進軍の叫び
深い森林の奥の洞窟に、その研究施設は存在していた。
人間は存在していない、より正確には、明確に人間だと定義できる存在はいない。
ウイングスは、この洞窟を見つけると、高度を下げていき、やがて地面に着地した。
「ここか」
(はい、レナ様がおまちです)
感慨深げに呟いたホムンクルスをウイングスは心の中でせかした。
「ああ、そうだな、一刻もはやくレナに会わなければ」
ホムンクルスは、闇の中を進んでいった。
そして、だんだんと奥に光が見えてきた。
太陽の、自然の光ではない、紛れもない人工の光。
そして、ホムンクルス1stの眼に、その光景が浮かぶ。
並び立つ無数の培養機のようなものの中でうごめく物体、それは、それぞれ違った形をしていて。
人間のようにも、犬のようにも、猫のようにも、恐竜のようにも見える。
「これが、sin、レナが創り出しているのか?」
(はい)
「何故だ、何故そんな必要がある?」
ホムンクルスは、怒ったように、戸惑ったように、そして、意味が分からないというふうに問う。
(全ては、我らを守るため、レナ様が研究に役立たないと判断されれば、エリアは全軍でここを潰しに来るでしょう、そういうわけで、レナ様は常に新しいsinを創り出さねばいけないのです、しかし、それらは、我らのような知能を持たない、自分で判断する能力をもたないものでなければいけない。
無差別に人を襲うような、そんな生物のほうが、今のエリアには都合がいいのです。)
「なるほど、全てはお前達を守るため、ならば俺のやることはやはり変わらない。」
(やること?)
ウイングスは、首をかしげた。
「後で話す、今は進もう・・・」
(はい)
かくして、ホムンクルス1stは、奥へと進んだ。
無数の培養機が立ち並ぶ、部屋を抜けて、奥の通路へ、同じような部屋を三つ通り越したところで、その場所に着いた。
制御室、巨大なコンピューターと演算装置、サーバーが置かれた、部屋に、少女はいた。
白い髪、白い肌、透き通った青い眼、間違いなく、紛れもなく、それはずっと封印されていた記憶の中の、会いたかった少女だ。少年は、少女の名前を呼ぶ、ホムンクルス1stではなく、この少女の兄として、
「レナ!」
「お兄ちゃん!」
向こうも、涙を流しながら、少年を呼ぶ。
そして、二人は抱きしめあった。少年には、山ほど言いたいことがあった、少女にも山ほど。
少年が先に口を開いた。抱きしめながら、強く強く抱きしめながら。
「ご飯は、しっかり食べてたのか?どうやって調達したんだ?」
「みんながね、持ってきてくれたの、きのみとか、おにくとか」
「辛くなかったか、淋しくなかったか?」
「ちょっとだけ、でも、みんながいっしょにいてくれたから」
少女は照れくさそうに、頬を赤らめながらか細い声で答える。
「そうか、良かった。
皆、感謝する!レナを守ってくれて有難う!」
そして、少年は、大きな声でコンピュータールームに居たレナの家族達に大声で感謝を述べた。
「ウォルフ、有難う」
(もったいない言葉だ私はなにもしておらんよ)
まずは、白銀の巨大な狼の名を呼び、ウォルフは前に進み出た。
「グレン、よくやってくれた」
黒いドラゴンの名前を呼ぶ、グレンは少し、恥ずかしそうな声の色合いで心の中に直接話しかける。
(お前の代わりにはなれなかったが・・・ね)
「そんなことはないさ」
少年は、首を振って笑顔でグレンを賞賛した。
(ぼくも、ぼくも、ほめてよ、レナのお兄ちゃん)
(これ、はしたないぞ、レナ様、兄様と呼ばんか!)
子供のような声で話しかけてきたのは幻獣ユニコーンのような姿の生き物。
パカパカと足を踏み鳴らす、仕草がまだ幼そうに見せる。
そして、それをたしなめたのは、大きな虎だった。
割と年老いたような、声の感じで、堅実そうな雰囲気を持つ。
そして、その虎の言葉に被せるように、ぺガサスのような風貌の生物がそちらの方へ顔を向ける。
(そうね、ユニは、もうちょっと落ち着いたほうがいいかもしれないわね。
チャオ、兄様、お久しぶりね。)
「ああ、久しぶりだな、クリス。それに、ユニも有難う、ライガも、相変わらずだな」
三匹に思い思いの言葉を掛ける少年、へへっと、ユニはくすぐったそうにしながら、笑う。
ライガは、眼をほそめて、その言葉に聞き入り、クリスは、翼を二三回パタパタ動かした。
「そして、ありがとう、ウイングス、お前には特に世話になった。」
(大したことではございません)
全員に感謝を述べ終わると、少年は、レナの手を引き、コンピューターの方へ向かい、そして、後ろに向き直った。
「お前達に、まずは言っておこう、俺の目的をだ」
全員がシーンと静まり返った、静寂がその場を支配する中、少年は口を開く。
「俺は、エリアを潰す!!」
全員が息を呑んだのが分かった。だが、少年は構わず続けた。
「お前達は、満足なのか?こんな所に押し込められて、最強の兵器を創り出す手伝いをさせられて」
一言一言に、思いを乗せながら、
「お前達は満足なのか?レナをこのまま世界最強の兵器として、戦争の道具にされて」
一言一言に、爆発した感情をのせながら、
「俺は、それだけは許せない、エリアの創り出したシステムを真っ向から否定してやる、そのためにはお前達の力が、結束が必要だ。レナを最強の兵器などにはさせない、普通の女の子として、普通の子供として、生きてもらいたいんだ!お前達もそうだろう?ずっと願ってきたはずだ!」
全力の叫びはどこまで響いただろうか?必死の訴えは心に届いただろうか?
全員が、歓声を上げる、心の中に響いてくる声ではなく、思い思いの鳴き声で、全員が賛成を示した。




