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ウォルフ

青年は、荒く息を吐いて、地面に突き刺した剣にもたれっていた。

(まずい、まだ一匹残ってる。立ち上がれ、でないと死ぬぞ!)

青年の体が、脳が、本能が、イグナにそう訴えかけた。

一瞬、立ち上がろうとしたイグナだが、すぐに諦めた。

無理だった、力が残っていない。

「ここで終わりか、あっけなかったな・・・。」

最後の一匹を見据えるイグナ。

「さあ、来いよ、もう俺は剣を振るえない、さっさと息の根を止めてくれ。」

イグナは、半ば自暴自棄になりながら、懇願するように呟いた。

「サラ、ごめんな、俺は・・・。」

イグナは、単独行動で、逸脱した行動を取った、それも任務中にだ。

この森のどこかには小隊のメンバーがいるだろうが、そう都合よくここには現れないだろう。

敵は、警戒して、こちらに来ようとしないがそれもいつまで続くかは、時間の問題だろう。

ついに、敵は身をかがめ、突撃の体勢をとった。

黒い毛並みが、砲弾のようなスピードをさらにそれっぽく見せていた。

イグナは、覚悟を決める。

血飛沫が上がり、喉元を食い破られた、そして、絶命する・・・。

はずだった・・・。イグナの体は、所々傷があるものの、健在だ。

血飛沫を上げたのは、黒い毛並みのフェンリルのほうだった・・・。

白い影が、黒いフェンリルを切り裂いていた。

イグナは、その影を凝視した。

それは、狼だった。白い毛並みの、しかも、フェンリルよりも数倍大きい。

「な、なんで?」

イグナは自分でもわかるような間の抜けた声を出していた。

白い狼は、ゆっくりとこちらを向く。

(何故、とはどういうことかな?)

頭に声が直接響いた。

イグナはいよいよ意味が分からなくなってきた。

「お前が喋ってるのか?」

質問に質問で返すイグナ、それだけ気が動転していた。

(いかにも、私の声が聞こえるとは、お前さんは中々、熟練した戦士のようだな、

 ああ、しかし、感情に任せて戦っているようでは、隙を取られて当然だな。)

殊勝にも、イグナの初対面の人、ではなく狼には失礼な質問にも、特に気を悪くした様子も無く、狼は答えた。イグナをなじるおまけ付で。

「熟練した戦士ならお前の言葉が分かるのか?意味が分かんないぞ?」

(ふーむ、まあ、理解に苦しむのは分かるぞ、つまりだ、音に周波数があるように、波に波長があるように、力にもレベルというものがある、その力という周波数が、ある程度似通ったもの同士なら、意思の疎通が出来る。よくいう、拳を交わしただけで心が通じ合うと言うのはそれだな。お前さんと、私の力にはそう差は無いと言うことだ。)

イグナは、剣にもたれかかったまま、ポカンとしていた。

「やっぱ、夢でも見てんのかな?

 狼の講習会を受けることになるなんて、夢だとしか思えない。」

イグナは、左手で自分のほっぺたをつねってみた。

「いてててて、あれ、痛い、痛い?」

(おまえさんは一体何をやってるんだ?)

狼の表情が呆れたようなものになる。ため息をついているのが分かる。

「夢じゃないんだな?

 一つ聞く、お前はsinなのか?」

狼は、しばし、考え込むような仕草をした。

(うむ、まあ、お前さんたち人間が言う所のそれで間違いは無い、

 だが、私には、私の産みの親であり、友である者から貰った名前がある。)

「名前?お前にか?」

(うむ、ウォルフと言う名だ、私はこの名前を気に入っているので、そう呼んでくれるとありがたいな。)

「わかった、よろしくなウォルフ。」

(・・・お前さん、なんか軽いな・・・。

 もうちょっと、狼に名前があったの!とか、誰がつけたんだそんな名前、とか、言うと思ったのだが。)

イグナは、やっと立ち上がり、腕を組んで、首を傾げた。

「なんでそんなこと聞かなきゃならないんだ?」

(まあ、そんなことはどうでも良いのだ、私の友から、お前さんに伝言を預かっている。)

「伝言か、なんだ?」

(うむ、お前さんの仲間の神谷士郎、私たちのいう所の兄は、まだ生きている。

 自暴自棄にはなるな、との事だが。)

「士郎が生きている?」

イグナは、驚愕した。そんな、都合のいい、ことが、あって、いいのか?

「やっぱ夢だな・・・。さっさと目を覚ませ、俺。」

イグナは傍の木にガンガン頭を打ちつけた。

(おい、やめろ夢じゃない、夢じゃない、本当のことだから、自暴自棄になるなって。)

狼は、イグナにの傍によって、慌てて言った。

「まじでか、夢じゃないの、士郎が、生きてる?」

(その言葉を所々で切って話すのをやめてくれんか?)

「ああ、悪い、でも本当なんだな?」

(ああ。)

しかし、とウォルフは口ごもった。

(お前さん達の所には恐らく戻らないだろう。)

イグナは、えっ?とウォルフを凝視した。

「何でだよ?どういうことだ?」

イグナは問う。

(うーむ、あやつは元々そちら側の人間ではないからな・・・。)

「どういうことだよ、それ?」

同じ質問を繰り返すイグナ。

(あやつは、私たちと同類だ。より正確にいうと、私たちとも違うのだが。

 全てを思い出したとき、あやつがどちらを取るか、それが、問題なのだ。)

やはり、この狼の言っていることは分からない、イグナは、辟易しながら、もう一つ質問をした。

「士郎のことはわかったけど(嘘)、なんでお前は同類を殺したんだよ?」

(あやつらは、私を産んだ者が作り出した失敗作でな、お前さん達が倒しているのは、主に失敗作だ。私のような知能がないから、産み出した者の言うことは分からない、だから、制御ができんのだ。それで、無差別に人を襲う。友は、それに心を痛めておる、私が出て行って、倒そうとしたのだが、私を敵だと思ったお前さんの仲間に酷い仕打ちを喰らう始末だ。)

「それは、悪かったな・・・。」

イグナは、気の毒そうな表情で言った。

(うむ、ではな、そろそろお前さんのお仲間が来る頃のようだ。)

ウォルフはさっと身を翻し、深い森の中へ消えていった。

それと入れ替わるように、いつもの面々が集まってきた。

「おーい、イグナ!単独行動はやめろよな!」

「ああ、悪い。」

謝りながら、メンバーの下へ向かうイグナ、合流する直前に、ウォルフが去った方向を見ながら。

「なんだったんだろうな?」

夢にしては、リアリティがありすぎた。と、いうより夢ではない。

イグナは、士郎の無事を保障してくれた狼に心の中で、感謝をし、帰路に着いた。

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