転移4日前 篠崎優香
九条麗奈。正直私は勝てないと思ってしまった。
私が10年以上かけて、その思いを全て注いで
ようやくつなぎ止めている彼との絆。
それを、彼女はたった3年、同じ中学校にいただけで、
あっという間に追いついてしまった。
私は彼との絆を決して手放したくない。
少なくとも、この命の続く限り。
だから、というわけじゃない。彼女にそれなりの興味もあった。
だけど、もしもの時、彼女の性格なら本当のことを言えば
身を引いてくれる。そういった打算がないわけではない。
私はそういう汚れた女なのだから。
「もう真一君、だらしないよ~。」
麗奈と仲良くなってからの一日は怒濤のようだった。
彼女の元気はどんどん私を突き動かし、それが浩也にまで及んだ。
浩也と同じ理由で私も彼女の魅力を十二分に見せつけられた。
それは友達としてうれしくもあり、恋敵として恐ろしくもあった。
「も、もうだめ・・・だ・・・。
き、霧島・・・骨はひろってくれぇ・・・。」
麻生君はへろへろになっている。
涼夏先生にあんな口をきくなんて、正気とは思えない。
「あ、私こっちだから。またねー。」
そういって栗原さんが帰っていく。
彼女のことはいい。浩也はああいう子には興味ないから。
「またねー律子。
ほらほら、真一君、いつまでもへろへろしないの~。
あ、涼夏先生の所には毎朝顔をだすこと。朝練より優先ね。」
「あ、朝から、あんな目にあうのか・・・。
な、なんだかこれって命の危険を感じてきたぞ・・・?」
「命の危険を感じるぐらいの真剣勝負が涼夏先生のモットーだからな。
喜べ、麻生。おまえは見込みがあるってことだ。」
「あ、じゃあ私と浩也はこっちだから。
ごめんね、優香。真一君が倒れたら見捨てていいからね。」
「っておい!見捨てるの進めるなよ!」
「えぇ、倒れないようにがんばってね、麻生君」
「へいへい・・・たっく、九条も篠崎も仲がよいこって。」
「それじゃーねー。」
そういって、浩也と麗奈とわかれ、麻生君と二人になる。
今日の朝に少し話したのと、麗奈の騒ぎの渦に巻き込まれたのもあって
麻生君とも、それなりに話してもいいとは思うようになった。
「もう涼夏先生の所に行くのは断ったらどう?
今日のでこりたでしょ?あの人、厳しいわよ。」
「まー厳しいししんどいのは確かだけどな。
どうしても、強くなりたいんだ。しがみついてでも、ついていくさ。」
麻生君はまだ涼夏先生の特訓を受けるようだ。
「男の子ってそこまで強くなりたいものなの?」
「あーまーなんていうか、その・・・。」
「あぁ、麗奈に負けるのが、かっこわるい、とか思ってるんだ。」
「ば、馬鹿っ!違うっての!」
「ふふっ、男って単純。」
麻生君が麗奈のことを気に入っているのは知っていた。
彼ががんばってくれれば、私ももう少し気が楽にはなるのだけど・・・。
「麗奈は浩也と戦っても勝っている時もあるし、相当強いわよ。
あの二人と同じレベルになるのは、かなり大変だと思うわよ。」
「まぁそれは確かにな。
あの二人が俺と同い年なんて未だに信じられないからな。」
「・・・・ふふっ、確かにね。
あの二人ってちょっとずるいわよね?
何でもかんでも出来過ぎていて。実は2つぐらい年上かもっていつも思うわ。」
「あれ、篠崎もそう思う?」
「浩也とは子供の頃からのつき合いだけど、友達は浩也しかいなかったのね。
だから、私にとっての普通は浩也だったんだけど、彼がその・・・。
あまりにも出来過ぎるから、私、自分が駄目な子だってずっと思っていたの。」
懐かしい昔。私が10回聞いても覚えられないものを、彼は一度で覚えてしまう。
私が何時間も考えてもわからない問題を彼は見た瞬間に解いてしまう。
「篠崎って頭良いってイメージあったんだけどなぁ・・・。」
「だって、いっぱい勉強したもの。浩也に追いつこうと、普通になろうと思ってね。
何度でも本を読んで覚えたし、分からない問題も、
何度も何度も考えて解けるようになっていった。
そして気が付いたら才女なんて呼ばれていて、
でも私はまだ自分のことを駄目な子だって思っていて。
浩也が天才で、私が普通なんだって気がつくまでに10年ぐらいかかったと思うわ。」
「10年って・・・おまえも結構ドジなのな。
普通はもっと早く気づくだろ・・・。」
「う、うるさいわね・・・そ、そういう麻生君はどうなのよ?
麗奈との話、聞かせなさい!」
「う、お、俺か?な、何か恥ずかしいな、昔の話なんて・・・。」
「あら、私にだけ話をさせておいて、自分の話となると尻込みする気?」
「う、うるさいな・・・わかったよ!は、話せばいいんだろ!」
「そうそう、話してくれればいいのよ。」
麻生君の、というより麗奈の過去には興味がある。
「とは言え、何から話したものか・・・。」
「じゃあ、最初に麗奈と知り合ったのはいつ?」
「最初は・・・あぁ、最初はアレだな。」
「アレ?」
「俺と九条は同じ中学だったんだけどクラスとかはずっと別だったんだよ。
ただ、中学二年ぐらいにちょっとした事件があってな・・・。」
「事件?それがきっかけなの?」
「俺ってそれまで結構ガラ悪かったのよ。
ケンカで負けたことなんてなかったし三年相手でも楽勝だったな。」
「大抵の奴は俺の名前聞くだけでぶるちゃって
二年になるとまともにかかってくる奴もいなくてな。
で、学校では結構やりたい放題だったのよ。教師もびびって何もいってこないし。」
「いるわよねぇ・・・そういう人って。
でも、今からは想像できないわね・・・。随分大人しくなってるわよ?」
「まぁ、あの事件があったからな。」
「いよいよ、本編の始まりね。」
その話は私と麻生君の関係を今までとは違ったものにした。
決して届かない、天与の壁を何とか越えようとあがくもの。
私たちは同じ高みを目指していたのだった。




