転移3日前 栗原律子
お昼休みをつげるチャイムが鳴り響く。
弟の熱も引いて、今日は時間があったので
お弁当を持参してきた。
麗奈ちゃんは昨日と同じく、霧島君と篠崎さんと一緒に食べるみたい。
私は霧島君や篠崎さんとはあんまり話したことないし
加わりにくいから、つい遠慮しちゃう。
一人でご飯も寂しいし、勇気をだして、真一君を誘ってみようかな・・・。
そう思っていると、目の前に、ウンウンうなっている真一君がいた。
「どうしたの、真一君?」
「いや、今日も九条の奴、霧島と篠崎の間に割り込んで
ご飯食べにいっちゃっただろ。一体どういう会話してるんだろうってな・・・。」
「あぁ・・・・確かに気になるよね。」
霧島君と篠崎さんは二人の世界をつくっちゃうようなタイプじゃないと思うけど
それでも、麗奈ちゃんと3人で仲良く談笑ってのはどうなんだろうって思っちゃう。
「そうだよな、やっぱ、栗原も気になるよな?
う~ん、普通に考えるとかなり気まずい空気のはずなんだが・・・。」
「でも・・・何だか麗奈ちゃん、楽しそうだったよ?」
「そう!それなんだよ!だからこそ、余計に気になるんじゃないか!
一体、あいつは何をそんなに楽しみにしてるんだ?
・・・な~んて、考え出すと昼飯も喉を通らないわけよ。」
「それはちょっと大げさだよぉ・・・。
でも、ホントに不思議だよねぇ・・・。」
「・・・なぁ、栗原、俺達も行ってみようぜ?」
「え?行くって・・・どこに?」
「バカ、霧島と篠崎と九条が一緒にご飯を食べてる所だよ!」
真一君は昨日に引き続き、私をとんでもないことに誘ってきた。
「で、でも3人で食べてる所にお邪魔しちゃって平気かな?
麗奈ちゃんは良いと思うけど、霧島君と篠崎さんがちょっとわからないよ・・・。」
「行くっていっても、一緒に食べる訳じゃないぞ?
あれだ、つまりだ。
俺達は九条と一緒にご飯が食べたかったんだ。でもな。
声をかけ損なって、遠目から見ているしかなかったんだ。
な、そういうことにしようぜ。それなら大丈夫だろ?」
「な、なんでこれからのことなのに過去形なのっ・・・。
それに、こそこそ遠目からみるのって、何か麗奈ちゃんに悪いよ・・・。」
「ぐじぐじ言わずに行こうぜ、栗原~。
九条と一緒にご飯を食べようとして話しかけられずに仕方なく様子を伺うだけだ!
よくあることだ、なっ、行くぞっ!」
「わっ、や、ま、待って!ひ、ひっぱらないでよ~。
い、いくから、いきますから、もっとゆっくり・・・。」
「ほら、急ぐぞ、栗原!早くしないと肝心の場面が見れないじゃないか!」
「か、肝心の場面ってなんなのよぉ~。わっ、まってってば~麻生君~!」
結局、麻生君の強引な誘いで私は三人がご飯を食べてる場所を観察することになってしまった。
昨日は学校の離れにある樫の木の下で食べてたって言うから今日も同じ所だと思う。
隠れてこそこそ観るのは麗奈に対する裏切りのようで正直気が進まなかった。
でも、真一君が強引に誘ってくれるのがうれしくて、ついつい来てしまった。
「おい、いるいる、いたぞ、栗原。」
「や、やっぱりやめようよ~真一く~ん・・・。」
3人がご飯を食べている場所とは樫の木を挟んで裏手側、
小高い丘の中腹から身を隠して様子をうかがっている。
でも、話し声は風の音にかき消され、さっぱり聞こえなかった。
「う~ん、いまいち聞こえないな・・・。
もうちょっと近づいてみるか?」
「あ、麻生君!こ、これ以上近づいたらみつかっちゃうよ!」
「大丈夫だって、もう少しぐらいなら・・・。」
そういって麻生君は大木に身を隠しながら
3メートルはあろうかという距離まで近づいてしまう。、
私は彼をとめようとして、ひっぱるつもりで延ばした手が、、
彼が少し間をとるために下がろうとしたため、逆に彼の背中を押すことになってしまった。
「ば、ばか、お、押すなって!」
「わっ、わわわっ・・・ご、ごめんなさい!」
謝っても後の祭り。
真一君は3人がご飯を食べている目の前に、豪快に倒れ込んでしまった。
「よう、麻生。」
「し、真一君、なにしてるのかな~?」
冷静な霧島君と違って、麗奈ちゃんは少しご立腹の様子。
まぁ、そりゃあね・・・。
「よ、よう・・・や、き、奇遇だな、霧島!
