真っ白な少年
暗闇に染まった視界、夢の世界で、少年は夢を、声を聞いていた。
―お兄ちゃん、大丈夫だよ。
「お兄ちゃんって、誰?僕の事?」
―私が助けてあげるから。
「僕に妹なんていたの?」
―その内きっと思い出すよ、きっと。
少年はゆっくりと瞼を開けた。
眩しい光が眼に入り、顔をしかめた。
「夢・・・。」
少年は呟いた。
そして、辺りを見渡した。
白い部屋、右手の方向に窓があり、日が射している。
そして、白いカーテンが辺りに掛かっているので、部屋の様子を知ることが出来ない。
「実験室じゃ、ないのか・・・。」
ここで、少年は、自分がそう呟いたことを不思議に思った。
実験室とは、何かしらの科学的な実験などを行うところではないか、どうして、自分がそんな所にいなければならないと言うのだろう?。
少年は、横たわった状態から、体を上げた。
そして、どうやら自分がベッドで今の今まで寝ていたらしいことを知る。
「眼を覚ましたかい?」
カーテンの向こう側から、白衣を着て、眼鏡をかけた髭がボーボーの男が入ってきて、少年に話しかけた。
「貴方は、研究者の方ですか?」
少年は問う。
「いや、私は見ての通り医者だけど?
初めてだね、そんなふうに聞かれたのは・・・。」
医者は意外そうに、少年の顔を見ながら、顎鬚を撫でて、苦笑いと共に呟いた。
しかし、一番驚いたのは少年自身だ。何故そんな質問をしたのか分からない。
この状況では、相手を医者だと思うほうが自然だ。
「まあ、医者も医という道を追いかける研究者ではあるけどね。」
医者は少年のそんな胸中には気付かず、そう締めくくって、更に続けた。
「君、お名前は?」
「披験体001、です。」
「ひけんたい?
なんだって?」
少年は、医者の素っ頓狂な表情と声を、見聞きしながら、我ながらなんて変なことを口走ったものだと自分自身をなじっていた。
「いえ、すいません、分からないんです。」
そう、分からない、思い出せないのだ・・・。
自分がどこの誰で、どんな人間だったのか。
「なるほどね、記憶喪失ってわけかい・・・。」
なんてこった、といった表情で、医者は片手で顎鬚をまたもや撫でる。
「君の身元が判りそうなものは、全部爆風で吹っ飛んだみたいだし、服もボロボロで、どんなような服を着ていたのかも分からないときた。」
「爆風?僕、爆発に巻き込まれたんですか?」
「ああ、テロリストの自爆テロだ、運悪く居合わせたんだろうな。
記憶を失うほどショックだったのか、それとも強く頭を打ったせいなのかどっちだかは分からないけどね。
まあ、その内記憶は取り戻せると思うよ?こういうのは一時的な場合が多いんだ。
おっと自己紹介がまだだったね、僕は日下部文博、お日様のひに下って言う字をかいて、部活の部ってかいて、くさかべ、日下部先生と呼んでくれると嬉しいな。」
日下部は、にっこりと微笑んで、手を差し出した。
「よろしくお願いします、日下部先生。」
少年も手を握り、硬く握手を交わした。
「まあ、ゆっくり思い出すといい。
いつまで居てもいいから。」
そういい残して、日下部は去った。
少年は、真っ白な表情で、それを見送っていた。




