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私の転移物語  作者: ぱんだまる
二章:転移4日前
8/16

転移4日前 栗原律子

授業開始の5分前に、ようやく教室にかけこむことができた。

教室ではほとんどみんな席についていて

扉をあけると、みんなの目線がこちらに集まるのが少し恥ずかしかった。

こんなギリギリにくるのなんて、初めてだったから

その視線が何か落ち着かず、見知った人の声を聞くとほっとした。


「律子、今日は遅かったねぇ~。寝坊でもしちゃったとか?」


「あ、そういうわけじゃないんだけど・・・。」


「そらそうだな。九条じゃあるまいし・・・。」


あ、真一君。今日は朝練で一緒にいれなかったからちょっと残念。

後で朝練で何やったのか聞いておかなきゃ・・・。


「う、うるさいよ、真一君!

 でも、律子って朝練に遅れたことなんて一度もなかったから

 何かあったのかなって・・・。」


「うん・・・実はちょっと弟が熱だしちゃってね。

 それでちょっとドタバタしてたの。」


「え!?まさ君、大丈夫なの?」


「あ、うん・・・単なる風邪だって。

 大丈夫・・・ってわけじゃないけどそんな大袈裟な病気じゃないよ。」


「そっか・・・早くよくなるといいね・・・。」


「うん、ありがとう、麗奈ちゃん。」


弟の正志はまだ小学生だったので一人にするのは心配だったんだけど

お父さんがお仕事休んでみてくれる、というので

私は学校にいくことになった。

三時間目の授業が終わる頃に連絡があって、

熱もだいぶひいたときいて、一安心っていった所。


「ぐはっ~!ようやく昼休みだーーー!」


「ふふっ、真一君お疲れさま。」


そして、そしてお昼休みになったんだけど、

もうなんていうか、見てるこっちがハラハラしてしまう。


「あ、ひ、浩也!

 わ、私ね・・・き、昨日ね・・・。」


麗奈ちゃんがお弁当箱を2つもって霧島君に話しかけている。

でも、篠崎さんはとなりのクラスだし、早く言わないと・・・。


「浩也、お弁当つくってきたの。一緒に食べましょう。」


隣のクラスから篠崎さんが現れてしまうよ!

と思った時には彼女はもう目の前にいた。

やっぱりこうなるのかぁ・・・。


「わかった、じゃあ、俺は行くぞ九条。」


「あ、う、うん・・・そうだね・・・。」


「行きましょう、浩也。

 あ、そうだ・・・麗奈も一緒に食べない?」


「えっ?」


驚く麗奈ちゃん。でもそれ以上に

その後ろにいた私と真一君はお互い口をあんぐりさせて

見つめ合ってしまった。


「せっかくお友達になったんだし、ね?ダメかしら?」


「え、い、いえ!ぜ、全然ダメじゃないです。

 ・・・じゃなくてだ、ダメじゃないよ。」


「そう、よかった。浩也もかまわないわよね?」


「あ、ああ。俺は別に問題ないけどな。」


さ、さすがに霧島君もこの状況には動揺しているみたい。


「それじゃあ行きましょう。」


「あ、う、うん。あ、律子、真一君。

 私、今日は優香と一緒に食べてくるね。」


ゆ、優香・・・。

ちょっと前までは篠崎さん、だったはずなのに。

れ、麗奈ちゃん、い、い、一体何をやらかしたの・・・?


「あの・・・二人とも、聞いてる?」


「う、うん、き、聞いてるよ。れ、麗奈ちゃん、ファイトだよぉ!」


「そ、そうだな、が、がんばれよ。ふぁ、ファイトだよ、だ、九条。」


私も真一君もちょっとおかしな励ましになってしまった。


「もう、二人とも意味不明だよぉ~。

 えっと・・・それじゃ私もう行くから・・・。待たせてごめん、優香、浩也。」


「かまわないわ。それじゃあ行きましょう。」


そういって三人は教室からでていってしまった。

えっと・・・これ、なんていう状態?

あの二人の間に麗奈ちゃんが何で割り込めちゃうの・・・?


