聖・ルーベルハイスクールにて
真新しい制服、真新しい鞄、真新しい靴。
大きなリボンを胸に付けたワイシャツの上に、黒いブレザーを羽織り、チェックの赤いスカートは膝下まで、タイツはすっぽり足を隠した、清楚なイメージの制服。
ユリアは、聖・ルーベルハイスクールの校門を前に、自分の格好にあれこれおかしな所がないかもう一度綿密にチェックしていた。
「よし!」
どこかのお城でも持ってきたかのような外観の門、趣がありそうなその様子に、入るのが何となく躊躇われる、が、ユリアは気にしない。
緊張しながらも、とにかく中に入る。
高い塀で、今まで見えなかった中の様子が見えた。
中は更にお城のようだった。
東校舎、西校舎、南校舎、北校舎、中央校舎に区切られた広大な敷地、エリアの学校の中では五番目に大きい、校舎、ちなみに、一位から四位までは、全て大学のキャンパスである。
、学校までの道は、茶色、白、グレーの三色のレンガをはめ込んで、鮮やかに、彩られている。
更に、塀の周りには、大きな木々が植えられており、その一本一本に鮮やかな色の花が何本も咲き誇っている。
校舎は更に壮観だ、まさに城、白塗りの大理石で作られたと思われる、壁、西洋の城をイメージさせる、尖った屋根、一番高い所に授業開始の合図を告げるベルが設置されている。
写真以上だった。この光景に思わずユリアは気後れしそうになった。
「とにかく、いかなくちゃ」
ユリアは、もう一度気を引き締めなおすと、中央校舎に向かう。
まずは、職員室に顔を出さなければならない。
レンガの地面を歩き、中央校舎の入り口へ向かう。
開けっ放しの入り口に足を踏み入れると、中の様子を伺う。
中は聖堂のような趣だった。
聖・ルーベルハイスクールの歴史はそんなに長くない、エリアという国家そのものが若いのだから仕方がなかったりするのだが。
そして、その名の通り、ここはキリスト教系の学校でもある。
ユリアの強い要望で、キリスト教系の学校を選ぶことになった。
そして、中をキョロキョロ見回していたユリアに、後ろから声が掛かった。
「貴方が、ユリア=如月さんね?」
ユリアは慌てて振り返った。するとそこには、気の良さそうな、老年の女性がニコニコしながら立っていた。
「よろしくお願いします、私、貴方のクラスの担任をする、アン=ロバートといいますロバート先生と呼んで下さい。」
「はいよろしくお願いします、ユリア=如月です。、この度は、本当に有難うございました、こんな中途半端な時期に。」
「あら、ここに入れたのは、紛れも無く貴方の実力ですよ。
感謝を言われるのは少し筋が通りませんね、途中編入試験の全科目で前代未聞のオールSを取った貴方が、むしろこちらから、頼んで入ってもらっても良かったぐらいですのに。」
「そんな大袈裟です・・・。」
ユリアは、赤面しながら、謙遜した。
「まあ、日本人というのは、なんて謙遜深いのでしょう、私なら得意になっているところですよ。
おっと、無駄話が過ぎましたね、では行きましょうか。」
授業の始まりの合図のベルが鳴り、ロバートは、慌てて時計を見、急ぎ足で、ユリアを案内した。
一階の階段を上り、二階に着くと、すぐそこにある教室を指差した。
一年B組の教室だ。
「では、そこで待っていてください。」
上品な挙動で教室のドアを開ける。
そして、先に自分が入って、しばらくそこで待つように、ユリアに告げた。
しばらく、ユリアは、奥行きのある廊下を見渡した。
ここもやはり聖堂をイメージさせる造りだ。
「ユリア=如月さん、入って下さい。」
ドアの方から声が聞こえる。
「はい。」
と、返事をして閉められたドアを開ける。
そして、中へと入っていった。
緊張の一瞬、ユリアは黒板、では無く巨大なモニターが設置された教壇の前に立ち。
自己紹介をする。
「ユリア=如月です、こんな中途半端な時期ですが、皆さんと一緒に勉強させていただくことになりました。どうぞよろしくお願いします。」
なんとか噛まずに最後まで、言えた。ホッとしたユリアは、教室を見渡す。
概ね、好意的に受け入れられたらしく、教室の全員が拍手をする。
しかし、教室の一人一人の顔を見ると、女子生徒しかいないように見える。
共学だと聞いていたのだが・・・。
「如月さんは、そうですね・・・。
ああ、リンダの隣が空いてましたね。あちらに座ってください。」
「はい。」
リンダという子が、熱烈に、自分の隣の席を指差して、ここ、ここ、とアピールしていた。
ロバートもユリアも苦笑いしながら、その光景を見ていた。
何はともあれ、ユリアは、リンダという子の隣になった。
一つ一つに、ディスプレイがついているタイプの机。
それが生徒一人一人に支給されている。
そして、窓側の席の三列めに、リンダがいて、その校舎側の席がユリアの席になる。
ユリアはそこまで歩いていった。
