士郎の本領は・・・。
士郎は森林の中に立っていた。
仮想現実の中の世界、訓練のために作られたバーチャルシュミレーションシステムが作り出した世界。
辺りを見渡しても、それは本物と見分けが付かない。
しかし、今、士郎に辺りを見渡す余裕は無かった。
目の前に敵がいて、目の前に恐怖がある。
殺気を痛いほどに感じて、士郎は一歩、わずかに一歩だけ後ずさった。
それが、戦いの火蓋を切る。
わずかな士郎の怖気を感じた「敵」が常人にはありえない脚力でその隙を突いた。
テイルズの体が十メートルほどの距離を難なく跳躍し、一気に詰めた。
テイルズの持っている武器は奇妙な形状をした剣、西洋風の古典に出てくるような感じの剣ではなく、現代的なデザイン、両刃の剣で、刃は銀色、刃の中心を貫くように赤い炎の装飾が施されており、テイルズの動きと共にそれが揺らめき、燃え盛る炎のようなイメージをいっそう濃くしていた。
そして、それが士郎に向けて振り下ろされた。
士郎は間一髪で身を反らし、縦に振り下ろされた剣から逃れた。
「ちっ。」
テイルズは舌打ちをしながらさらに横薙ぎに剣を振るう。
士郎は今度はおなじみの装備である銃剣で受け止めた。
ガッキイイイイン!!という金属音が鳴り響いて士郎は吹っ飛ばされる。
士郎はそのまま吹っ飛んで深い森林の木の一つに強かに身を打ち付けた。
「ぐふっ!」
体に衝撃が走る、バーチャルリアリティが痛みの信号を士郎に送り込んだ。
しかし士郎はすぐさま起き上がると、次の攻撃に備えて身構えた。
銃剣の切っ先を相手に向けて、引き金を引いた。
銃声が連続し、テイルズの体に風穴を開けようと弾丸が襲い掛かる。
士郎はここで勝負が決まるとは思わなかった。イグナとの勝負では銃を撃っても足止めにしかならなかった。事実、テイルズは複数の弾丸を全て見切ってその剣で叩き落していた。
士郎はその事実を再確認し、人智を超えた化け物に突撃した。
今度は体に恐れは無く、適度な緊張感を持っていた。
―そう、この時、本当に恐れが消えていた。
イグナさんと何度と無くトレーニングした。
だから、すぐに分かった。イグナさんの方が強いって。
その頃、ドヴェルグ含む一番小隊メンバーはこの様子をモニターから見ていた。
「っひゃあ、驚きだニャ~、あの一発目を避けるとは~。」
「あっでもふっとばされて、いや、起き上がった。すごいな彼は。」
サクヤもノアも手放しの賞賛を士郎に送った。もっとも士郎にそれが分かるわけは無かったが。
他のメンバーが湧き立つなか、イグナだけは当然のことのようにそれを見つめていた。
「?、お兄ちゃん、どうしたの、士郎さん負けてるけど、すごいよ?」
「いや、あいつの本領はあんなもんじゃない、見てろよサラ、凄いことになるから。」
イグナは士郎との訓練とそのときに交わした言葉を思い出していた。
三週間ほど前、いつものようにシュミレーションルームで士郎とイグナは訓練を終えていた。
「なあ、士郎、一週間戦って、やっとお前のことが分かってきたぜ。」
「なんです?それ。」
おもむろに話しかけてきたイグナに士郎は問い返した。
「いや、ほらお前の戦闘のくせというか、特徴というか。」
「特徴ですか?」
「うん、そう、特徴。」
イグナは頷くと、さらに続けた。
「お前は強さにムラがあるんだよ。戦ってて思ったんだけどさ、本当にたまに、お前はスゲー強くなるんだ。かと、思ったら次戦った時には元に戻ってたり、ようはその強さが発揮できるのはどんなときかっていうのを考えてみたんだ、俺なりにな。」
「なるほど。」
士郎は合点がいった、というふうに頷いた。
「で、どんなときなんです?」
「自分でも気付いてるんじゃないのか、それは・・・。」
イグナの言葉が途切れた、士郎は聞き逃したのかと思い、聞き返した。
「やっぱ、自分で考えな。」
イグナはそういい残すと、去って行った。
モニターの中で奮戦する士郎を見ながら回想を終えたイグナは心のなかで呟いた。
(本当はお前も気付いてるはずだぜ。)
士郎はあの超人的な力を出したことを覚えていない、と毎度毎度言っていた。
あるいは、それが超人的な力であることを気付いていないのかもしれない。
それでも、彼は改造兵に匹敵するほどの力を引き出し、事実ヨルムンガンドという強敵さえ打ち砕いた。死の危険を感じ取ったときに発現する力、それが士郎の保有する力。
その力の正体をまだイグナは知らない。死の危険を感じ取ったときにのみ発動する力はまるで小動物のように臆病な士郎の気質をある意味表しているのかもしれない。それでも、だからこそその力は強力な武器となりえるのだ。
モニターの中で追い詰められる士郎を見てもイグナはなんらあせらなかった。
士郎の本領はそうなってこそ発揮されるのだから




