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始まりは回想から・・・。

廃墟同然となった街並み、崩れ落ちたビルの数々。

その中に、今にも死に絶えそうな少年と、それを見守るもう一人の少年、そして少女が二人。

死にかけている少年は見守っている少年と瓜二つだった。

弱々しい印象を受けるまでの細いからだ、少女のように白い肌、不思議な光を湛えた眼。

一つだけ違うのは、死に掛けている少年の髪の色は黒で、それを見守る方は白色の髪をしていること。

その様相は、二人が同じ存在でありながら、対極にいる事を示しているかのようだった。


「士郎。」


少女の一人が少年に駆け寄り、その傍に座り、少年の頭を持ち上げ、自分の膝に寄り添わせるように置いた。


「ユリア・・・ごめん。」


少年が言つぶやいた瞬間、少女は長い黒髪を揺らし、整った顔を涙でぬらしてしまった。

少女の口から嗚咽が漏れ、涙が少年の顔に掛かっている。


「お兄ちゃん。」


もう一人の少女がやはり泣きながら少年に駆け寄った。少女のその肌は少年に似てとても白く、髪も銀色がかった白色で、まだ幼く他の少年達よりはまだ歳を重ねていないことが分かる。


「心配するな、俺は死なない、レナ。」


少年は最後の力を振り絞って、白髪の少年を、もう一人の自分を手招きした。

白髪の少年もそれに応じ、少年に駆け寄り膝をついた。


「俺の全てを、お前にやる、受け取ってくれるか?」


白髪の少年は涙をこらえながら答えた。


「・・・・はい。」


「今度は、俺みたいに間違うなよ?」


少年の腕が光を帯び、もう一人の自分の額にかざされる。

その瞬間、大量の情報が白髪の少年の頭の中に流れ込んできた。

すべての記憶を1と0に分解し、大量の電子情報としてもう一人の自分へ送り込む。


「俺は、お前の中で生き続ける。」


それが最後の言葉、少年の意識はここで途切れた。

そして、白髪の少年の中に記憶が流れ込んできた。



俺、いや、僕?そうかあの時はまだ僕って言ってたんだっけ。

どこで変ったんだっけ?どこで僕は間違ったんだっけ?



 もっと僕が幼かったころ、いつの間にか、僕はある教会に孤児として引きとられたんだった。

この時はまだ、僕は僕だった。この教会で、ユリアと友達になって、父親のような役割をしてくれた神父さんがいて、あの時は楽しかった。なにも難しいことなんて考えていなかったから。

この時じゃない、僕が変ったのは・・・。

じゃあ、いつ?いつだっけ、僕は記憶をまさぐってみた。



 「ええっ!神父さんが?」


少年、神谷士郎はいきなりの報せに驚きを禁じえなかった。


「ええ、残念ながら、そう長くないって。」


「どこで、聞いたの?その話。」


士郎は、信じたくない、冗談であって欲しい、という願いからわざと疑り深そうな口調でユリアを問い詰めた。


「シスター達が部屋で噂をしているのを聞いたのよ、なんでもまだ治療法の確立していない病気なんだって。」


「そっか。」


士郎は現実を再認識するようにつぶやいた。

でもね、とユリアは続けた。


「士郎、いい方法があるの・・・、エリアよ。」



そう、この時ユリアが言った一言が僕達の人生を変える事になったんだったね。

「エリア」数年前に新しく建国された国家、その国家の理念は未確認生命体、「sin」を駆逐すること。 「sin」は、正体も、生態も不明な生き物で、人間の生命を脅かす存在だと認識されていた。

当時のエリアは、独自の技術力を持っていたから、もしかして神父さんを治す技術も在るかもしれない、僕らはそう思ったんだ。


・・・、誰よりもやさしくしてくれた神父さんに恩返しをしたいって、気持ちばかり焦ってたんだろうね。

でも、ユリアの言葉は決して考えなしのものじゃなかった。

兵役って言う手があったんだ。

エリアは、「sin」を倒すために、一人でも多く人材を欲していた。

例え16歳の少年でも、エリアとの契約を済ませればそこの兵士になれる。

そして、そこの科学技術の提供、高い給料が入る。

僕は、すぐに契約を始めた。いろんな書類を書かなきゃいけなかった。

保護者の実印が必要なところは、上手く騙して判子を押してもらった。

神父さんが笑顔をを崩さないで判子を押してくれたときは涙をこらえるので必死だった。

あれが学校の書類に見えるわけ無いのに、余程無理をしてたんだろうなあ。

そして、その日になって、神父さんが全てを知って、僕達を叱りながら抱きしめてくれた、その眼に涙をためて。

あれは、きっと忘れられない出来事だった。

それから神父さんの治療は済んだ。エリアから来た医師が治療をしてくれた。

それから僕とユリアはエリアに移り住み、徴兵生活を送ることになった。


 二人が旅立つその日エリア行きの大きな飛行機の前で、神父が見送りにきていた。


「いいんですか?ユリアまでいく必要は無いんですよ?書類にサインしたのは士郎だけなのに。」


「いいんです。士郎はカップラーメンしか作れないんですから、私が面倒見なきゃ。」


ユリアは気丈に答えた。

士郎はユリアの言葉に苦笑いを浮かべる。


「士郎、人一倍優しい君が本当に敵を殺すために武器を振るえますか?」


神父は士郎の肩に手を置いて問う。


「いえ、僕は誰かを守るために武器を振るうんです。」


士郎は首を横に振って答えた。


「そうですか、ならば行きなさい。」


神父は士郎たちに背を向け、空港の方へ戻っていった。

そして、士郎たちは大荷物を引きながら、飛行機へ乗り込んだ。


初めて乗った飛行機の中は何だか息苦しくて、耳が痛くなって、ちょっと不安になったのを覚えてる。

でも、ユリアが隣にいたから、僕は不安に押しつぶされることは無かった。

本当に感謝してる。


エリアに着いて、その街の規模には眼を見張った。僕達の住んでたところとは全く違う、ビルが何本も立ち並んでいて、車やテレビ、その一つ一つが技術的に十年ぐらい進んでいるような感じだったんだ。

それから、エリアの住宅街のアパートを借りて、僕達は二人暮しを始めたんだ。

と、いっても僕はずっと、軍の訓練を受けていたから、ほとんど一緒になることは無かったんだけど。

まだ、この時も、僕は自分を僕って呼んでたな・・・。



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