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家族

「今日から、ここが君の家だ。」

豪邸と言うに相応しい、建築物を前に、ユリアは固まっていた。

その家の外観は、洋館と言った感じで、噴水が庭の中央に配置されており、広大な庭、日本にあるような公園なら、二つは入りそうな庭である。

ここは、エリアの住宅街から数キロ離れた場所にあり、ここら辺一体の土地をセイファは買い取っているらしい。

ユリアが日本の神父に相談したところ、是非ともセイファの養子になって、勉強に励むようにと、言ってくれたので、ユリアはセイファの養子になり、この家に住むことになったのだった。

「どうした?何か不都合でもあるか?」

セイファが、ユリアの顔を心配そうに覗き込んだ。

「いえ、あまりに大きくて、ビックリしました・・・。」

セイファは、さもありなんという顔で頷いた。

「うん、確かに私の家はエリアではハザード=クライシスの住居の次に大きいからね。

 もっとも、周りに勧められて、半ば強引に買ってしまった家な物だから、もてあまし気味なのだ。

 私と妻で、最初は広すぎる家で淋しい思いをしていた。

 使用人と執事を雇って、やっと活気が出てきたところだ。

 それに・・・、君も新しくここに住んでくれることになった。妻は君と会えることを楽しみにしているんだよ?」

その言葉に、ユリアは疑問を覚えた。

「あの、お子さんはいらっしゃらないんですか?」

ここで、セイファは少し決まりの悪そうな顔をする。

「あ、何か言いたくない理由があるのなら結構ですから。」

「いや、話そう。

 ・・・改造兵は、ハイマネティックゲノムという微生物を体に埋め込んでいるのだが。これが生殖をする際に、受精卵と精子の結合を妨げるらしい。そんな訳で、私と妻は子が成せない。」

ここで、ユリアは、自分がこの家に養子として引き取られるもう一つの意味を理解した。

セイファと妻は、子供に愛情を捧げたいと思っている。

普通の家庭、普通の結婚生活を形作るために。

セイファは、ユリアがそこまで悟ったのを見抜き、慌てて、付け足した。

「別に、君を子供代わりにしようとかそういうことではない、ただ、妻には淋しい思いをさせてきた。

 君という存在が、妻の心を支えてくれるなら、これほど嬉しいことは無い。

 もちろん、君がその役回りが嫌だというなら。もちろん、私も妻も君にそんな扱いはしない。」

「いいえ。」

ユリアは首を振る。

「いいえ。」

もう一度首を振る。

「いいえ、そんなことありません!」

ユリアは、嬉しそうに、楽しそうに否定し、話し続ける。

「私、嬉しいです、家族は、お父さんもお母さんもいないって諦めていたから。

 そんな風に思ってくれる人がいるなんて、ただ嬉しい、だけど・・・。」

ユリアの表情は、ここで沈んでしまう。

「私、喜んでいいんでしょうか?士郎が居なくなったのに、そのおかげで、私は幸福になって、士郎がいなくなったのに、私は心の奥でずっと欲しがっていたものを手に入れてしまって。」

それは、深い罪悪感、ただ、嬉しく、ただ後ろめたい。そんな思いが交錯する罪悪感。

少女の胸は張り裂けそうになっている。セイファは、後ろめたさを感じる。少女にこんな悲しい思いをさせた一旦は、間違いなく自分にあるはずなのだから。

(どうすればいい、どうすれば、この少女の悲しみを一時でも紛らわすことが出来る?)

気休めでも、まやかしでも、ユリアの心から、悲しみを一時でも忘れさせてやりたかった。それが彼女のためになるからだ。セイファの結論はこうだった。

セイファは、無言でユリアの肩を抱いた。

そして、もう片方の手で、ユリアの泣き濡らした顔にハンカチを出して、涙を拭ってやる。

「大丈夫だ、私は彼とはそう会っていないが、君の幸せを責めるような男ではなかった。

 君は幸せを掴んで良いはずだ、それが、彼の供養にもなる。」

セイファは、今や自分を畜生にも劣る人間だと考えている。

それでも、守りたいものがある、この少女と、少女の父親との約束だ。

自らを堕としてでも、嘘を突き通してでも、この少女だけは幸せにすると何度も誓った。

ユリアは、しゃくりあげながらも、セイファに言った。

「じゃあ、本当にそう思うんだったら、君じゃなくて、ユリアって呼んでください。」

少し、戸惑い笑顔になる、少女の涙と、少しだけ取り戻せた笑顔を見て。

「ああ、ユリア、ミカエリ家へようこそ。」

セイファ=レオ=ミカエリと、如月ユリアは、豪邸の中へと入っていく、セイファはかつての友と、これから娘になる少女のことを思いながら。ユリアは、これからの生活の事を考えながら。

二人は歩いていく、仲睦まじい家族のように。


エリアの中心にそびえ立つ、大きなビルの最上階で、ハザード=クライシスは椅子に座りながら、ある人物の来訪を待っていた。

すると、最上階の部屋の自動ドアが開く音がして、軍服を着た男が中に入ってきた。

「お呼びでしょうか?ハザード様。」

「おお、ニーチェ!来てくれたか。お前に頼みたいことがあるのだ。」

ニーチェは敬礼のポーズをする、機械のように冷徹そうな瞳で、動きで、その動きは完結した。

「かしこまらなくてもいい。」

「いえ、そういう訳には行きません、私を救ってくださったのは紛れも無く貴方なのですから。」

ニーチェは敬礼のポーズを崩さず、突っぱねるように言った。

「君は、頑固だな・・・。ところで、他の二人はどうしているかね?」

他の二人とは、もちろんジェーンとアーリマンだ。

「はい、貴方の作戦を進めるため、順次活動中です。

 ジェーンは貴方に会えなくてつまらないと、ぼやいていましたが・・・。」

「ふーむ、その内時間を作ろう、君たちは私の子供みたいなものだし。

 家庭を円満にやっていくコツは、こまめに家に顔を出すことだ、そうだろう?」

「は、全くその通りで・・・。」

ニーチェは、丁寧な動作で腰を曲げる。

ハザードは、そんな様子を満足そうに眺めながら、呟いた。

「お前は、本当によく出来た息子だ。

 血も繋がっていないが、それでも、私は、お前を息子だと思っている。」

「は、有難き幸せです。

 それで、任務というのは?」

ニーチェは顔を上げて、尋ねた。

「ああ、例の失敗作がまだ生きてたようなのだ。その抹殺を命じる。」

「は、では日本へですね?」

「そうだ、日本だ。」

ハザードはチェスの駒を振るように、命じた。

チェックメイトをかける棋士のように、後一歩、後一歩で、彼の勝利は揺るがないものになる。

彼はゆっくりとほくそえんだ、家族という名の「駒」を敵へ差し向けて・・・。


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