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休息と失踪と

科学者ドルクは自身が担当する対sin専用兵器開発部門の研究室、主に武器の製造を担当している区画に向かうため、薄暗い研究室から出、まばゆいライト(彼にとっては)に顔をしかめながら歩いていた。彼の研究室とこれから彼が向かう場所は同じ建物の中にある。

士郎たちが訓練を日常的に行っている場所からそう遠くない場所で、歩いても十五分とかからない。

つまり、ここはエリアの科学者達が集まるエリア最大の研究施設であるわけだ。

その中でも兵器開発部門は特に重点を置かれている部門で、その局長であるドルク、通称ドヴェルグは中々に重要人物なのだ。通称であるドヴェルグ、も北欧神話の小人族の武器職人からきたものだ。この愛称は彼の卓越した能力に敬意を表してつけられたものである。

(極論、悪い気はしないのだが・・・。)小人族の武器職人ドヴェルグは浅黒い小人で、融通の利かない性格だったという。好意でこの愛称が使われているのは分かっているが、一方で複雑な気分もする本人にとっては微妙なあだ名だったのだ。

何はともあれ、ドルクは今、目的地の前に着き、ID認証のついたドアにカードを読み込ませ、中に入っていった。

中に入ると、何人もの研究者達がせわしなく動いていた。この部屋には窓のたぐいが一切無く、業務に必要なだけの光量に調整された蛍光がいくつかあるだけだった。

壁の色は灰色で、そのため少し薄暗い感じがするが、実際に作業をする分には不便になることはない。研究員達は、あちこちで難しい用語を使って議論を交わしあい、または手をせわしなく動かして作業をしている。そんな中、その中でひときわ眼を引く人物、白衣を着ているのは他の研究員と変らない、しかし、ほとんどの研究員が男であるのに対して、その一人だけが女性だった。

それだけで相当目立つが、彼女は、少し幼い顔立ちをしてはいるものの美人と言うに相応しい容貌をしている、その上、さっきから研究員達に色々と指示を飛ばしていた。

歳は二十歳をこえているが、童顔なせいでそれ以下に見られることが多い。

赤い縁の眼鏡や、そばかすの多い顔も彼女の童顔を際立たせていた。

そして、ふと、その女性研究員がこちらを見て、驚きの表情を見せてから、笑顔になり。

こちらに向かってきた。

「ドヴェルグ局長じゃないですかー。もーホントたまにしか来てくれないんですからー。

んで、今日は何の御用ですか?それは新しい設計図ですか?」

最初の言葉こそ非難めいた物だったが、全く棘を感じさせない口調で、どころか親しみ深い印象を受けた。

「やあ、ミーナ、いつもここの仕事をまかせっきりですまんな。これは無論、新しい武器の設計図だ。極論、武器の製造を頼みたい。」

ドルクが白い設計図を渡すと、他の研究員たちまでもが近づいてきた。

「へえ、面白いアイデアですね、例の期待の新人さんの武器ですよね?」

ミーナは設計図をすみからすみまで眺めながら問う。

「極論、知っていたのか?神谷士郎のことを。」

「もちろん、私の情報網、舐めないほうがいいですよ。

実はもうそろそろ局長が来てもいい頃なんじゃないかとおもっていたわけですよ。」

ミーナはニコリと微笑みながら自分の腕時計を指差して。「うーん、あと十分後に来る予定だったんだけどな。」と、呟いている。

「極論、そう物事の見立てと言うのは簡単ではないということだ。」

「もちろん、それは分かってるわけですけど、でも、予測の範疇を超えて来る現実が私にとっては面白いわけで、局長が今回わたしの予想を外してくれたことも私にとっては嬉しいことなわけですよ、なぜなら局長が設計図を書き終えるのに私はあと十分ほど必要だと思ったわけですけど局長は私の予測した未来よりも十分早くここに来たわけです。これって局長が私の考えていた局長よりも遥かに上の存在だったと言うことの証明になるわけじゃないですか。これだからやめられないんですよ、未来を予想することって、未来は常に私の想像を超えてくれますから。」

眼を輝かせながらまくし立てるミーナをなだめるように、ドルクは呟いた。

「極論、その話は何度も聞いた。」

「あ、今のは予想通りの反応ですね、ちょっとガッカリ。」

「極論、君はめんどくさい。」

「おー、今のは予想外の反応です。お見事!!

