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Love me, Kitty!!  作者: りほ
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アパートは一般人用のもので1LDKのユニットバスつきという一人暮らしするには十分のものだ。俺はチェスカトロに入るのと同時に休学し寮を完全に出ている。実家に帰るつもりもないし、謹慎している以上ほかのファミリーとシェアするのも御免こうむる。だから部屋には一人で住んでいた。この前までは。


玄関のドアを開けたとたん目の前に座り込んでいる小さな生き物が目に入って、俺は目をつり上げた。


「おまえまた寝てなかったのか!」


すでに日付はまたいでいる。5歳(証言アメデーオ)のガキが起きていていい時間ではないというくらいの常識くらいは持ち合わせていた。親父もお袋もマフィアにしてはそのへんきっちりしていた。


ひなはこっちを見上げるだけで動こうとしない。俺はため息と一緒にイラだった気分も吐き出すように努力した。ダメだ、一発でも殴ればこのちっぽけなガキはあっけなく死んでしまう。


ひなをここへ連れ帰ってもう2週間がたった。

初めのころはホームレス生活のなごりでか廊下で排泄したり入浴を極端に嫌がったりしてたが、もともと賢いのか順応性が高いのか、今ではちゃんとトイレを活用できるし俺と一緒になら風呂にも入れる。スプーンも使えるようになった。

俺が外出してるあいだはテレビだのを見ておとなしくしているようだが、ただ先に寝ていろという命令だけはどうあっても聞き入れたくないらしかった。


「つーか床に座るなって何回言えば分かるんだよ…また洗わなきゃいけねぇだろ」


当然俺は土足だが、ひなは靴を持ってないから寝る前に必ず足だけは洗わせたい。一昨日までは包帯を巻いていたのでそれをとりかえるだけで済んでたのだが、もう傷口のもふさがったのと毎日とりかえるのが面倒になったのが理由で外してしまったのだ。

しかしひなはどこでも座るし寝転がるしで、結局また頭から洗うはめになることも少なくない。というか一昨日と昨日はそうなった。本当に手間のかかるガキである。


かといってまた捨てるわけにもいかない。アメデーオに何言われるか分かったもんじゃねえ。


「飯は食ったのか?」


後ろをアヒルみたいにくっついてくる様子はたぶん可愛いんだろう。だが俺は可愛いものを愛でる趣味を持っていないので、そういうひなを見ても、だから?という気持ちにしかならない。


質問はしたもののコイツは何を訊いても首をかしげる以外の動作をしないのでそのままリビングに入った。テーブルにのせておいたサンドウィッチがきれいになくなっていることに満足してひなを風呂へ追いやる。

バスルームに行けと言えば行くし服を着ろと言えば着る。言葉が分からないわけではなくしゃべれないのだ、ということはこの2週間で了解した。


「服は脱いでから入れよ」


初めのころよりはいくらかマシにはなったが、ひなはまだガリガリに痩せていて健康的とは言い難い。腕の骨折も治らないし、おまけにびっくりするほど小さいから俺は何かの拍子に踏み潰してしまわないように気をつかわなけりゃならなかった。


俺のいない間に寝転がってたかもしれないので今日も頭から洗い上げて、相変わらず冗談みたいに軽いひなを抱えベッドに下ろす。

ひなの髪はすぐ絡まってしまうので乾かすのも一苦労だ。俺の髪は金髪だし直毛だしこんなに柔らかくもない。自分のを乾かすのとは勝手が違って少してまどう。

悪戦苦闘しているうちにひなの目が伏せがちになる。そうなればオチるまではすぐだ。力の抜けた体を胸というか腹のあたりで支えながら髪の水気をぬぐっていく。だから寝てろというのに何を頑固になってるんだか。

ひなの髪が完全に乾いたのを確認してから普段着のシャツ(俺の)を脱がせ、パジャマのTシャツ(やっぱり俺の)を着せベッドに寝かせてやる。これでようやくガキのお守りが終わるのだ。


かぶったタオルで自分の髪もふいて横に寝転がる。酒は充分飲んできたし、今からじゃテレビも大したことはやってない。もう面倒だからタオルの洗濯も明日でいいだろ。

すぐ横にあるひなの鼻がすぴょすぴょ音をたてて動いているのを見てハムスターを思い出した。このぺたんこの鼻。小っちぇ口。


「………」


眠ってるひなに指を握りしめられる。

そのまま、ハムスターを最後にみたのは実験室のケージの中だったことに思い至り目をつむった。命なんて所詮は運にすぎないのだ。

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