予想外です!
「すごい、すごい、すごいですよ!
予想外です、全てにおいて!」
仮想世界から帰ってきた士郎にミーナはすかさずまくし立てた。
やはりこの人のテンションにはついていけない、と士郎は日本人と外国人の感情表現の違いをかみ締めながら思った。これまで幾度と無くそういった違いを感じていた士郎だったが、このミーナと言う女性と接してみて、特にそれを痛感したのだった。
「士郎クン自信もそうですが、ドルク局長の武器の設計も、全部、私が考えていたものとは別次元のものでした!
ううう、嬉しいいいいい!。」
ミーナのテンションが、振り過ぎた炭酸飲料のように弾けとびそうになっている。決壊寸前だ。
ミーナは腕をバタバタ振って、さらに続ける。
「やっぱり、やっぱり、研究の醍醐味は研究が全く見当はずれの結果を出したときにその違いを楽しむ事に在るわけですよ!
私は士郎クンがヨルムンガンドを倒すのに有す時間はあと一分ほどだと思っていたわけですが、士郎クンはあっさりとまあ、この予想を打ち砕いてくれたわけです!」
「・・・・。」
一人でヒートアップするミーナを苦笑いで見つめる士郎、ミーナはそんな士郎の痛い視線に気付くと、カァッと頬を赤らめた。
「ご、ごめんなさい、私、テンションが上がると、自分の世界に入っちゃうんです。
ドルク局長にもこの癖は直すように言われてたんですけど・・・。」
「なるほど・・・・、まあ、感情表現豊かなのは良い事だと思いますよ。
僕はよく、感情表現に乏しいって言われてましたから、うらやましいくらいです。」
士郎は戦友の顔を思い出し、少しうつむきながら肯定的な意見を出してみる。
「それも、そうかもですね・・・。」
ミーナはそんな士郎の様子に何事か感じ取ったのか、少し控えめな言葉で士郎の言葉を受け入れた。
重苦しい雰囲気が流れる。
「あ、チューニングって、戦っただけで良いんですか?
それともまだ何かやることがありますか?」
士郎は自ら作り出してしまった重苦しい空気を断ち切ろうと、明るい声で質問した。
「あ、はい、ええとですね・・・。
今ので、大体の作業は終わりました。
でも、ニルヴァーナっていう最後の機能について説明しておきます。」
「ニルヴァーナって、所有者の細胞を喰らい、新しく、より強靭に作り変えた物を体中に増殖させ、瞬間的に爆発的な力を出すって言うあれですか?」
「全くそのとおりです、知っているとは予想外でした。」
ミーナの顔が綻んだ。(予想外の事が起きるたびに嬉しそうな顔をするなこの人。)士郎はそう気付いた。
「この武器には、と言うより、オーダーされた武器はみんな生態兵器なのはご存知ですよね・・・・。
はい、この武器ももちろん生態兵器です、つまり、生きている。
より正確には活動していると言った方がいいかもしれませんが・・・。
とにかく、それぞれの武器に、ハイマネティック・ゲノムという微生物を埋め込んでいます。
この微生物は他の生物の細胞の情報を読み取ることで、互いに強く結び付き合い、結合する力を持っています。結合した微生物は、生き延びる為に宿主に力を与え続けます。これが改造兵の正体。
つまり、改造兵に埋め込んでいる微生物と、武器に埋め込んでいる微生物は同じものなんです。
そして、何故これが武器に埋め込まれているかと言うと、この細胞は、ある金属に付着させると、それを細胞だと勘違いして、強く結びついちゃうんです。」
慌てんぼさんなのかもしれないですね、と付け加えて、ミーナはここで一度言葉を切った。
「ここまでで、分かりにくいところとかはありましたか?
なんて、先生みたいですけど。」
「はい、とても簡潔で分かりやすいですよ、先生。」
士郎はにっこりと冗談めかした言葉で答えた。ミーナは少し恥ずかしそうに頬をかきながら説明を続ける。
「ええと、その金属の詳細までは、私専門じゃないので良く分からないんですけど。
とにかく、その金属と、ゲノムを結びつけることでその金属の分子と分子の結びつきがより密になるんです。だから、普通の金属より何倍も硬く、丈夫になるんです。
これを武器に使わない手は無いでしょう?
さらに、ハイマネティック・ゲノムのもう一つの性質、結びつくのではなく、細胞を喰らう。」
「喰らう・・・。」
「はい、そうです。
細胞を喰らうことで、新たな細胞に作り変えてしまうんです。
ここまでは、士郎クンも知っていますよね?」
このクン付けがことさら先生っぽくて士郎は苦笑してしまったがなんとかハイと返事をする。
「今度は結びつくのではなく、完璧に新しい細胞を作り出してしまうので、それを体に埋め込んだら当然、体は元が自分の細胞であっても拒絶反応を起こしてしまいます。
しかし、運の良い事に、この新しく生まれた細胞は数十秒で死滅します。
よって、体には殆ど影響が無い。
では、その状態にする、つまり細胞と結びつくのではなく、喰らわせるにはどうしたらいいのか?
それは、金属と結びついた微生物が所有者の強い思念を感じることで、所有者の細胞を喰らい、その力を発揮します。」
「思念ですか?」
「はい、思念です。」
ミーナの言葉には、表情には冗談めかしたものが一切感じられない、真剣そのものだ。
「ハイマネティック・ゲノムは電気情報として体中に流れる電気を感じ取って、その性質を変えるんです。」
まるで、それは、おとぎ話のような、本当の話だ。
士郎は得体の知れない興奮を感じているのを感じた。
「僕にも、その力が使えるようになるんですか?」
「はい、まだ、士郎クンと、ルシフェル・スキアーのシンクロ率が低いんです。
ニルヴァーナが使えるかどうかは、士郎クンがこれからその武器とどう付き合うかで変って来ます。」
「あの・・・。」
「なんですか?」
士郎はここで口を挿み、疑問を口にした。
「あの、ニルヴァーナを使ったときに、体から光が出てましたよね?
あれは、何なんです?」
「それが、よく分かってないんです・・・。何かの粒子だと言うことは分かってるんですが・・・。
私の憶測は一応ありますけど・・・、聞きたいですか?」
「はい、是非。」
自信無さげなミーナだったが、士郎は聞いてみたいと思った。躊躇無く、返事を返す。
「私は、あれは、人間の体では押さえきれない、余剰エネルギーを光の粒子と言う形で放出しているのだと思います。実際、実力者ほど、粒子の輝きが強いそうなので・・・。」
「なるほど・・・。」
「あ、当てにしないで下さい。明確な論理があるわけじゃないので。」
納得する士郎に、ミーナは慌てて言葉を付け加えた。
「あ、と、そろそろ、私、研究室に戻らなきゃ。」
ミーナは腕時計を見て言った。
「珍しいですね、この時代は携帯を持っていれば時間も見れるのに・・・。」
「あ、これは父の形見なんですよ。
父も研究者だったんです。ずっと前に死にましたけど。
あっと、余計な話をして御免なさい。じゃあ、この武器のチューニングも済みましたので。
さようなら、また会いましょう。」
複雑な表情をする士郎、ミーナはそれ以上その話題に突っ込まれたくなかったらしく、強引に話題転換をし、スーツケースを士郎に渡すと。足早にシュミレーションルームを去っていった。
その後姿に、士郎は聞こえるか聞こえないかくらいの大きさで、士郎は呟いた。
「ありがとうございました。」




