんなに可愛い骨格を維持し続けたものだと、少年は思う。
肉を噛み千切るのに慣れた顎は、自然と横に広がるものだろう、だが、少女の顎は現代人らしく、狭かった。
「どうしたウイングス?」
ここで、一緒に買い物をするためについて来てくれたウイングスが少し複雑な表情、というよりは雰囲気を醸し出しているのを見て、少年は問いかけた。
(いえ、わたしは鳥をベースに作られたわけなので、目の前で同属が食されるのは、あまりいい気分でないんですが・・・)
「なるほど、だが、レナにはちゃんとしたものを食べてもらわなければ」
(それは、その通りなのですが・・・あの、私は席を外します)
いかにも気持ちが悪そうに、ウイングスは別室へ引っ込んでしまった。
この研究室には、巨大な生物の生態を調べるための、大きなスペースがいくつもある、今居る部屋もその一つだ。
無数のカプセルに入っていたsin達は今、培養気からの栄養をストップしているため、完全に力を失い、新たに創られることは無い。
レナが創り出した生物の居る部屋を見ながら。
「あいつらは一体何を食べて暮らしているんだ?」
少し、心配になってきた少年は、レナに聞いてみた。
「あれ、お兄ちゃんおぼえてないの?みんなせんようのばいようきから、えねるぎーのきょうきゅうを受けてるんだよ?」
「そうだったのか、あれだけの質量を持つ生物たちが普通の捕食活動をするはずも無いな・・・」
ウイングスが出て行く後姿を見ながら、少年は呟いた。
ここで、少年が、食べ物に箸をつけようとしたとき、レナはそれを遮るように少年に話しかけた。
「ねえ、お兄ちゃん、何かなやんでいることがあるんでしょう?
私が邪魔になっているんじゃないの?」
レナは、少し控えめな態度で、聞いてきた。ホムンクルス1stは、笑顔を作ると、レナの頭を撫でながら答える。
「何もないさ、俺はお前さえ自由に女の子として生きていけるならいい、その為には、エリアって言う国家が邪魔だ。だから、お前は俺がやり遂げるのを見ていてくれるだけでいいんだ」
虚構に彩られた言葉、心配を掛けさせないために、気苦労を掛けないために放つ言葉、作る笑顔。
「うそ」
そう切り捨てた、兄の言葉からは、少しだけ迷いがあった。確信でなかった部分が確信に変わる。
「グレンが言ってたよ、そのおんなのこは、お兄ちゃんのともだちだったんでしょう?」
「レナ、俺は・・・」
「だめ!だめ!だめ!わたしのために、そのおともだちもころしちゃうの?
そんなのだめだよ!お兄ちゃんは、わたしのためによごれるひつようなんてないよ!
わたしは、さいきょうのへいきが出来るまでお兄ちゃんといっしょにいられればそれでよかったの!
お兄ちゃんが、わたしのうんめいを変えてくれるひつようなんてないの!」
透明な液体が、頬を伝って落ちてゆく・・・涙だ。
少年は、少女を抱きしめた。
その涙を拭うように、その悲しみを押し殺すように。
「お前は、外に出て、友達を作りたいと思ったことは無いのか?
淋しかったんだろう?このまま、戦争をするための玩具っていう身分で満足してていいのか?
いや、違うな、お前に問うのは間違ってる、俺はな、レナ。
ただ、兄として、お前に幸せに生きて欲しいんだ、十一年前も、今も、俺の願いは変わらない、例え世界を敵に回してもいいって、俺はそう思ってる、いや、実際世界を相手に喧嘩を売ったようなものだ。」
そうだ、この少年はもう引き下がれない、地面にこぼした水のように、割れてしまった花瓶のように、もう事態は、踏みとどまるか、踏みとどまらないかの出戸際で迷っていられるような状況ではない、それでも、レナは、兄を必死に説得しようと試みた。
「でも、あの街には、たいせつなものがあるんでしょう?
