イグナの回想2
「さっさと金を出せ!人質を一人ずつぶち殺すぞ!」
店内に銃声が響き渡る、犯人の一人が天井へ向けて発砲したのだ。
犯人グループは五人、全員が黒い覆面を被っていて素顔は見えない、従業員はいそいそと黒いバッグに札束を詰めている。
体には迷彩服を装着しており、全員銃身の長いライフルを所持しているので覆面が無ければどこかの軍隊の人間かと見まごう程だ。
店内には十数人の客と従業員が居た。
その中の母親に抱きかかえられた子供が恐怖に耐え切れずに泣き出す。
「おい、うるせえぞ!しずかにしろ!」
続けて天井へもう一度発砲し、警告を出す。
「いや、見せしめに一人ぐらい殺しとくか?」
リーダー格と思われる男は、覆面の上でも分かるように薄く笑って子供に銃を突きつける、
子供はピタッと泣き止んだ、口から嗚咽が漏れ、心臓が早鐘のように打つ。
「やめてください、この子だけは!」
母親は、泣きじゃくりながら、子供を体の後ろに隠しながら懇願する。
「なんだ、二人まとめて死にたいのか?」
残忍に、凶暴に、男は人差し指に力を込める動作をした。
「まって!待ちなさい!」
その瞬間、人質の中の一人、青いドレスを着た女性が叫んだ。
その眼には、おっとりした印象はまるで無く、静かな怒気を含んでいた。
相手を威圧する態度、風格、それを含んだ言葉。
男は、それに一瞬圧倒されかけた。
「無用な殺生はやめなさい、人質は私一人で良い筈、他の皆さんは解放して頂きます。」
「おい、どっちが命令する立場かわかってねえようだなあ、今は俺が命令する立場だぜ、お嬢様よ。」
男は銃を見せびらかすように、女性に突きつけた。
「撃ちなさい。」
その銃口を掴み、自分の心臓へ向ける。一切の緊張も無く、ナチュラルに、それが普通であるかのように、呼吸をするようにその行動は行われた。そして、その言葉も、自然と口から出たものだった。
男は、小さく、本当に小さく一歩、後ろへ後ずさった。
それに、自分だけは気付いた。
女性の青い瞳が真っ直ぐ自分を見つめている。
「く、くそ!」
男は銃を持っていないほうの腕で、女性を突き飛ばす。
女性はあっけなく突き飛ばされ、倒れた。
「もう、勝手なまねすんじゃねえぞ!」
男は倒れたままの女性を怒鳴りつけた。
女性は、そのままの姿勢で、キッと男を睨みつける。
「やっぱ、殺すか。」
銃を向ける。青いドレスを真っ赤に染めて、見せしめにするために、俺に逆らうとどうなるか教えてやる。
本当に一瞬、か弱いはずの女性に圧倒された自分を誤魔化すように、自分自身に自分の力を誇示するように、引き金を引こうとする。
が、その瞬間、パリイイイン!というガラスの割れる音共に、何かがATMに突っ込んできた。
「な、何だ!?」
誰かが叫ぶ、それはこの男だったかもしれないし、従業員だったかもしれないし、客だったかもしれない。
だが、飛び込んできたその何かにとってはどうでもいいことだ。
その飛び込んできた物体は人の形をしていた。
いや、人間だった。だが、本人に聞けば、こう答えたことだろう、「できそこないの化け物だよ、俺は。」と。
自分自身を出来損ないの怪物と揶揄する人間、イグナの戦闘ではなく、蹂躙が始まる。
ATMに向かって、走り出したイグナは、中で何か揉めているのが分かった。
見張りに付いていたと思われる、覆面が、こちら側を見ていなかったからだ。
これは好機と、イグナは一気に跳躍し、十メートルほど飛び上がる。
後ろで、誰かが息を呑むのが聞こえる、だが今はそんなことは関係ない。
イグナは、ATMのガラス張りの窓を思いっきり殴りつけた。
ガラスは簡単に崩れた。犯人の人数は既に把握している、まずは窓側の男の一人のみぞおちに軽いボディーブローを喰らわせ、昏倒させる。窓側にいたもう一人が何事か叫びながらイグナに発砲する。
が、イグナは身を小さくかがめてそれを避けると腹部に手刀を浴びせた。