「な、なぁ・・・栗原・・・。」


「な、なに?麻生君・・・。」


「あいつって篠崎とあんなに仲よかったっけ?」


「わ、私の知る限り話をしたこともないはずだけど・・・。」


「そ、そうか・・・。」


そこからしばらくぼっーとしてしまい

私は今日、お弁当を作り忘れていたことを思い出してしまった。


「あっ、今日お弁当つくってないんだった・・・・。

 食堂行かなきゃ。」


「んー?栗原、食堂なの?」


「うん、麻生君はどこで食べるの?」


「うーん、俺も食堂のつもりだったんだけど

 あの謎の光景にびっくりして、かなり出遅れたからなぁ・・・。

 もう席があいてないかもしれないな。」


「そんなにすごいの?」


「まぁ行ってみるか。」


そんなこんなで真一君と二人で食堂にいくことになった。

まさかの、二人っきりでのお昼!と思ったんだけど・・。


「うわぁ・・・一杯だね・・・。」


「う~ん・・・この様子だと空いてる席なんてないな・・・。」


「これじゃ、ご飯食べるとこないね・・・。」


真一君とのお昼が・・・。


「まぁ、こういう時は他をあたるさ。」


「他?他って・・・?食堂ってここしかないんでしょう?」


「学校の食堂は、な。

 あの塀を越えた先に行きつけの食堂があるんだよ。」


そういって真一君は学校の外を指出していた。


「え?あ、あの塀って・・・。

 あれを超えたら学校の外にでちゃうよ?」


「大丈夫だって。そんなに遠くないし・・・。」


「だって・・・だって、勝手に学校抜け出したらいけないんだよ!?」


「栗原は真面目だなぁ・・・。

 俺達は学校を抜けだすんじゃないの。昼飯を食べにいくだけだぜ?」


「それはそうなんだけど・・・。」


「ほら、早くいこうぜ。

 いくら近いっていってもそうのんびりはできないぜ?」


「あ、あ、麻生君、まってよ!」


そういって走り出す真一君を追って、問題の塀まで来てしまった。


「ほら、ここを乗り越えりゃすぐだ。」


「え?こ、ここを超えるの・・・?

 だ、だめ・・・わ、私には無理だよ・・・。」


「何言ってるんだよ、たいしたことないって!

 俺がひっぱってやるから。」


そういって、真一君は堀の上にかるく飛び乗り、

その上から手をさしのべてくれる。


「さぁ、つかまって。」


私はその手をとり、この高い塀を登ってしまう。

今まで学校をさぼったことのない、真面目で通してきた私にとって

昼休みとはいえ、学校の外に抜け出すなんて、とんでもない大冒険なのだ。


私が登り切ると、真一君は軽々と塀から学校の外側へと飛び降りた。

そして、優しく声をかけてくれる。


「ほら、飛び降りてみな。

 大丈夫、何かあっても俺が受け止めてやるから。」


私は彼の手をつないで壁を登った時ですら

体の火照りを押さえるのに必死だった。

なのに、こんな時にそんな笑顔でそんなこと言われたら・・・。


普段の私なら怖がって、とても飛び降りるなんてできなかっただろう。

でも、その時は自然と真一君の元へと飛び降りることができた。


「おっと。

 な、簡単だろ?」


そういって、飛び降りた私を受け止めて真一君が笑顔で私に語りかける。

あぁ、また恋いに落ちてしまった。

真一君に恋いにおちてしまうのは何度目だろう。

恋というのはどこまで深みがあるのだろう。どんどん、落ちていく。


ちなみに、このとき、お姫様だっこで受け止めてもらった!

もう、一生分の幸せをつかってるよ、これ!


ドキドキもおさまらないまま、そこからすぐ目の前にあった

定食屋さんのような所にはいった。


「おや、真ちゃんじゃないかい。いらっしゃい、今日は何にする?」


お店の中には人の良さそうなおばちゃんがいた。


「俺は・・・そうだな、カレーチャーハンでいいよ。

 栗原、おまえは何にする?」


「え・・・?わ、私は・・・。

 えっと、じゃあ、麻生君と同じ奴、お願いします。」


「ば、ばっか!ここのカレーチャーハンは恐ろしく辛いんだぞ?

