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残っていた神谷士郎

仮面の男は、その場から立ち去ろうと、ドラゴンの背中に乗った。

そんな背中に、少女が思いっきり叫んだ。

「ねえ、士郎なんでしょ!?」

男はピクッと体を止めた。振り返りはしない。

「答えて!!」

更に大きな声で、少女は叫ぶ。

(ユリア、まだここに居たのか?)

完全に計算違いだった、彼女がここにいることを、彼女が敵に回るかもしれないということを、度外視した作戦だったのだ。

(ホムンクルス1st、行こう、あの娘には悪いが)

(ああ、分かっている)

だが、男は、振り返った、振り返ってしまった。

「この街を立ち去ることだ、お前達人間に勝てる見込みは無い!」

遠まわしに、少女の身を気遣う優しさが出てしまったことに、彼は気付いただろうか?

グレンは、少なくとも気付いた、少女もだ。

「何か、理由があるんでしょ?話して。ねえ、士郎!」

男はビルから飛び降りた、多くの人が息を呑む中、男はフワッと着地した。

そして、無言で少女の下へ歩み寄っていった。

「お前は、この街を去れ!」

「答えて、貴方は士郎なんでしょ?」

「俺は、ホムンクルス1st、お前達人間の敵だ」

「違う、違う、貴方は士郎、神谷士郎、私の大好きな神谷士郎、声が・・・、ううん声だけじゃない、全てが、貴方から感じる気配が、全部士郎のものなの、根拠は無いけど、それでも、貴方は」

首を振りながら、涙を流しながら、訴えかけるように、祈るように、ユリアは言った。

(ユリア・・・)

仮面の男が、いや、少年が手を差し出そうとしたとき、横から、急に出てきた何者かが、仮面の少年に斬りかかった。桜色の太刀を振りかざし、長い金髪をなびかせながら、その男は叫ぶ。

「ユリア、逃げろ!」

仮面の男は、マントの下に隠し持っていた黒い銃剣、ルシフェル・スキアーを取り出し、桜色の刀身を受け止める。

「お前は何者だ、よくもハザードを!!」

「ふん、セイファか、お前がアイツをここに引き止めたのか、余計なことを!」

その場にいた野次馬が、蜘蛛の子を散らすように逃げていく、それが戦いの合図。

ユリアだけは逃げずに、その場に残り、叫んだ。

「やめて、やめてよ!それは、士郎なの、士郎に違いないんだから!」

戦いの世界に入り込んだ二人にはそれが聞こえない。

何度と無く刃を交える二人。上段から、刃を振り下ろすセイファ、その刀をさっと避けるマントの少年、マントの端が斬れ、ザンッ!という音がする。地面までもが一緒に斬れてしまったのだ。

その切れ味に臆することなく少年は再び刃を交えようとしたが、横合いから黒い影がセイファを襲う、グレンだ。セイファは不意を突かれて吹き飛んだ。

(もう、いいだろう、頃合だ、ホムンクルス1st)

「ああ、分かった」

少年は少女のほうを一瞬振り返ろうとしたが止めて、その背中に乗る。

そして、グレンは飛翔した。

しばらく飛んで、グレンは問いかけた。

(何故、能力を使わなかった?

 例え、改造兵でも、あの能力は効くはずだぞ?)

「そうすれば確実に相手は死んでいた・・・」

(いつかは殺すんだ、今躊躇することは無い)

「そうだな、甘さは全て捨てたと思ったんだが・・・」

少年は仮面を脱いで、呟く。ゴロンとグレンの背中の上に寝転がり、あの少女のことを考えていた。


―俺は、迷っていた、あそこまでやっておいて、ユリアの顔を見た瞬間、躊躇いが心の中に生まれた。ユリアの涙が、ユリアの言葉が、俺の中の神谷士郎を、呼び覚まそうとしていた。

 それは心の中で対立する天使と悪魔のように、俺はどちらかを選ぶことが出来なかった。

 だから、俺はある決断をした・・・。どちらの思いが強いのか、秤に掛けるように・・・。


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