転移5日前 麻生真一
その日もいつもと何も変わることはなかった。
「そうだよ、私にはいつもいつも、”ああ”だけだったよ?」
「そうか・・・まぁ、気をつける。」
「はぁ・・・もう浩也は本当に・・・・」
九条は相変わらず、浩也浩也って元気にはしゃいでる。
そんな元気を砕くのはいつもあのお嬢様。
「浩也、ちょっといい?」
篠崎優香。色々と黒い噂も流れるが、儚さが魅力的ではある女子だ。
「あぁ、わかった。そうだな、外で話すか。」
たった一言二言で、あの二人の間ではどういう話なのか
通じ合って、で外で話そうとまでいくわけだ。
「ひ、浩也!もうすぐ授業、始まっちゃうよ!?」
「なら、欠席だ。麻生、適当に理由つけといてくれ。」
「はいはい、いつものことだしな。」
俺の返事を聞き終わらないうちに、霧島は
篠崎と一緒に教室の外にでていった。
こんなのはいつものことで、そんないつものことなのに
毎度毎度、落ち込む奴が、この九条麗奈って奴で。
「なぁ、九条。霧島は望み、薄いぜ?
おまえが悪いって言うんじゃなくて、篠崎相手じゃ・・・。」
「麻生君!それ以上言ったら、怒るよ?」
栗原が見かねて俺を止める。俺はどうにもこの
余計な一言、というのを自覚無しに言ってばかりなのだ。
「あ、すまん・・・。
悪かった、少し無神経だった。」
「いいよ、真一君が心配してくれてるの知ってるから。
さぁ、一限目は古文だよぉ~寝ちゃだめだからね、真一君!」
「こ、古文か・・・
さ、さすがに寝ないとは即答しかねるな・・・。」
ちなみに、古文は8割ほどの確率で寝ている。
「ふふっ、麻生君、古文苦手だもんねぇ~。」
「駄目駄目駄目ーーー!
私の得意科目を寝るなんて、そんなこと許されないんだから!」
「おいおい、無茶苦茶な理論だなぁ・・・。
なら、あいつの・・・。」
「ん?なに?」
「いや、いい。さっ、気合い入れて、寝るか!」
「真一君!!」
あいつの方が・・・授業をふけたあいつの方がもっと許されない。
そう、言うはずだったけど、それは俺でも無神経だと思う。
だから、のどから溢れそうだった、その言葉をあわてて飲み込んだ。
九条には、やっぱ笑顔だよ。・・・そう、思う俺はただの阿呆なのかもしれないな。