「ヨロシクね、アタシ、リンダ=イスマイル、リンダって気安く呼んでくれて構わないよ。」
「ええ、よろしくね、リンダ。」
早速友達になれて、ユリアは内心ホッとした。が、それは表情には出さず、ディスプレイに眼をやった。
このディスプレイのおかげで、教科書などの需要はかなり減ったらしい。
最新の科学技術を常にアップデートし教材として最適化して、モニターに表示する、それを教えなければならないエリアの学校では、流動的な知識が必要になるのだ。昨日先生が言っていたことは百八十度今日言うことと違うかもしれない、そんな風な授業が、普通だと刷り込まれて、エリアの学生たちは、学んでいく。
もちろん、それは厳しい世界だが、各国から優秀な人材を引き抜いてくる以上、それは当然と言えるかもしれない。
そんな訳で、入学早々、ユリアは最新の科学技術情報を頭に詰め込むという、スパルタ教育を受けることになった。
もっとも、ユリア自身は、そうは思わなかったようだが。
授業が終わると、ユリアはクラスの数名から取り囲まれていた。
「ねえ、ねえ、編入試験で、全科目Sを取ったって本当?」
「日本人よね?私、日本のお話聞きたいな。」
「ここに来る前はどんな学校に通ってたの?」
などなど、色んな質問を畳み掛けられて、困っていたところに、リンダが助け舟を出す。
「はいはい、ユリアが困ってるじゃない、質問は一人ずつ。」
そんなこんなで、一人一人の質問に答えているうちに、授業開始のベルが鳴った。
次の授業が終わっても、概ね同じような感じで、ユリアは、気のやすまるところが無かった。
三時間目が終わると、そんな人々も少しは減って、ようやくユリアは、気を休めることが出来た。
そして、四時限目が終わり、昼休みとなった。
「ユリア、ご飯どうする?
お弁当?食堂?」
「ああ、食堂にしようかと思うんだけど、場所が分からなくって・・・。」
「それなら、アタシについてきなさーい。」
ニコッと笑って、リンダはドンッと自分の胸を叩いた。
「そうね、それが一番良さそう。」
ユリアもニコッと笑って、リンダについていくことにした。
食堂は、全ての校舎にあるらしく、すぐに着いた。
一階の、奥だった。
そこでは、女子生徒たちが、仲良く談笑をしながら食事を楽しんでいる。
ここで、ユリアが疑問に思っていたことを、リンダに聞いてみた。
「ねえ、ここは共学だって聞いてたんだけど、女子生徒しかいないみたい、どうして?」
「ああ、うん、ここが共学になったの今年からだからさ、男子生徒は・・・、ほら、あそこに居るのを合わせて二十人くらい。」
言われて、見てみると、五人くらいの男子生徒が、グループを作って談笑しているのが見えた。
「そんなに少ないんだ。」
「ま、恋愛対象にするのはよすことだね、ろくなのが居ないみたいだから。」
「よくそこまで言えるわね。」
「まあ、あのグループはマシなほう、少しだけ顔が良いのも居るしね。」
「ふーん。」
そう言いながら、ユリアは、食堂のメニューを眺めた。
「和食もあるのね、あれにしよっと。」
「じゃあアタシもそれにするよ。」
二人の頭からは、男子生徒云々のことは消え、食事に関心が向いてた。
そんな中、その男子のグループの一人が、ユリアに熱い視線を送りながら、呟いていた。
育ちの良さそうな顔つきで、サラサラした金髪の男前な青年。
「なあ、あの娘、誰かな?」
「うん?日本人か、確か転入生が入ってくるって言ってたからその娘だろ。」
「確か編入試験全科目S判定だったって。」
「うへえ、麒麟児だな、まさに・・・。」
「しかし、確かに中々可愛いな、惚れちまったのか、テュール?」
テュールと呼ばれた青年は、呆然としながら。
「ああ、綺麗な娘だな・・・。」
「やめとけ、やめとけ、そりゃお前のルックスならある程度の女ならいけるだろうけど
あの娘、未亡人の目をしてる、恋人を最近亡くしたって顔だ。」
「なんでそこまで分かるんだよ、パトリック。」
質問したのはテュールではなく。その隣に座っていた男子生徒だ。
「雰囲気さ、俺が今まで口説いてきた女のなかでも、一番難しい上に、手酷い目にあうのは決まってああいう目の女の子だった。」
「このナンパ師め、今お前、確か三又掛けてるんだったよな、この外道!」
「いや、ただ仲良くしてるだけでその言い草は勘弁して欲しいよな・・・。」
自分の隣に座っている男子生徒の言葉に、パトリックは苦笑いしながら言い訳がましく言った。
「いや、でもその点テュールは偉いよな、女と付きあったこと一度も無いんだろ?
勿体ねえよな、そんなにルックスも良いのに。」
「贅沢なのさ、こいつは。」
パトリックがそう締めくくる。
全員が屈託無く笑う、ただ、テュールだけが笑わなかった。
呆然と、ユリアの方を見て、ため息をついていた。
ユリアはそんな視線に気付かず、リンダと談笑していた。




