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少年の尊厳

士郎は逃げていた。必死で一秒でも長く、一秒でも速く、できるだけ遠くへ、できるだけ向こうへ。

「く、なんで、なんでこんなことに。」

絶望と諦めが頭をよぎる、だが、それでも走り続けた。

逃げなければいけない、今はとにかく、走らなければならない。

大地を踏みしめ、ひたすら前へ前へ、狭い建物の細い通路を駆け抜ける。

そして、出口が見えた。

「あと、少し!」

士郎は足に力を込めた。

だが、ここで、勢いあまってつまずいてしまう。

ドッシャアアアア!という痛そうな音と共に、士郎の体がつんのめる。

「ここまでだな・・・。」

「往生際が悪かったね。」

「まあ、楽しめたよ。」

敵が士郎のもとへツカツカと歩み寄ってくる。

士郎はこの世のものとは思えない絶叫を上げた。


なんで、こんなことに、士郎は絶望に打ちひしがれて、心の中で何度も呟いた。

「いや~、しかし本当に似合ってるよな~、シロー。」

「だから俺言っただろう士郎には絶対メイドさんがお似合いなのニャ~って。」

そう、彼、神谷士郎は今、メイド服を着せられているのだ。

ブロンドのかつらに機能性ゼロの日本の電気街でチラシを配っていそうな人々のメイド服。

しかも、両膝をぺたんと内股に開いて、頬を赤らめて恥らうおまけつき。

「う~、嫉妬しちゃうぐらい可愛い、なんか複雑な気分だな~。」

サラが呟く。

「いや、サラの方が断然可愛いよ!同じメイド服をきれば絶対!」

なにげなく自分の欲望を満たそうとしているロト。

「いや、シローがかわいそうだからやめてやれよ、お前ら。」

良識あふれるコメントを送ってくれたビクター。

さっきから黙っている、テイルズとサクヤ。

こうなったいきさつはこうだ。

新人歓迎会と称して、士郎の入隊を記念して、全員でプチパーティーのようなものを開いてくれた。

ここまではよかった、全員未成年なのに酒を飲んでいた。ここからが良くない。

みんなベロンベロンに酔っていた。そこで、だれが一番女装が似合うかという話になり、全員が士郎を推す。ここで、ノアが「こんな所にメイド服があるのは何の因果かニャ~?」なんて言い出したからさあ、大変。士郎は0,1秒で逃げ出した。が、あっけなくつかまり、今に至るというわけだ。

シクシクと士郎は泣いていた。男の尊厳を踏みにじられた。

こんなひらひらした物を無理やり着せられ、写真まで撮られてしまった。

「いや~、あれだ似合ってるぜ、シロー。」

イグナはフォローしてくれているようだがフォローするところが違う。

「うん、可愛いよシローさん。」

・・・だから、フォローするところが違う。

「うん、だからフォローするところが違う。」

(ありがとうビクターさん、でも、そうするぐらいならみんなを止めて欲しかった。)

(すまない、僕にはそんな力は無い。)

眼で会話をする士郎とビクター、何故か心が通じる二人。

そんな中、サクヤが呟いた。

「う、美しい。」

「へっ?」

バッ!と瞬間移動して、士郎の前に来て、その手をグワッと掴むサクヤ。

「こ、これが女の子じゃないとは、何たる神への冒とくだ!

 僕は初めて神を恨むぞ、だが、性別の差なんかでこの愛はかき消せやしない!

 さあ、士郎君、いやシロコちゃん、僕と一緒に禁断の愛を語り合おうじゃないか!」

変だ、眼がおかしい、完璧に酔っている。冗談を言っているようにもみえないし・・・。

「お、おい、みんなでサクヤを取り押さえろ!シローが危ない!」

イグナの号令と共に全員が一致団結して、サクヤを止めに掛かった。

「は、放せ!や、やめろ、こんなことで僕の愛が覆るとでも思っているのか?

 おおシロコ、僕のジュリエット、たとえ離れても僕のことを忘れないでおいておくれ!」

テイルズはドタバタやっている、他のメンバーを尻目に、サクヤがさっきまで飲んでいたボトルを確かめてみた。

「こ、これは酒じゃない!」

「な、何?どういう事だテイルズ?」

「エリアで製造されて、すぐに発売中止になった惚れ薬、ピュアピュアハートだ!」

「な、なんだって?あれは確か、飲んで最初に見た異性をしばらくの時間、メチャクチャ好きになると言う奴じゃないか?どうして、酒とそれを間違えるんだ!?」

「ごめんなさい、一緒に置いてあったものだからてっきりお酒なのかと・・・。」

サラが責任を自己申告した。

「く、今は責任どうこう言っている場合じゃねえ、どうすれば元にもどるんだ?」

「一時間後に元に戻ると書いてあるが。」

かくして、サクヤは一時間薬の効果が切れるまで押さえつけられていた。

普通の縄では簡単に切られるし、手錠も簡単に粉砕されるからだ。

士郎もその間に、着替えを奪い返し、(服を取り上げらていた。)着替えた。

波乱の幕開けとなった士郎の第一小隊生活、士郎は若干不安を覚えつつ、忘れたい思い出を心の奥底にしまい、南京錠をかけ、鎖でぐるぐる巻きにして仕舞った。

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