私の見立てでは「極論、何故分かった?」だったのに。」

ハーッと息を吐き出しながらドルクは思った。これさえなければ非常に優秀な部下なのだが、と。

「とりあえず、この兵器の製造と神谷士郎用にチューンナップする作業を頼んだ。」

「えっ、チューンナップは局長がやるんじゃないんですか?」

そのまま去ろうとするドルクの背中にミーナは問いかけた。

「しばらく私は出る、いつ戻れるかは極論、分からんが、やるべきことが彼のおかげで見えたのでな。」

「はあ、彼、って神谷士郎くんのことですか?」

「そうだ。」

ドルクは振り返らずに、短く答えた。「それと・・・。」とさらに続ける。

「それと、なんですか?」

ミーナはその後の言葉を知るべく、質問を続ける。

「極論、なんでもない。後は任せたぞ。」

「はい。」

部屋を出て、誰も居ない廊下を歩きながらドルクは思案に暮れる。

神谷士郎の正体について、思い当たる節があったのだ。

(彼がそうなのだとしたら、しかし、アレは処分したはずだ。

しかし、そう考えればつじつまが合う、極論、そうでなければ神谷士郎の力は説明できない。

極論、確かめるしかない、さっきそういったではないか。)

そう、やることが見えたのだ。神谷士郎の正体を裏付けるという仕事が。

(極論、あれが生きているとすれば計画に支障をきたすかもしれん、可能性は低いが確かめる必要がある、行こう、始まりの場所へ。)

ドルクはそう決意した。

(安心しろ、如月、君の計画に支障をきたす可能性があるものは全て排除する。)


数日後の未明、科学者ドルクは突然の失踪を果たす。何の痕跡も残さず、文字通り消えたように。


 一方、自分の存在がそんな大きな失踪事件を起こすことになるとは思いもしない士郎はユリアと共にエリアの最大のショッピングモール、ミーミルチェストに訪れていた。

大きな店内に、エリアで人気ナンバーワンの菓子店スウィートスウィートや、洋服店キャメル、日本料理店ヤジロベーなどたくさんの店舗が建てられており、中々に賑わっている。

こうなったのは数時間ほど前、ユリアが「たまには買い物の相手位してくれたっていいじゃない。」

と、疲労困憊といった感じでアパートでくつろいでいた士郎を引っ張ってきたからだ。

「やっぱり、ここに来たらスウィートスウィートは外せないわ、でも、生菓子だから最後に買わなきゃね。」

なんとも女の子らしい感慨にふけって、自分の欲望を抑え、少女がなごりおしげな眼で菓子店のショーケースを見送った。一方で、士郎はその姿を見て苦笑いしながら束の間の休息をかみ締める。

第一小隊に入るか入らないか、それを決めるまでに一週間の猶予を与えられた。

それまでは何の任務もこなす必要がない。

今日、どちらにするか決めようと士郎は思っている。

さすがに一週間も怠けるのは気が引けたし、実はもう自分専用の武器のオーダーが始まっているという。

断るなら早めに断ったほうがいい。

それともう一つ、大事なことがある。

この前買ったアクセサリーを、ユリアにわたすことだ。

いいかげん、この厄介な荷物を処理しなければならない。

士郎はポケットの中にある、忌々しい鎖つきの装飾の重さ(物質的な重さではなく、精神的な重さだ。)を感じながらどのタイミングで渡すか思案した。

そう、女の子にプレゼントを渡したことなどないのだ。

ショッピングモールの中には無数のカップルが歩いている。

人種が違うカップルも居れば、同国籍と思われるものもいる。

しかしだ、士郎は別にユリアを女性として意識してアクセサリーを渡そうとしているわけではない。

ただ単に、流れで買ってしまったこの忌まわしい物体をどうにかしたいだけなのだ。

士郎はユリアをチラッと見た。

今日、彼女はフリルの着いた白いワンピースを着ており、腕と太ももがかなり露出した結構大胆な格好をしていた。しかし、不思議と清楚さを失わないワンピースの効力は中々のものだと士郎は思った。

この格好なら、このアクセサリーもとてもよく似合うだろう、とも。

この時代のファッション事情は良く分からない、というかファッション全般に疎い士郎でも、ユリアが中々におしゃれなのは良く分かる。

(そうだよ、なにも意識なんかしてないんだから普通に渡せばいいんだ。

無理やり買わされちゃって、どうしようもないからあげるよ、とでも言えばいいんだ。)

ショッピングモールの大きな洋装店の前まで差し掛かった時、士郎が話を切り出そうとするのと、全く知らない第三者が声を上げるのは全く同じタイミングだった。

「あの・・・ユリ・・・、」

「おおおおお、そこのお嬢さん!!そう、君だよ君君!!」

士郎の言葉は謎のおっさんの発した言葉にかき消された。

「え、私ですか?」

どうやらその謎のオッサンが声をかけた相手はユリアだったらしい。

「いや~、すまないね~、いや、ホントでかい声だしてすまないね~。

そっちのお兄ちゃんもなにか言おうとしてたみたいだけど、かき消しちゃって、すまないねー。」

「えっ、士郎何か言おうとしてた?」

「い、いや大したことじゃないから。」

「そうかい?すまないね~。」

謎のおっさんは大体四十歳後半と思われる、サングラスを掛けいるため、その眼は見えないが、黒く日焼けした皮膚と、もじゃもじゃの髭、ハワイにでも行ってきたのかと突っ込みたくなるアロハシャツ。