お、おまえ達、ここでご飯を食べてたのか!」
「ごめんなさい、し、真一君大丈夫・・・?」
私だけ陰からみているわけにもいかず、真一君の後を追って
3人の食卓に顔をだすことになってしまった。
「り、律子まで一緒だったの!?」
「え、えっと・・・あの・・・。」
「もう、二人してなにやってるのよ!
真一君が馬鹿なのはいつものことだけど
律子まで・・・はぁ・・・私は自分が情けないよ。
真一君の毒牙から律子を守ってあげられなかったんだね・・・。」
「こら、毒牙ってそんな人聞きの悪い・・・。
お、俺達はだなぁ、九条達と一緒にご飯を食べようとだなぁ・・・。」
「奇遇だったんじゃないのか?」
霧島君が真一君のでまかせに冷静なつっこみをしてきた。
「き、霧島・・・おまえって容赦ないのな・・・。」
「二人とも、もうその辺にしてあげなさい。
麻生君も栗原さんも泣きそうになってるじゃない。」
篠崎さんが仕方なし、といった感じで仲裁に入ってくれる。
本当に、この人は大人って感じがする。
「べ、別に泣きそうになんかなってないぞ・・・。」
「わ、私はちょっとだけ泣きそうかも・・・。」
自分のしたことが、あまりにも情けない気がして
ちょっと泣きたくなっちゃった。
私のどじがなければ真一君と二人でスパイみたいなドキドキ体験が
できたかもしれないのに、とかやましいこと考えたからじゃない。はず。
「仕方ないなぁ・・・優香に免じて今日のことは不問にしてあげるよ。」
「まぁ、俺は最初から気にしていないけどな。」
麗奈ちゃんの矛先は収まり、霧島君も気にしてなかったみたい。
「ごめんね、麗奈ちゃん・・・。」
「いいよ、律子はあやまらなくて~。今日のことは
どうせ真一君が全部仕組んだんだろうしねぇ~。」
「ぐっ・・・な、何故わかる・・・。」
「はぁ・・・何故ってこんなことするの、真一君ぐらいだよ?」
「こら、麗奈。不問にしてあげるんでしょう?」
篠崎さんはなんて言うか、もう麗奈ちゃんのお姉さんみたいになっていた。
実際にそれぐらい大人には見えるんだけど。
「は~い、そうでした。真一君、優香に感謝しなきゃね?」
「んー、まぁありがとうな、篠崎。」
「あら、別にいいわよ。
麻生君とはお互いを語り合った仲ですもの。ね?」
「へっ?」
「え、えぇーーー!?」
私も麗奈ちゃんも目をぱちくりして、篠崎さんと真一君をみてしまう。
「こ、こら、篠崎!へんな冗談言うなっての!
みんなが信じたらどうすんだよ?」
「あら、でも本当のことでしょう?
昨日私を励ましてくれたのに。」
「いや、あれはだな・・・。」
私がわたわたする姿をみて、篠崎さんがその瞬間、
氷のように冷たい微笑を浮かべた気がした。
本当に一瞬。気のせい・・・だよね・・・。
「い、いつの間に二人はそういう関係に!
そ、そ、そんなのわ、わたし・・・私許さないんだから!」
「いや、話きけっての・・・。」
結局、話を聞いてみれば偶然みかけて、少し話しただけっていう。
でも、篠崎さんのあの時のあの目。
普段は優しいお姉さんみたいに、笑顔を絶やさない人なんだけど。
それでも、あの一瞬は凍り付くような感覚を私に焼き付けた。




