第1章:第6話『お買いもの魔導士』
「お街にやってきたよ! 」
「楽しそうで何よりだ」
「こっちまで嬉しくなるわね」
玄治との稽古を終えた後、繁華街に繰り出した三人。寮の部屋に生活必需品は一通り揃っていたが、莉央奈の洋服や家具等を見るためにやって来た。
「あ、見て見て! おしゃれな雑貨屋さんだよ。早速、お邪魔してみましょう! 」
「慌てると転ぶぞ。気をつけろ」
「なんだか、お兄ちゃんみたいね」
「そんなこと、ない」
「照れちゃって」
「照れてない」
店内に入り、適当に見て回る三人。莉央奈は目に映るもの全てが新鮮なようで、眼を輝かせながら色々な雑貨を手に取る。
「これは、加湿器? ちっちゃくてかわいいね。あっ! こっちの猫ちゃんお箸置きもいい感じ。あーこのカラフルなランチセットも素敵ですなぁ。目移りしちゃう」
「あんまり無駄遣いはするなよ。協会から支給された金にも限りがある」
「もちろん。今日は必要なものだけにするよ」
(明日以降は余計な物も買うつもりか…? )
しばらく物色し、雑貨屋を後にする。莉央奈は物珍しそうに、辺りを見回しながら道を行く。
「あんまりキョロキョロしてると、おのぼりさんだと思われてしまうぞ」
「似たようなものだけどねぇ。えへへ」
「莉央奈、このつまようじ入れはどうかしら。ここを押すと、ペンギンがクチバシでようじをつまむのよ」
「わぁー、かわいいペンギンさんだね」
「かわいいわよねぇ」
「真っ先に買うのがつまようじ入れか? もっとこう…何かあるんじゃないか? 」
雑貨屋を後にして次へ向かう三人。荷物持ちは誠奈人の役目だ。
「そういえば、二人は魔導士のお仕事で生計を立てているの? 」
「そのとおりだ。在学中から協会に所属する者はそんなに多くはないが」
「じゃあ、二人は優秀ってこと? 」
「まぁ、そうなるな。俺の場合は生きるために仕方なかったとも言えるが。9歳の頃から協会にいるしな」
「えっ! その歳にはもう今みたいに仕事をしてたってこと? 」
「あぁ。その年に唯一の家族だった俺のじいさんが死んだ。子供としてどこかの施設に保護されるより、魔導士として生きることを選んだ。俺みたいに生まれつき強い魔力を持ってると、それを悪用しようと近づいて来る大人もいるんだ。だから力の使い方を覚えて、自分の身は自分で守れるように、誤った力の使い方をしないように。そのために協会の魔導士になった」
「そっか…ひょっとして魔力を持ってると、色々と大変? 」
「まぁ、苦労する事は多いかもしれない」
「魔力の無い人の方が、この世界では圧倒的に数が多いの。国によっては今だに差別対象になっているとも聞くわ。日本はそこまで酷くはないけどね」
「自分とは違う存在、自分には無い力を持っている者を遠ざける。当然の心理ではあると思う」
達観したような事を言いつつも、寂しげな表情になる誠奈人。莉央奈はそれを見て、誠奈人のこれまでの人生がどのような物だったのか、少しだけ察した。何か明るい気分になれるものはないかと、辺りをきょろきょろとみまわす。
「あっ、クレープだ! これを逃す手はないね! 」
「ああ、俺も甘いものは好きだ」
「ちょうどお昼時だし、食べていきましょうか。甘々なランチだけどね」
真っ先に駆けていく莉央奈と、それを追う二人。
「好奇心旺盛で天真爛漫。それでいて、優しい子だわ。警戒するのが馬鹿らしいくらい」
「そうだな。記憶を失う前の事はわからないが、今のあいつを見てると、悪い奴には思えない。甘いか? 」
「きっと皆そうじゃないかしら。経歴だけを聞くと怪しいんだけど、実際に話していると調子が狂っちゃう」
「そうだな…俺たちに与えられた任務はあいつの護衛と監視。それを忘れなければ、いいんじゃないか」
隊長の三木から誠奈人と律華に言い渡された任務。莉央奈と行動を共にし、その身を守ること。そして彼女に何か不審な点がないか監視すること。任務を疎かにするつもりはないが、一緒にいればいるほど彼女を監視するという事がなんだか可笑しく思えてくる二人だった。
「いちごおいしいー」
「チョコは人類最大の発明品だな」
