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学生魔導士は街を駆ける ー現代社会における魔導の在り方ー  作者: 小仲はたる
第2章 アイドル魔導士、がんばる

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第2章:第19話『アイドル、殴る蹴る』

「しかし、あなたが魔導士だったなんて、正直驚きました。SNSの投稿を見るに、魔導士がお嫌いなようだったので」


 美心(みこ)は目の前にいる、通り魔事件の犯人と思しき男に声をかける。男は美心を睨み、一応の返事をする。


「そうだよ…僕は魔導士が嫌いだ。だから、自分の事も、この力も…大嫌いだ。魔導士なんてこの世から消えてしまえばいい」


 魔力を持って生まれた者は、その環境によっては差別や迫害の対象となり、鬱屈した人生を送る事がよくある。美心もこれまで魔導隊の一員として事件を解決していく中で、そのような者を目にする事も多かった。男の言葉からも、それらの人々が抱いていたのと同じ憎しみを、感じずにはいられなかった。


「魔導士が嫌い…それは否定しません。あなたのこれまでを、わたしは知りませんから。だけど、自分の事はそんなに、憎まないであげてください」


「わかったような事言うなよ…おまえは毎日楽しく生きてんだろ。わかるわけないだろ! 」


 美心は男の体から魔力が立ち上るのを感じた。魔導は心の力。そのパフォーマンスは思いの強さや精神状態に大きく左右される。湧き出る魔力が、男の思いが確固たる物である事を如実に物語っていた。


「わかりません。あなたとはまだ会ったばかりですから。でも、同じ魔導士です。わかろうとする努力くらいはさせてください。あなたの事を教えてください。まずは…そうですね、お名前から! 」


「ふざけてんのか? 自分から名乗るわけないだろ! 」


「でもそれでは、あなたをなんとお呼びすればいいかわかりません」


「呼ばなくていいんだよ! 馴れ馴れしくするな! 」


「ごめんなさい。でも、みーこはアイドルですから。馴れ馴れしいのは性分なんです。お名前教えてもらえないようなら…そうですね、あなたのSNSでのハンドルネーム、『鎌足(かまたり)』さんとお呼びしましょう」


「適当に決めたんだよ! 馬鹿にしてんのか! 」


「してません! 一人の人間としてちゃんと接したいから名前を呼ぶんです。あなたこそ、みーこを子供と思ってお馬鹿にしていませんか? いたって真面目ですよ」


 美心の言葉に、『鎌足』は口をつむぐ。一人の人間として。今まで他人とまともに関係を築いてこれなかった自分には、心に刺さるものを感じたからだ。


「僕は、もう…やるんだ。自分のやりたいように。僕は変わったんだっ! 」


 美心の言葉を振り切るように、鎌足は叫ぶ。そして、手元にある『水だった物体』に手を触れた。美心が魔導で作り出した水を、自身の魔導で氷のように固めた物だ。冷気は放っていないようで、水晶のように透き通った、少し歪な球体。鎌足の魔力に応えるように、それは形を変え始める。球体の表面から鋭いナイフのような突起が生え、美心に向かって真っ直ぐ伸びていく。


(固めた水を薄く伸ばして刃物みたいに…後輩ちゃん達を襲ったのはコレだったんだ。水を持ち歩いていたか、どこかで買った飲料でも使ったか…)


 美心は冷静に分析しながら、それを走ってかわす。魔導士との戦いを何度も経験している美心にとっては大したスピードではなかった。こちらに駆け寄ってくる美心に驚きながら、鎌足は魔導士にとっての基礎である球状の魔力の弾を放出して攻撃するが、美心はそれを手の甲で軽く弾き飛ばす。


「な、なにっ! 」


 思わず声が出る鎌足。真っ白になった頭を強引に働かせて拳で迎撃するが、美心には難なく腕でガードされる。そのまま手を弾かれて防御の術すら失った次の瞬間には美心の掌底が眼前に迫り、鼻先で寸止めされた。


「勝負ありです。液体を固めてしまうあなたの魔導はすごいですね。みーこは水の魔導を使うので、正直ちょっと困りました。だけど魔導隊たる者、格闘戦の心得もあるのです」


「ぐ…くく…馬鹿に、するなっ! 」


 鎌足が吠えると、固められた水の塊がガラスのような音を立てて砕け散った。飛び散ったその破片が美心の体を細かい傷を付ける。密着していた鎌足自身も巻き添えとなったが、あらかじめ破片が飛んでくると予想される上半身を中心として魔力で防御力を高めていたため、ダメージは無かった。


「痛っ…乙女の体に傷をつけましたねっ」


 美心は反射的に後ろに飛んで回避を図ったが、避け切れなかった。大きなダメージにはならなかったが、私服にも傷が付き、それが美心に一番ダメージを与えた。精神的なものではあるが。


「みーこのカワイイ一張羅がっ…おのれぇ…もう許しませんよ。魔導隊は敵性魔導士の抵抗が予想される状況では、魔導による攻撃で相手を制圧する事が許可されていますっ。ここからは本気でいきますよ」


 美心はわざわざ相手に警告をしてから再び構える。一方、魔導士と戦闘した経験など無い鎌足は表情に出てしまうほど焦燥に駆られていた。


(こ、これが…魔導隊の…本当の魔導士…でも、いざとなったら、僕にはアレがあるんだ)


