-桔梗-[距離]
-桔梗-[距離]
頭では分かってるんだ
あたいだっておなごの端くれ
恋がどの様なもので
綺麗事だけじゃ収まらないと
周りなんか構ってられないと
分かってる
『……あたいもそうだもの』
だけどあたいの心が
心の奥底に刺さった棘が
許せないって嘆くんだ
だからあたいは……
『桔梗、大門の辺り紅葉が綺麗なんだってねえ。どうだい、一緒に散策でも……』
『あ、あたい今日はちょっと都合が悪くて……』
『……そうかい、では明日にでも、あっ……桔梗っ!』
背に受けた姐さんの声が
寂しげに掠れても
あたいは振り向かなかった
情けないっ!
あたいはどうしてこんなに弱いんだ
あんたを守るって
想いを守ってやるって
決めた癖に……
『どうした?』
『…………』
『桔梗?』
甘えられるのは榊だけで
いけないと思いながらも
あたいは榊の腕に
救いを求めた
何も言わず、問わず
榊はあたいの頭を撫でる
姐さんとは違う
武骨で乱暴な手の平で
『強くなりたいねえ……』
『お前は充分に強い。だから今以上強くなる必要などない』
『そうさね、何たってあたいは誰かさんいわく、おなごらしさの欠片もない、だからねえ』
『減らず口を叩くな』
『はいはい、さあ、今日もちゃきちゃき働くかねえ』
強がるな
そう言わないのは
あんたの優しさなんだろう?
少しずつ
あたい強くなるからさ
姐さんの前で笑える様
強くなるから
だから……姐さん
少しだけ待ってておくれよ
いつか必ず
二人を祝福してみせるから




