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私の転移物語  作者: ぱんだまる
三章:転移3日前
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転移3日前 篠崎優香

家は嫌い。


「優香、おい、もっと金ないのかよ?」


家はあの男を養父と呼ばなければならないから。


「ごめんなさい、お養父さん。

 昨日、お渡しした分で全てです。次は来月にならないと・・。」


「口答えするんじゃねーよ!」


家は嫌い・・・この男が私を殴るから。


「拾ってやった恩を忘れやがって・・・。」


家は嫌い・・・。

この男が・・・この男が・・・・。


「いいか、来週まで待ってやる。

 だが、金が用意できなかったら、わかってるな?」


私はよく家を飛び出しては学校に逃げ込んでいた。

広いし、勝手に探し回れる場所でもないので

意外と見つからなかったりする。


そして何より、この願いを叶えるという大木。

今の辛い状況も、あの時私が願った故の代価なのだと。

そう自分に言い聞かせることができる。


5年前、浩也は施設から霧島の家に引き取られた。

今まで、浩也は養子の話は断り続けていたのだが

私の病気を治したいから、と言って、医者の養子縁組をうけたのだ。

私は偉い医者でも直せなかった珍しい病気にかかっていたが

すぐに死ぬわけでもないし、そんなのいらないって泣きながら浩也に頼んだ。

でも、彼の意志は変わることなく、浩也は施設からいなくなった。


連絡先もわからず、誰に聞いても教えてくれることはなかった。

そのまま3年の月日が流れた。

浩也から思いもかけず連絡があった。

約束通り私の奇病に対して治療方を見つけたというのだ。


病気が治ることよりも浩也の居場所がわかったことのうれしさが

私の中ではずっとずっと大きかった。

浩也にとっては、施設で育った家族、という程度の認識なのかもしれない。

でも、私にとって、彼の存在はもっと大きなものになっていた。


私は浩也が施設に行くと指定した日まで待ちきれず、

この街まで一人会いに来てしまった。

私がついた時、彼はこの学校に通っていたので、学校内の目立たない場所、

この大木の下で待ち合わせをしたのだった。


そして、3年ぶりに彼にあい、私は今までの辛さを

全部願いにしてしまった。

もう浩也と離れたくない、と。ずっと側にいたい、と。

この病気が治らなくてもいい、側に居られるなら、と。


その時はこの大木が願いを叶える力がある、という噂など

もちろん聞いたことはない。ただ、誰へとなく願っただけだった。


次の日、偶然にも浩也と同じ街に住む社長一家から私に養子縁組の話がきた。

私は浩也と同じ高校に通えるなら、という条件をつけて養子に引き取られた。


願いが叶った代償なのかはわからない。

ただ、浩也が見つけてくれた治療法は何故か私には効果がなかった。

同じ病気をもつ他の患者は全て治っても、私だけは治らなかった。


浩也が私だけ病気が治らない理由を探るために

アメリカで留学も考えている、と告げられた。

何とか言う医学の権威がそこにはいるので、一緒に研究するそうだ。


その次の日に父の会社は倒産し、私の生活は一変した。

浩也はそんな私の状況を見かねて、留学をやめこの街に残ると言ってくれた。


ただの偶然かもしれない。

でも、私がここで願ったことは確実に代価を求めながら

私と浩也をつなぎ止めてくれている。

願い続ける限り、私は浩也の側に居られるのだ。


そろそろ空が明るくなってきた。

早めに部室のシャワーを使わないと朝練の人たちがきてしまう。


私は何度目になるかわからない、学校での朝を迎えることになった。


シャワーを浴びて、部室においてある日用品をつかって身なりを整える。

ただ、学校で朝を迎えなければならないような、そんな日は気分も沈み、

あまり人と会いたくなかった。

私は再び、この大木の下に座り、ただ、ただ、どことなく空を見上げていた。


そんな時、彼女が現れた。


「・・・優香。」


九条麗奈。何の代価を払うこともなく、自然と浩也の側にあり、

彼が気にかけるただ一人の女。

その事実は妬みを通り越して、ただ絶望しか私には与えてくれなかった。

いっそ妬んで楽になりたかった。


「優香、もう一時間目はじまっちゃったよ?」


「そうね、あなたも戻った方がいいんじゃないの。」


「うん・・・でも今日は優香と一緒におさぼりしようかなって。」


「・・・・そう。」


そういって彼女は私の隣に腰掛ける。


「優香、ここが好きなんだね。

 優香はいつもここにいるって浩也がいってたよ。」


「そうね・・・この場所は私と浩也をつないでくれた場所だから。

 浩也と一緒に居られることのうれしさと、彼がいない寂しさを思い出させてくれる。

 だから、かな。」


「そう・・・・そっか・・・。」


私の病は、この木が代価として求めたのなら恐らく治らないのだろう。

死は怖くない。怖いのは死の時に彼が側にいないこと。


だから、私がいる間は、麗奈、あなたには渡したくない。

でもね、私がいなくなったら、彼のことはあなたに任せてもいい。

あなたになら任せられる。そうも思ってしまう。


九条麗奈。彼女はきっと全てを告げれば身を引いてくれる。

そう考えなければ、浩也を奪われる恐怖に絶えきれなくなってしまう。


私と麗奈はそれ以上は何も語らず、大木の下で授業の終わりを迎えた。


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