 行商人(ペドラー)から預かった『力』の事を思い出し、己を奮い立たせ、改めて美心の方を見る。見知らぬ男に襲われるというこの状況にあっても、落ち着いたその構えから、美心が場数を踏んでいる事が鎌足にも伝わった。並の女学生であれば、この前襲った二人のように恐怖で身動きもとれなくなってしまう事だろう。


(負ける…このままだと、捕まってしまう。なんとなく、分かる)


 彼は戦いにおいては素人同然だったが、目の前にいる小さな女の子が自分よりも遥かに強いという事を感じ取っていた。だからこそ、切札を使うという選択肢に至ってしまった。鎌足が、身に付けている長袖のシャツの右袖を捲り上げると、そこには華奢な彼の体には不釣り合いな金属製のバングルが装着されていた。そして、バングルには怪しく光る球体が取り付けられている。美心はそれが何なのかを瞬時に理解した。


「―賢者の石片(フラグメント)! 」


 今回、行商人(ペドラー)が鎌足に与えた『商品』。それは誠奈人まなとの旧友である至遠(しおん)も所持していた、魔導士の魔力を増幅させる兵器。魔導と科学を融合させた、魔科学の産物。


「球体に、魔力を込めれば…うううっ! 」


 鎌足が賢者の石片(フラグメント)に左手を当てて力を込めると、球体が発光し、その光が鎌足の体を流れ始める。


「う、ぐぁうぉぉおおぁぁ!! 」


 苦痛とも狂気とも分からない雄叫びを上げながら、天を仰ぐ。風が吹き荒れ、砂埃が舞い、視界が遮られる。少しの間を置いてそれらが落ち着いた時、美心の眼前にはさっきまでとはまるで雰囲気の異なる男が立っていた。


「はぁっ…はぁっ…こ、これが…僕の手に入れた…力…」


 全身の血管が浮き上がり、賢者の石片(フラグメント)を装着した右手はほとばしる魔力で微かに発光している。


「どうして、そんな物を持っているんですか。それが何か分かってるんですか? 」


 美心は今までよりも深刻な表情で、鎌足に問いかける。


「お前には関係ない…これは、僕の力だ! 」


 以前、魔導士の日野(ひの)剛也(ごうや)は至遠に賢者の石片(フラグメント)を頭部に無理矢理装着され、自意識を失っていた。一方で腕に装着した鎌足は、精神の高揚は見て取れるが、はっきりと意識を保っている。これが本来の賢者の石片(フラグメント)の使い方だった。しかし、本人の身に余る力を強引に引き出している事に変わりはない。


「だめですよ…それは、危険な物です。無理に使い続ければ深刻な後遺症が残ります。使用が禁止されている、危険な『兵器』です」


「うるさい…渡さないぞこれは! もう誰にも、奪わせなぁぁぁい!! 」


 鎌足が咆哮を上げると、バラバラになって地面に散らばっていた水が形を変え、鎌足の体を包んでいく。魔力を帯びた水はその外見すら変化させ、紫色の水晶のような、透き通った結晶に変容した。その容積も、膨大に膨れ上がっている。鎌足は刺々しく成形された結晶で全身を武装し、前傾姿勢となり、まるで獣のようなシルエットとなった。生身の肉体は顔がわずかに見えている程度で、全身の殆どが結晶体に覆われている。


「今度は、かなり手強そうですね。気を引き締めていきます」


 変化が終わった鎌足は美心を睨みつけると、両手を広げて全速力で突撃した。水晶体に包まれて巨大化した右手を振りかぶり、地面に叩きつける。美心は横に跳んでそれをかわしたが、巨大に似つかわしくないスピードで鎌足は左右の腕で次々に殴打を放つ。美心は落ち着いて回避に徹し、全ての攻撃を避ける。鎌足が再び右の拳を地面に叩きつけると、今度は腕にまとわり付いた水晶体が変形し、鋭い棘のような一片を突き出して美心に攻撃を仕掛ける。


「そういう事も、できると思ってましたよ」


 美心は跳躍してその棘の上に飛び乗り、跳躍した。鎌足の眼前に着地して、その顔面に向けて掌を突き出し、一瞬の溜めのあと魔力弾を放つ。顔に魔力弾が直撃した鎌足は悲鳴を上げるが、倒れずに踏みとどまる。続いて美心は高くジャンプして鎌足の頭上を飛び越えた。空中で鎌足の後頭部にキックを二発叩き込み、そのまま背後に着地した。攻撃を受けた後頭部の水晶体はガラガラと音を立てて崩れる。崩壊はキックが直撃した後頭部の狭い範囲に留まり、内部の肉体にはダメージが届いていない様子だった。


「もっと粉々にしようと思ったんですけど…硬いですねっ。足がちょっと痛いし…」


「ぐぅ…このっ…」


 魔力弾が直撃して煙が上がっていた頭部から鎌足の顔が現れたが、少々皮が裂けた程度で、大きなダメージは見られない。


「お顔だけが丸出しだと、こっちとしてもそこを攻撃せざるを得ないですよ。でもまぁ、顔を覆ってしまったら外の様子を察知するために、別の魔導が必要になっちゃうでしょうけどね」


 無論、鎌足にそのような技術は無い。賢者の石片(フラグメント)が補強するのは、あくまで魔力の総量と出量のみ。普段よりもエネルギーの貯蔵量と一度に扱える量が増えるというだけだ。


(強がってはみたものの、さすがに厄介な代物。しかもあの人の魔導は、みーことの相性サイアク。これはちょっと、がんばらないとなぁ)


 美心の顔に思わず苦笑いが浮かんだ。

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