意識を刈り取り、その体を支え、地面に下ろしてやる。
「なにしてる?撃て、撃て!」
男が叫ぶ、ポカンとしていたほかの二人が、ハッとしたようにイグナに銃口を向け、引き金を引き続ける。
弾丸が、青年の体に無数の風穴を開けて、血まみれにする。
はずだった、弾丸はイグナの体を貫く事は無かった。
イグナは全ての銃弾を掴み取っていた。
「ふーん、旧式のライフル弾じゃん、こんなもの使ってるってことはお前らエリアの犯行グループじゃねえな。」
イグナは掴み取った弾丸を見つめながら無駄口を叩いた。
「ば、化け物!く、来るな!来るなああああ!!」
つかつかと歩みよるイグナに効かないと知りつつも銃弾を発射し続ける強盗の二人。
「そうだ、俺は化け物だ、だから、せめてこの力は守りたいものを守るために使わせてもらう。」
自嘲気味に、しかし、明確な覚悟を持って、イグナは突き進む、途中何度か銃弾を浴びながらも、あるものは掴み取り、あるものはその身に受け、傷付きつつも。
そもそも、ライフルごときでこの男が殺せるならば、エリアは改造兵など作り出さない。
遂に弾が切れ、恐怖におののきながら、逃げようとする男二人の首に手刀を食らわせ、その場に倒す。
あっけなく倒された二人を見て、恐怖に顔を引きつらせつつも、まだリーダーの男は希望を失っていなかった。
青いドレスの女性の手首を掴んで、自分の所へ引き寄せると、勝ち誇ったように馬鹿笑いしながら。
「おい、おい!さあ、止まれ!いいか、動くとこの女を撃つぞ!」
イグナの足がピタッと止まる。
「そうだ、そのまま手を上げろ。」
イグナはゆっくりと手を上げる、その手から、掴み取っていた銃弾が零れ落ちる。
それは地面へとゆっくり落ちていく、イグナは足を後ろに引いた。
そして、軽く、その銃弾を蹴り上げた。
一直線に、銃弾は、男の覆面で隠されていない右目へ吸い込まれるように猛スピードで進んでいった。鮮血が舞う。
「うおおおおお!痛てえええ!痛てええええええええ!」
男はたまらず銃から、女性から手を離し、血がどくどくと流れ出る眼を押さえながら苦痛にうめいた。
イグナは、ごろごろと床をころがる男の意識を刈り取るべく、押さえつけ、腹に一撃を喰らわせる。
グハッとうめき声を上げ、男は悶絶する。
「大丈夫か、あんた。って二回目だな。」
男が銃弾を喰らう過程で、女性を突き飛ばしていたのだ。
床に倒れたままだった女性に手を差し伸べるイグナ。
そんな中、四方八方から、歓声が上がった。
イグナを褒め称える声だ。
「ありがとうございます!ありがとうございます!」
子連れの母親が泣きながら、イグナに感謝を述べる。
「兄ちゃん、どこで習ったんだ?あんな技、すげえぜ。」
人質にとられていた男性の一人が感嘆の声を出す。
イグナは戸惑っていた。いままでこの力を使って、人助けをしても周りを遠ざけるだけだったのに。
今は違う、誰もがイグナを賞賛し誰もがイグナを敬遠してなどいなかった。
青いドレスの女性が立って、言った。
「自分が賞賛されているのが意外ですか?」
「あ、ああ。」
女性の青い眼は不思議な光を宿し、イグナの心を見透かす。
「精一杯がんばった人間を、ただ人と違うだけで、その努力を認めないような人はそうそういませんよ。 あなたも、認められるときが来たんです。」
人だかりがイグナを囲む中、女性の声ははっきりと聞こえてきた。
「なあ、あんたの名前は?」
しばらく考えて、遂にひねり出した言葉がこれかよ、とイグナは自分で自分をけなしたが、女性はフフフと笑うと、答えた。
「ソフィアです、ソフィア=オルズワルド。今日は助けていただき有難うございました。」
それから、イグナとソフィアは頻繁に会い、親交を深めていく。
だが、ある日イグナとソフィアの仲をさく出来事が起こる、いや、イグナが一方的にその絆を断ち切ることになる。が、これは、また別のお話。