「バナナも良いわよ。慌ただしい朝のお供」
クレープ屋の近くにあるベンチに三人で腰掛け、それぞれが思い思いクレープを頬張る。
「あ、誠奈人くん鼻にクリームついてるー。けらけら」
「んむ…おまえも指についてるが? 」
「おっと、これは勿体無い…ぺろり」
「紙ナプキン貰ってあるから、後で拭きましょうね」
「はぁーい。律華ちゃん…バナナおいしい? 」
「ええ。とっても」
「そっかぁ…じゅるり」
「ふふふ…一口どうぞ? 」
「やったぁ、ありがとうー!」
少し遠慮して、控えめに食いつく莉央奈。もぐもぐしながら目が綻ぶ。
「バナナの自然な甘さが、生クリームと絶妙な親和性があるね。あんまりパサついてないし、良いバナナを使ってますなぁ」
「だからなんでちょっと食レポ達者なんだ」
「わたしって実は腕利きのシェフだったのかな? 今度料理してみようかな」
「食べたら、次は服を見に行きましょうか。最低限しかないものね」
「うんうん。おしゃれは女の子の嗜みだからね」
「どうかな!? 」
「あら、似合ってるわよ莉央奈。かわいい」
「えへへ。そんなそんな」
試着室でファッションショーを開催する莉央奈とオーディエンスの律華。誠奈人は離れた所でスマートフォンを構えて通話をしていた。
「今のところ問題はないな。敵襲の気配も無い。勿論、気は抜いてない。引き続き警戒する」
『そうか。お前達二人なら心配は無いだろうが、頼んだぞ。こちらも何かあれば連絡を入れる』
「了解。働き過ぎもほどほどに」
『ああ。お互い様だ』
現状の報告を行い、三木との通話を終える。新たに判明した事はなく、特段進展はないようだった。
「お待たせしました! 安かったから色々買っちゃった」
「たくさん買ったもんだ…一人で持てるかどうか」
「えへへ。いっぱいになっちゃった。もちろん一緒に持つから! 」
「しょうがないわよ。女子の洋服ダンスの中身は多ければ多いほどいいんだから。ゼロからのスタートだし、まだ少ないくらいよ」
夕日が傾き始めたころ、寮への帰り道を歩く三人。結局誠奈人がほとんどの荷物を持っていた。いわく、男として荷物係の矜持を見せる、との事だった。
「二人とも、今日は付き合ってくれてありがとう。色々買えたし、とっても楽しかったよ」
「なら良かった。荷物持ちにも気合いが入るぞ」
「私達も良い息抜きになったわ。また行きましょうね」
「うん、また遊びに行きたいな」
「またすぐに行けるさ」
「わたし、こんなだけど、不安に思う時もあるんだ。自分という存在がわからなくて。今のわたしは本当にわたしなのかな? ちゃんとわたしをやれてるのかな? って。もしかしたら、わたしって悪い人だったのかな…とか考えちゃうこともあって」
莉央奈は俯き、心の奥に抑えていた心情を吐露する。
「無責任な事は言えないが…今の莉央奈が悪い人じゃないのは確かなんじゃないか。忘れてしまったのはしょうがない。思い出した時に考えるしかないさ。俺たちも記憶を取り戻すのに協力するし、協会も色々動いてくれてる。味方が大勢いるんだからきっと大丈夫だ」
「記憶もなくひとりぼっちでいきなり放り出されて、不安にならない方がおかしいわ。でも、私達がいるから。また誰かに狙われたって、あなたのことは私達が守ってみせる」
「うん。ありがとう…やっぱり、最初に誠奈人くんに拾われて良かったよ。こうして律華ちゃんや、色んな人に出会えて、助けてもらえた。いつかは、わたしも皆を助けられるようになりたいな。待っててね! 」
不安そうにしていた様子から一点、莉央奈は屈託のない笑顔を見せた。足取りも軽くなり、鼻歌混じりにステップを刻む。その様子を見て誠人は一瞬顔を伏せたが、すぐに前を向いて莉央奈を追いかけた。
「待て、荷物持ちを置いていくな」
「おっとっと。持ってもらっている身で申し訳ない! 」
「いいんじゃない? 置いてっちゃいましょうか」
「鬼。悪魔。律華」
「律華ちゃんは鬼と悪魔に並ぶ存在なの? 」
「誠奈人にとって『律華』は悪口という事かしら? 」
「嘘だ。怒るな。痛っ。悪かったって! 」




