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説得

士郎は眼を瞑り、ラグナロクに煽られ、暴動に参加した人間達の声を聞きながら、ただ待つ。

そうしながら、士郎は心の整理を必死でつけようとしていた。

今まで倒してきた相手は全て怪物だった。多少の罪悪感はあったものの、それでも、倒すのに躊躇はなかった。

イグナとの訓練とも違う、相手は生々しいまでの感情をぶつけ、生々しいまでの気迫をぶつけてくるだろう。イグナとの訓練では、恐ろしいまでの感情の奔流をお互いにぶつけ合うことは無かった。

ただ、訓練として、反面、楽しさすら感じながら、士郎はイグナとの戦いをこなしていたのだ。

だが、今回は違う、楽しさも向上心も、そういったプラスの感情を持って動く人間はおそらくあの中にはいない。

(僕に相手が出来るだろうか?)

士郎は自分自身に問いかけながら、ゆっくりと眼を開けた。

考えても仕方が無い、敵は目の前に迫っているのだから・・・。

敵は既に目と鼻の先に居た。

戦闘の一人だけ明らかに国籍が違う女性が叫んだ。

剥き出しの感情を刃にして、毒々しいまでの剣幕を切っ先にして、士郎の体を貫くかのようにその言葉は士郎の心に突き刺さる。

「エリアの犬か!!」

その迫力に、有無を言わせない迫力に、誰もが静まり返った。

その静寂が、暴動の列の最前列まで、ドミノ倒しのように波及していく。

フレイ=ヴァナディースは、怒りと言うより、憎しみに近い感情を士郎へ向けてきた。

何故?士郎はたじろいだ。まだまだ幼い士郎という人格は、フレイがぶつけてきた人間的なあまりに人間的な感情に、憎しみという感情に大きな衝撃を受けたのだった。

そして、それは、暴動を起こした起こした民衆にも動揺にではないが、伝わった。

フレイはそんな士郎の様子も、民衆の様子も気に留めず、さっきよりは穏やかな声で更に続けた。

「私を殺しに来たという所か?

 それとも、私を含むこの集団すべてか?」

挑戦的な視線・・・。自分が負けることを考えても居ない、真の強者の余裕。

「僕は貴方と話し合いに来ました。

 どうか話を聞いて欲しい。」

士郎は、冷や汗をかきながらも、何とか言葉を切り出した。

「話し合い?く、くふふふ、ははははは!」

あざけるよな笑い、士郎はまたもその人生経験の中でも数少ない剥き出しの感情に出くわし、さっきほどでないにせよ、衝撃を受けた。

「ハザード=クライシスの手駒、セカンドシーズンの改造兵が、私と話し合おうだと?

 そんなこと、信じられると思うのか?」

「セカンド・・・シーズン?ハザード・・・クライシス?」

士郎は訳が分からなかった、少なくとも、彼女が大変な勘違いをしているのだけは分かった。

「しらばっくれるな!!」

言葉と共に、振り下ろされる二本の刃、士郎はフレイの姿を凝視していた。

何者も恐れない、そんな形容が似合うような、鋭い視線、筋肉質な体は女性としてのか弱さを微塵も感じさせない。白い肌、ロシア人だということは、聞いていた。

士郎はその全てに気圧され、反応が一瞬遅れた。

それでも何とか、上段から振り下ろされた二振りのの刃を黒い銃剣で受け止める。

後ろの群集から、フレイを激励するような、熱狂的とも言える歓声が上がる。

フレイの金色の髪がなびき、次の攻撃への動作にフレイは既に入っていた。

左右から同時に挟むように剣がはらわれる。

士郎は必死にバックステップをしながら、なんとか相手を説得しようと試みた。

「聞いてください、イグナさんも、サラも、他のみんなあなたの帰りを待っています。」

ここで、ぴくっと、フレイの眉が動いた。明らかに同様が見られた。

「何故、その名を?」

フレイは腕を胸の前でクロスさせ、剣を両手に構え、姿勢を低く保ちながら士郎に問う。

「副隊長、僕はこの度新たに第一小隊に入った、神谷士郎です!

 みんなの頼みです、貴方を連れ戻して欲しいと!だから、僕はここに来ました!

 貴方を殺すためではありません!」

全力の叫びだ。これが届かなければ、全ては頓挫する、イグナとの約束も、小隊のメンバー全員との無言の約束も、それでも、そうするしかなかった。だから、士郎は叫ぶ。

まだ救えると信じた相手を、そう相手は人間なのだから、言葉の通じない怪物ではないのだから。

その言葉を受け、ゆっくりと、フレイは口を開いた。


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