正直怪しかった。ぶっちゃけ怪しかった。怪しいを通り越して妖しかった。

「まあ、そう警戒しない、いや~、怪しくてすまないね~。」

「自覚はあるんですね。」

ユリアをかばいながら前に進み出て、あからさまに警戒心を露にする士郎を謎のおっさんは警戒心を解くように働きかける。それに対して、士郎は結構辛らつな言葉を掛ける。

「まあ、落ち着いて自己紹介をしようじゃあないか。私はオッサン。」

「はあ、知ってますけど?」

「違う違う、私はおじさんです、って言ってるわけじゃなくて、オッサン、名前がオッサンなの!!」

「へー。」

明らかに偽名だろ、と言うような表情を見せたユリアと士郎にオッサンはパスポートを差し出した。

そこにはちゃんと、オッサン=ナマエガ=オッサンナノと記名されている。

「ますます、怪しいですよ、オッサン=ナマエガ=オッサンナノってますます偽名っぽいじゃないですか。」

「そうですよ、一体どこで偽造したんですか?私、今すぐ出頭するなら、裁判の席で証言くらいならしてあげます、この人は重度の精神疾患を患っていますって。」

二人はさっきまでの辛らつな目をやめ、可愛そうなものをみるような目になった。

「精神異常者扱いはやめておくれ、いや、ほんとすまないいんだけど、これは本名だし、変えるわけにもいかないし、親から貰った大事な名前だから、それにこの名前を偽名だって騒ぎ出すのは日本人だけだよ?私も日本語を習って、自分の名前がおかしいのは気付いていたけどどうしようもないじゃあないか?」

