転移3日前 霧島浩也
俺は3年の月日をかけて、優香の病気を調べ治療法を考え出した。
彼女と同じ病気の患者はそれで完治できたし、
本来は優香も病気は完治するはずだったのだ。
だが、彼女だけに効果がなかった。
その原因についてはもうわかっている。
だが、その治療をどうすべきか、俺は結論をだせずにいた。
数多くの命を救えば、その分だけうまくいかないこともでてくる。
完治して退院した次の日に事故に遭うこともある。
完治したからこそ、尽きた命だってあるのだ。
それはその人の運、そういうのであれば
治療をすること自体が無意味ではないのか。
結局は神の定めたサイコロに従うというのであれば。
俺が治療をするもしないも、神のサイコロによって決まっているのだとすれば。
俺がどんなに優香のために治療を施しても
神のサイコロ1つで覆されるのであれば。
このあがきは、果たして本当に意味があるのだろうか。
道場で一人、思案にふけるも答えがでるはずもない。
俺は着替えて帰ることにした。
「浩也、ずいぶんと考え込んでいたのね。」
道場の外では優香がまっていた。
「なんだ、いたのなら声をかけろよ。」
「あんな真剣な浩也の邪魔なんて、できないわよ。」
「まぁ、帰るか。」
「えぇ。」
道すがら、特に何か特別なことは話していなかったのだが
優香が唐突におかしなことを聞いてきた。
「ねぇ、浩也。麻生君って、浩也からはどう映っているの。」
「なんだ、唐突に。」
「彼、涼夏先生や浩也、麗奈にしごかれて。
素人の私からみてもわかる。
彼は確かに才能はあるけど、それはあくまで普通の人として。
涼夏先生や浩也、麗奈とは違う。それはわかっているでしょ?」
「・・・・・。
武道の道は頂点になることではない。頂点を目指すことだ。」
「そう、だから聞いておきたいの。
頂点を目指し、たどり着いてしまうあなたにとって、
頂点に決して届かない、麻生君がどう映っているのか。」
「・・・・ばかばかしい。俺は頂点にたっていない。
それに、麻生は麻生でよくやっているよ。」
「・・・ふふっ、そうね。
麻生君、あんなにフラフラになるまでよくがんばっていると思うわ。」
「どうしたんだ、優香?
何かあったのか?」
「ううん、何でもない。
ただ、ちょっと確認したかっただけ。」
その時の優香の様子は確かに辺だったが、俺は何もできずにいた。
正直に言えば、俺は自分のことで精一杯だった。
自分が持っている力を、役立たなければならない、という
一種の恐怖観念というものにすら、追い立てられていた。
俺の心にもう少し余裕があれば、
この先の結末もまた違ったものになったかもしれない。




