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私の転移物語  作者: ぱんだまる
一章:転移5日前
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転移5日前 霧島浩也

気怠い体を引きずってゆっくりとベッドから降りる。

ここ数日、ろくに睡眠をとっていない。昨日も遅くまで養父の手伝いをしていた。


自分は他の人より優れた力を持っている。

医師である養父を手伝いながら、あらゆる医学書を読み尽くすうちに

新薬の開発や、新しい治療法の確立にすら携わるようになってきた。


この力で多くの命を救ったし、今後も多くの命を救っていくだろう。

今までに多くの命を救ったという実感もある。

目の前で重病の人間に開発した新薬を処方し快方に向かう姿を何度もみてきた。

毎日のように何百通もの感謝状が家には届いている。


俺は、確かに命を救える力をもっている。


それでも。


それでも、時々疑問に思うことがある。

俺が他人の命を救うためにこうして日々研究を続けるのは正しいことなのだろうか?

今、眼の前にある命を救っても、それが明日には失われるとすれば?

救った命はやがて尽き果てるその時までに、一体何を残すと言うのだろう・・・。


俺がいつもの思想の迷路に入っていった時、

玄関のチャイムが鳴った。

時間だ。軽く身支度を整え玄関へと向かう。


「おはよう、浩也。」


篠崎優香。同じ施設で育った縁で、養子にもらわれてからは

しばらく会うことはなかったが、偶然にも今の高校で再会した。

優香もこの近くの家に養子になったのだそうだ。


そんな過去を思い出しつつ、今頃になって眠気が少しでてきた。

昨晩はほとんど寝ていない気がする。

俺が気だるそうにしているのに優香も気づいたようだ。


「眠そうね・・・。

 また、病院のお仕事しているの?」


「まぁ、そんな所だ。」


朝日を受けて淡く光る緩い坂道は二人の歩みを静かなものにしていた。


「浩也、辛くない?」


ふと、紡がれる優香の声。

誰に対する問い掛けなのか。


「・・・まだ、俺はましな方さ。

 さぁ、もういくぞ。」


俺は彼女の手を引き、その心を癒すこともできず

このゆるやかな坂を上りきっていた。


優香とは教室が違うので階段を登った所でわかれて自分の教室に入る。

すると、いつものあの声が聞こえてくる。


「浩也、おっはよー!」


「ああ。」


「もう、また”ああ”って、いつもいつも・・・。

 浩也、おはようには、”おはよう”だよ?」


九条麗奈はいつも周りに元気を振りまいているような奴だ。

だが、俺はこの程度で元気になるほど単純な作りになっていないようだ。


「あぁ、気をつける。」


「はぁ、気をつけるっても・・・。

 あ、おはよー律子!真一君!」


「おはよー麗奈ちゃん」


「おはようさん。秋変わらずにぎやかだな、九条は、

 一体何の話をしてたんだ?」


麻生真一と栗原律子が九条の元気さにつられてやってきた。

この二人は九条と仲が良いようだ。


「浩也がね、挨拶もちゃんとできない悪い子だね、って話。」


「あ?霧島だって挨拶ぐらいちゃんとするだろ?」


「それができてないから、私がこ~んな賑やかになってるんじゃない!」


「浩也、おはようさん。」


「あぁ、おはよう。」


「ちょ、ちょ、ちょ、ちょっと!

 何で私には”ああ”で、真一君には”ああ、おはよう”なの!?」


「あぁ?そうだったか?」


「そうだよ、私にはいつもいつも、”ああ”だけだったよ!?」


「そうか・・・まぁ、気をつける。」


「はぁ・・・もう浩也は本当に・・・・」


何というか、九条は突然、にぎやかになる。

俺には未だに九条の賑やかになる鍵が何なのか理解できない。


麻生にこのことを話したら、女ってのはそんなものだ、って言われた。

そんなものなのか・・・?

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