転移3日前 九条麗奈
今日の授業も終わり、真一君のいつもの雄叫びが聞こえてくる。
「だっは~終わったーーーー!!
長い、長すぎる束縛が今ようやく解き放たれたのだ!!」
「真一君、お疲れさま。今日は古文の時間も居眠りしなかったね~。」
律子の優しい一声に案の上、調子にのっちゃう真一君。
「ふふふっ・・・当然だな。俺は日々進歩し続けるのだ!」
「居眠りしなかったぐらいで進歩してるようじゃ
この先が思いやられるよ~?」
「くっ・・・小生意気な奴め・・・。
人が自らの成長に歓喜している時に水を差すようなこというなよ・・・。」
「少しでも真一君のことを知っていれば
今日の進歩が明日には失わることが簡単に予測できちゃうからねぇ~。」
「もう、麗奈ちゃんダメでしょ!すぐに真一君をいじめるんだから!」
「ふふっ、怒られちゃった。
律子にかばってもらえるなんて真一君は幸せ者だねぇ~。」
律子はずいぶんと真一君に甘くなった気がする。
真一君は甘やかしちゃだめだよ、律子っ。
「おい、九条、先に行ってるぞ。」
「あ、うん。私もすぐに行くよ。」
浩也が私に声をかけて、先に道場に行ってしまった。
「あれ、麗奈ちゃん、今日は霧島君と約束あるの?」
「ふふっ、俺との勝負が怖くなったんだな・・・。
九条もまだまだ、だな・・・。」
「何馬鹿なこと言ってるの、真一君!
真一君があまりに不甲斐ないから浩也が練習に付き合ってくれるんだよ?」
涼夏先生からも頼まれてるんだからっ!
弱いのでいたぶりがいはあるけど、もう少し歯ごたえが欲しいんだって。
随分と気に入られたんだね?」
「き、気に入られたのか・・・。
はぁ・・・とほほだよ・・・。」
うなだれる真一君をひきつれて、浩也の後を追い道場へと向かった。
最初は看取り稽古てことで、真一君は見学。
私も久しぶりに浩也と稽古をしてもらうことになった。
「では、はじめっ!」
律子のかけ声と共に私と浩也はそれぞれ間合いを取る。
お互いが体の微妙な動きでフェイントを掛け合いながら好きを伺う。
私はその一瞬の好きをつき、渾身の一撃を放った。
「・・・・はっ!!」
「ふん!」
「きゃっ!」
私が放とうとしたその瞬間に、浩也の竹刀が私の小手を弾いた。
浩也はかわして攻撃するのではなく、攻撃する瞬間に相手を狙うことができる。
これにはなかなか勝つことができない。くやしーっ!
「まだ、踏み込みが足りないな。それに動作が素直すぎる。
相手に手を読まれたら勝機を逃すぞ。」
「いたたっ・・・・。たはっ、浩也にはまだまだ及ばないよ~。」
「れ、レベル高けぇ・・・・。
おまえら見てると自信なくすぜ・・・。」
「麻生、おまえも能力的には十分なものを持っている。
真剣さがたりないんだよ、稽古に対するな。」
「そうそう、真一君は怠け者だからねぇ~。
もっと命がけでやらないと、涼夏先生の特訓に耐えられないよー?」
真一君はまだまだ経験が浅いけど、実戦を多くやってきたせいか
相手の動きを本能的に察知して動くことには長けている。
だから、もう少しすれば、ぐんって延びると思うんだ。
「涼夏先生とか、あの人、本当に人間かよって思うよな。
おまえら、俺を生け贄にしただろ・・・。」
「な、なんのことだ。」
「だ、だよねー。真一君意味わかんないよ。」
今まで、私と浩也で涼夏先生のストレス解消につきあってただけに
真一君の入門はとてもありがたかったのは、やはり内緒にしておこう。
「二人ともお疲れさま~。はい、お茶冷やしておいたけど飲む?」
律子がちょうど良いタイミングでお茶をもってきてくれた。
さすが、律子っ!
「ありがと~律子!はい、浩也も。」
「助かる、栗原。」
「ごくっ・・ごくっ・・・ごくっ・・・。
くぅ~生き返るよぉ~!」
「相変わらず、豪快な飲みっぷりだな、おい・・・。」
剣道着はあつくて、すぐ汗だくになっちゃう。
水もいくら飲んでも足りない気がするよー。
「じゃあ、次は麻生。おまえが相手だな。」
「お、お手柔らかにな・・・。」
「まぁ涼夏先生ほどじゃないさ。」
練習の密度っていうのはすごく大事なことで、
そういう意味で真一君は素晴らしい練習相手に恵まれていた。
このたった数日で彼の力は驚くほど伸びてきていた。
涼夏先生のストレスが解消されるころには、
彼を麻生君と呼ぶ日も来るんじゃないかな。
私は昔を思い出しながら、ふとそんなことを思っていた。