わたし、ときどきとおくからお兄ちゃんのようすをみてたの、この力をつかって」
少女の体から、オーロラのような光が発散されて行く幻想的な光、儚げな、幽玄の美がそこにはあった。暗い実験室を、その光が照らし、少年の眼を魅了した。
「優しい光だ・・・。
俺のどす黒い力とは違う、この粒子はきっと、心に反応して性質を変えるんだ。
お前は、まだ汚れていない、普通の女の子になれる可能性があるんだよ。」
「話をすりかえないで!わたしが言いたいのは、ほんとに、イグナっていうおともだちとたたかえるの?、無理だよ、お兄ちゃんには無理、お兄ちゃんはやさしすぎるもの、ずっとわたしなんかより、分かるんだよ?ほんとは、怒りにまかせて、びょういんの人を撃ったエリアのへいしたちを殺したのこうかいしてるんでしょう?きっとおにいちゃんがこのままエリアにこうげきをしかけたら、一生、もっとこうかいすることになる」
抱きしめられ、誤魔化されそうになったのを察し、レナは必死で心地よい抱擁を振りほどき、胸に手をあてながら、必死で兄を思いとどまらせるための言葉を投げかけた。
「そうならないために、お前に協力して欲しいことがあるんだ、俺だって、一生後悔するのは嫌だ」
「きょうりょく?わたしが?」
ああ、と答えて、少年は呼びかけた。
「皆、集まってくれ、重要な話だ!」
研究室の中で、息を潜めて話しを聞いていたレナが創り出した生物達はそれぞれの専用の部屋から皆集まってきた。
全員が揃ったのを確認すると、少年ホムンクルス1stは喋り始めた。
皆、黙って聞いていた。
(なるほど、確かにそうすれば、レナ様がいう後悔はしないかも知れないですね)
まず、最初に言ったのはウイングスだ。
(だが、そうなると、向こうに戦力を一つ増やすことになるかもしれないな)
(そこは、我々が釘を刺しておくしかあるまい、そやつが、一体戦場に出て、どう動くかは予想がつかんが、それでも、手出しするのは、ホムンクルス1stが全てをやり終えてから、というふうに念をおしておけば・・・)
続いて、グレン、ウォルフが口を出した。
(何はともあれ、早めに作ってしまいましょう、善は急げって言うじゃない)
(そんな短慮でいいのかのう?)
(難しくって、僕には分かんない!)
「お兄ちゃんがこうかいしないためなら、私やるよ!」
かくして、少年の立てた、ある計画は、遂行されることになった。
レナが、コンピューターを操作して、sinを創り出すためのプログラムを起動させる。
「昔のでーたがのこってたみたいだから、すぐにつくれそうだよ」
意味不明な文字の羅列が浮かび上がるコンピューターの画面を見ながら、少女レナは呟いた。
「俺も、手伝おう」
そう言って、少年はもう一つのキーボードを操作する。
「お兄ちゃん、そんなことまでできるようになったの?」
対するレナは驚きを隠せない、十一年前の彼は、本当に何のスキルも持たない、普通の少年だったのだ。培養気によって造られたこと以外は・・・。
「目覚めた拍子に色々なことが出来るようになっていた、俺自身驚いている」
文字の羅列を目で追いながら、少年は答えた。
その間も、手はせわしなく動いている、まるで息を吸うように、それらの動作がスムーズに出来るようになっている。彼の力は、なんらかの原因で、最初は開花することが無かった。それによって、研究者達は彼を失敗作と見なし、処分しようとした。
当初の目的では、ホムンクルス1stは、全てのことを万能にこなせる超人になる予定だった。
だが、なんの手違いか、そうはならなかった、ように見えた。
だが、それこそが最大の誤認、大器晩成という言葉があるとおり、彼の才能は、ずっと花開くことはなかった。自分の身に危険が迫ったときにのみ強力な力を発揮するというホムンクルス1stの特性に気付き、それを常時、引き出せないかと模索した科学者もいたが、結局、レナを創る計画にシフトされ、ついにホムンクルス1stが日の目を見ることは無かった。
しかし、ホムンクルス1stは、今、物凄いスピードで、成長を遂げている、本人も気付かないほどのスピードで、誰が予想しただろうか?この台頭を、誰が予想しただろうか?この成長を。
如月総司がの計画には、失敗が無かった、それこそが最大の失敗だったのかもしれない。
それを物語るように、ホムンクルス1stは、ホムンクルス2ndをはるかに超えるスピードでキーボードを叩いていた、寸分の間違いも無くだ。
そして、コンピューターにつながれた培養機に、胎児のようなものが出来ている。
そして、それは脈打ち、少しずつ大きくなっていった。