「うっ。」

一理ある、と言うふうに頷く二人、二人の手痛い追求をかわしたオッサンは更に続けた。

「いや~すまないね~。なんか、まあ、話を聞くだけでもいいからさ?」

「・・・、わかりましたよ。話を聞くだけですね?」

渋々承諾する士郎、ユリアも納得し、そこら辺のカフェに入って話を聞くことにした。

カフェ、ムーン・バックス、は名実共に、世界ナンバーワンのシェアを誇るカフェ店だ。

しかし、今は昼時でもないので、あまり込んではいない。

四人用のテーブルの片方にユリアと士郎が座り、もう片方にオッサンがどかりと座る。

士郎とユリアがアイスティー、オッサンがエスプレッソを頼んだ。

しばらくして、注文が届くとオッサンは喋りはじめた。

「まず、単刀直入に言おう!!そこの少女に、私は萌えをかんじたのっだ!!」

空気が静まり返る、やっぱこのオッサン、ただの変態か、士郎はそう切り捨てた。

「行こう、ユリア。」

「待って待って待って、ストップ、ストップ!!」

オッサンは涙眼になりながら必死で士郎の足を掴んで既にユリアの手を掴み、会計に行こうとしている士郎を必死で押しとどめた。

「なんですか?」

「話はこれからだよ?お願いだから帰らんでくれ~、頼むよ~。」

「は~、しょうがないなー。」

士郎はため息をついて席に戻った。

ふと、ユリアを見ると、赤くなっている。

「え、萌える、とか言われたから照れてるの?」

「ち、違うわよ、急に手なんか握る・・か・・・ら・・・。」

ユリアは更に赤くなっている、言葉も小さくてよく聞き取れない。

さらにもじもじしだしている。

「あ、そうかトイレだね?なんだ、恥ずかしくていえなかったんだ?」

「おう、お嬢さん、トイレの我慢しすぎは良くないよ?尿毒症ってのは結構怖い病気だからね?」

したり顔で的外れな事を言う二人に平手が飛んだ。

二つの真っ赤な紅葉が舞う。

「な、なんで叩かれるのさ?」

「ふ、ふふふ、すまないね~、私はMだからね、叩いたって嬉しくなるだけだよ?」

三者三様の答えを返す面々(実際は二人だが。)。

「いいから話を続けてください?」

ユリアは笑顔だった、ただし、怖いぐらいの・・・。

「は、はい!!」

こうしてオッサンの話は始まった。

要約するとこうだ、オッサンはファッション誌のカメラマンで、被写体を探していたところ、偶然にもそれにぴったりの被写体であるユリアを見つけることが出来た。

そこで、写真を撮らせて欲しい、というわけだ。

「んで、それは一体どんな雑誌で、どういう格好をさせられるんですか?」

「ええと、これだよこれえ、すまないね~今、今月号しか持ち合わせていないんだけど。」

士郎とユリアはまじまじと差し出された雑誌の表紙を見た。

月刊誌、「japanese moe (ジャパニーズ 萌え)」・・・、デカデカとメイド服を着た少女が表紙に乗っている。

「聞いたことないよね?」

「うん、しかも思いっきり胡散臭い。」

とりあえず、表紙をめくって中を見てみた。

メイド服、スチュワーデス、婦警、チャイナ服、その他もろもろ、過剰に肌を露出したものは無いが、着るのに結構勇気が要りそうなものばかりだ。

被写体の女の子は全て日本人であるらしく、(少なくとも全員東洋人だ。)ユリアが被写体に選ばれる理由もはっきりしてきた。

「どう?すごいでしょ?萌えるでしょ?君、君ならわかるよね?」

「はあ、そもそも萌えって今から一世紀ぐらい前に流行った死語ですよね?

それに、こんな古いコスチュームばっかりで売れるとは思えないんですけど。」

士郎は手痛く雑誌を批評した。

「分かってないなー!!これから流行の最先端に返り咲くのさ!!

日本の歴史を語る上で萌えは非常に大切な要素なんだよ?

このエリアを中心に、日本の文化を広めて行こうってのが僕の狙いなわけだけど。

でも、日本人の娘って結構少なくてね、現地に行って撮るのはお金かかるし・・・。」

ここで、思いっきり暗い顔をして、言いよどむオッサン、

「しっかあああああし!!僕は今日女神を見つけたのだ!!」

直後には立ち直り、グワッと立ち上がり、腕を上に振り上げ、ユリアをビッシィィィッと指差した。

店内の客やウェイトレスがビクッとした。士郎たちも例外ではない、が、そんなことはお構いなしにオッサンはヒートアップする。

「そう、綺麗な黒髪、パッチリした眼、淡いピンクの唇、わかる私にはわかる、彼女はノーメイクだから、さほど目立たないが、ノーメイクでこれだけの美貌だ、一流のメイクアップアーティストにメイクをやらせたら、どれだけの美少女になるか?そして、そして、そして、聞かなくても分かる!何より彼女は幼馴染属性っだ!!!」

「「は?」」

最初の言葉は何となく分かったが最後の言葉が良く分からない。

「幼馴染属生っだ!!!」

「いや、聞こえてますよ、二回も言わなくていいですから。」

再び拳を振り上げて叫ぶオッサンに、士郎は冷静に突っ込んだ。

「は?なんていうもんだから~、すまないね~気こえなかったんだと思ったよ。」

聞こえてないんじゃなくて意味がわかんないんだよ。と、士郎は心の中で毒づいた。

やっぱり帰ろうか、とチラッとユリアに目配せしようとしたが、ユリアは案外乗り気そうな眼をしている。

(えー、まさか被写体になりたいとか言うんじゃないだろうな。)

士郎は心の中で呟いたが、それで相手に伝わったら苦労はしない。

「えーと、とりあえず、幼馴染属性の意味を教えていただけるとありがたいんですが。」

士郎はとりあえず真っ当(と本人は思っている。)質問をした。

が、相手にとっては真っ当な質問ではなかったらしく、激しい勢いでオッサンはまくし立てた。

「君!属性をその歳になって理解していないとはどういうことだね!?

妹属性、巫女属性、ドジッ娘属性などなど、数あれど、その中でも妹属性に肩を並べる双璧、幼馴染属性を持つ少女をはべらせておいて、それを知らないだとう?」

「わかりました、分かりましたから落ち着いてください。」

胸倉を掴んで、唾を飛ばしながらまくし立てるオッサンを制しながら、士郎はユリアに眼で助けを求めた。しかし、ユリアはなにやら思案に暮れているらしく、全く反応しない。

一分ぐらいまくし立てられた後、ようやくオッサンが落ち着いて、胸倉から手を離し、咳払いをした。

「取り乱したようだ、すまないね~。

本題にもどろう、是非とも!君の写真をこの雑誌の表紙に載せたいのだ!!」

全力の言葉、オッサンは全力で、ユリアに直球勝負を挑んだ。

「考えさせてくれますか?時間をください。」

打球はヒット、ホームランとはいかないものの得点の可能性がある。

かくして、オッサンはユリアに連絡先を渡し、どこかへ去った。

「本気かい?ユリア。」

「どうだと思う?」

店から出て、ショッピングモールの雑踏へ踏み込もうとする幼馴染の背中は妙に弾んでいるように見えた。

「しかし、よくわかったよな~、僕とユリアが幼馴染だって。」

士郎はオッサンの眼力に感心しつつ、ユリアの背中を追いかけた。

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