仕事後の一服
掲載日:2026/10/20
珈琲は熱いほうがいいが、夏場のアイスコーヒーは格別の美味しさがある。
それはこの世の真理であり、義務でもある。
マサラチャイもうまいが、珈琲に勝るものはない。
紅茶は邪道だ。
「そんな珈琲党なあんたでも缶コーヒーを飲むんすね」
若造が賢しらに何か言うので、いつもの通り皮肉げに口を歪めて答えた。
「私は全ての珈琲を愛している」
「へー」
やる気のない返事。それもまた夏らしくていいだろう。
一つ腑に落ちないとすれば、彼がミルクティーを飲んでいることか。
しかし私の主張を押し付けるつもりはないし、なにしろ仕事の後の一服だ。制限なんてされたくないだろう。もし平時であれば、私がおすすめの、安くて美味しい珈琲をおごったというのに。
珈琲の布教。
これもまた巷で話題の推し活というやつではないか。
私もまだ流行りに乗れているではないか。
陶酔していると、西日が強くなってきた。
目を細める。
「そろそろ戻ろうか」
「うっす」
夏らしく、緩く熱い風が全身に纏わりつく。
私たちは大きい入道雲の夏空を背に、羽ばたいた。




