飛翔
大海原を前に、ホムンクルス1st、神谷士郎は病院から貸し出されていた白い手術着のようなものを着たまま、水平線の彼方をじっと見つめていた。
静かな砂浜に、冷たい風が吹き付けるのに、この少年は、寒そうな仕草を見せない。
水平線の彼方を見る少年は、ポツリと呟いた。
「来たか・・・。」
見れば、大海原の向こうに、黒い点が浮かび上がってきている。
それは少年にしか気付けないような大きさだった。
だが、その黒点は徐々に近づいて来ているようだった。次第に輪郭がはっきりしてきて、それが翼を持った生き物らしいことが分かる。
そして、更に近づくにつれて、それが普通の鳥の何倍も大きいのが分かる。
そして、少年の前でその巨大な鳥は止まった。
その衝撃で、大規模な風圧が起こったのだが、少年はたじろぎもしない。
赤い燃えるような体色、体中から、光の粒子のようなものが散布されているのが分かる。
その色は、光の反射によって七色に変わり、荘厳な印象を受けさせた。
フェニックスが現実にいれば、こんな感じだろうか。
そんな巨大な鳥に向けて、士郎は呟いた。
「大きくなったな、俺をちゃんと運んでくれるか心配だったんだが、大丈夫そうだ。」
(ホムンクルス1st、レナ様がお待ちです、私の背にお乗りください。)
声が直接頭の中に響いてくる。
「ふん、レナを介してしか話が出来なかったから、お前がそんな風な喋り方をしていたとは以外だったよ。」
(私は、貴方の変わりように驚きを禁じえません、変わったのですね、何もかもが。)
「ああ、それについては、あとで話すよ、あの時の俺は力が足りなかった、だが、今は違う。」
(では、やはり・・・。)
士郎は少年は、怪物は、薄く薄く笑った。
その思惑は、その双眸は、強大な野心と共にあった。
「行くぞ、ウイングス!」
(はい、レナ様の下へ。)
少年は、ウイングスの背に乗った。
ウイングスの両翼が羽ばたき再びものすごいスピードで、空を駆け抜けた。
「ウイングス、何年ぶりだ?お前と空を駆け抜けたのは。」
(はい、あの時の貴方が人間の年齢で五歳でしたので、十一年振りかと・・・。)
「そうか、急いでくれ、早くレナや、皆に会いたい。」
(では、スピードを上げます、しっかり摑まっていてください。)
ウイングスの体中から出ていた、光の粒子の量が増えた。
「これは・・・。」
そう呟く間に、ウイングスの体は音速に近いスピードで飛翔していた。
ホムンクルス1stはそれでも、振り落とされない。
真っ直ぐに、目的地を見つめていた。