 初心者には早いって、絶対!」


「えぇ~大丈夫だよぉ~。私、辛いの別に苦手じゃないよ?」


「あぁ・・・俺でさえあの辛さを克服するのに一ヶ月の時間を要したというのに・・・。

 栗原・・・骨は拾ってやるからな・・・。」


「もう~大袈裟だよ、麻生君~。」


「カレーチャーハン2つだね。

 せっかく真ちゃんの彼女が来てるんだ、腕によりをかけてつくってあげるよ。」


「か、彼女って・・・。」


おばちゃんのトンでも発言に私も真一君も顔を真っ赤にしてしまう。

照れてくれるってことは、少しは脈があるって思って良いのかな・・・。


「ば、ばか、おばちゃん、違うって!

 栗原とはそ、そんなんじゃないっての!」


「おや?そうなのかい?

 ははっ、それじゃ今日だけは彼女になってもらいないよ、真ちゃん。」


「 い、いいから早くつくってくれよ、おばちゃん!」


「おや、そうだったね、悪い悪い。」


「ったく・・・。」


二人の掛け合いをみていると、とても店員とそのお客といった関係には見えない。

こういうお店だからなのかもしれない。

二人の関係はまさに家族のそれにすら見えた。


「優しそうな人だね。」


「はぁ?あのおばちゃんが?

 栗原~おまえ、感覚がちょっとおかしいぞ?」


「でも、麻生君、とっても楽しそう。」


「よせよせ、おれはだなぁ・・・。」


「麻生君のお母さんもあんな感じなの?

 何だか母親にからかわれてる男の子って感じしたよ?」


「ん・・・・そう・・・か・・・。」


「麻生君・・・?」


「てっきり九条から聞いていると思ったんだがな。」


「え?な、何の話・・・?」


「俺、母親いないわけ。

 親父が男手一つで俺を育ててくれた。だから、母親ってよくわからないわけだ。」


「あっ・・・えっと・・・そ、そうなんだ・・・。

 わ、私知らなくて・・・その、ご、ごめんなさい・・・。」


「別にいいさ。母親ってのはわからないけど

 たぶん、おばちゃんみたいな存在なんだなぁ・・・って

 思ってるのは本当のことだしな。」


「ん・・・で、でも・・・。でも・・・やっぱりごめんなさい・・・。」


「俺には母親の記憶がない。だから、俺にとってはそれが普通なんだよ。

 別に母親のいる家庭をうらやましく思ったことはない。

 俺と親父は二人っきりでも確かな家族だからな。

 ドラマでよく冷めた関係の家庭とかあるけど

 もし、現実にああいう家庭があるなら俺はその何倍も幸せなわけよ。」


「麻生君・・・・。」


「母親がいないって聞いて悪いって思うのは

 栗原、おまえにとって母親の存在が大切なものってことだよ。」


「そ、そんなこと・・・ないと・・・思うけど・・・。」


「栗原、おまえの母親のこと、教えてくれよ。おまえの大切な人のこと。」


「母親がいないことを不幸と思ったことはないけどやっぱり興味はあるわけよ。」


「・・・は、恥ずかしいから誰にも話しちゃダメだよ・・・。」


「おう、約束、な。」


「う、うん・・・や、約束だよ・・・。」


その後、私は私のお母さんについて真一君と一杯話をした。

料理が上手で私もお母さんに憧れて料理を始めたこと。

お父さんと仲がよくて娘の私が目のやり場に困るくらい仲良しな恋人同士だってこと。

私が病気の時にはずっと寝ずに看病してくれたこと・・・。

私の大好きなお母さんのこと、いっぱい、いっぱい真一君に伝えた。

母親を知らない真一君が母の存在を取り戻せるように・・・。

母親という言葉が彼にとって決して悪いイメージを連想させないように・・・。

真一君は一生懸命話を聞いてくれた。

とてもうれしそうに、でも時には悲しそうに・・・。

ずっとずっと・・・私の言葉に耳を傾けていてくれた。

この日のお昼ご飯は私にとってかげがいのない思い出を生み出してくれた。

真一君と心の底のから語り合えた時。そして、ちょっと辛かったカレーチャーハン。

この日、この時、この瞬間・・・。私たちは友達の壁を超えたのだと思う。


その時から、私は心の中だけでなく、彼のことを「真一君」と呼ぶようになった。

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