第2章:第15話『事件解決?』
誠奈人と三木が藤堂家にいる頃、莉央奈、律華、美心の三人は、寮から電車で数駅行ったところにある洋菓子屋に来ていた。購入した物を店内で飲食できるスペースがあり、そこのテーブル席に座っている。三人の前にはそれぞれが選んだ思い思いのケーキとドリンクが並んでいる。
「うーん、おいしぃー! 」
フォークでケーキを一欠片すくって口に運び、莉央奈は歓喜の声を上げる。頬に片手を当てて、満面の笑み。
「莉央奈は本当に美味しそうに食べるわね」
「リアクションばっちりですねっ。食レポ上手というのは本当でしたか」
律華と美心がそれぞれの観点から莉央奈を観察する。
「えへへ。美味しい物を食べてる時って一番幸せな気がするの。生きてて良かったーって感じ」
「おじさんがビール飲んだ時みたいな感想ですね」
「ビールって美味しいのかな?どんなに美味しくても、絶対にケーキの方が美味しいと思うな」
「卯月副隊長はおいしくて大好きって言ってました。甘い物とは全然違う良さがあるんだとか」
「卯月さんてお酒呑むんだ。ちょっと意外かも」
「結構な酒豪らしいわ。美人で優しいからお酒の席では男性に絡まれる事が多いけど、いつも男性の方が先に潰れてしまうそうよ」
直接見たわけではないが、律華が聞きかじりの卯月の武勇伝を語る。
「あの方も美人さんですからねぇ。モテるんでしょうねぇ。それに、包容力がありますよね。お姉さんタイプです。みーこにはたまに厳しいときがありますけど」
「みーこだけじゃないわよ。言うべき事はビシッと言ってくれるタイプだから。大切なことよ」
「分かってはいるんですけどぉ…。みーこはやっぱり甘やかされるのが大好きです。だから莉央奈先輩が、大大大大大好きですっ」
「えへへ。ありがとう。なでなで」
「んはー! いいです。至福のなでなでです。先輩はなでなでマイスターですな! 」
「あはは。大袈裟だなぁ。なでなでなで」
「…莉央奈、ちょっと私にもやってみて」
美心の様子を見て羨ましくなった律華。
「いいよー。律華ちゃんも、なでなでなでなで」
「…むふん。いいわねこれ」
想像以上の心地良さに、猫のように目を細める律華。
「ちょっと! みーこの莉央奈先輩を取らないでくださーい」
「みーこのでは無い。あ、莉央奈続けて」
「はいはい。なでなで」
「ふぅー。これからもたまにやってほしいのだけど」
「ご用命とあらば、いつでも新鮮ななでなでをお届けするよ」
「助かるわ…ふぅ」
「莉央奈先輩、今度誠奈人先輩にもやってあげてください。どんな反応するか気になります」
「誠奈人くん、反応するかなぁ? 」
「このなでなでを受けて反応しない者はいません。いつもすまし顔な誠奈人先輩も、きっと! 」
莉央奈は誠奈人が頭を撫でられて、先程の律華のようにふにゃふにゃになっているところを想像した。なんだか面白い絵面だったが、あまり現実味は無い。
「なるほどねぇ…」
「こんど不意にやってみてください」
「検討しておくね。はい、律華ちゃんおしまいだよー」
「あぁ、なでなでが…」
しょぼんとする律華の頭を、莉央奈は最後にひと撫でした。
「ところでみーこちゃん、あれからSNSはどう? 」
「心無いコメントは一旦無視しているのですが、また同じようなコメントがつきました。まったく」
「粘着されてるねぇ…困ったもんだ」
「ほんとですよ。なにが楽しくてこんな事するんでしょう」
「でも、下手に刺激せずに我慢してるのはえらいわね」
莉央奈が撫で終わり、背筋を伸ばしてしゃきっとする律華。
「会議でも隊長とそんな話をしましたからね。一時の怒りに任せて火種を大きくするような事はしません。みーこは、コメントの人より、大人なので! 」
「そう思っておくのが良いわ。相手をしたら向こうの思う壺かもしれないし」
「なんでこっちが我慢しないといけないんでしょうねぇ…むう」
「言論の自由という物はあるけども、人を傷付けるだけの物は糾弾されてしかるべきよね。異なる意見のぶつかり合いならともかく、一方的な誹謗中傷は私も好きじゃないわ」
「そうだそうだ。みーこ別に悪い事も、炎上するような事もしてないです。あの後、過去の投稿全部振り返っちゃいましたよ。むすっ」
「まぁまぁ、みーこちゃん。撫でてあげるから」
莉央奈が美心の頭を撫でると、たちまち美心の表情が緩む。
「うーん、やっぱり最高です…」
「喜んでもらえてよかったぁ」
(莉央奈…実はうちの影の支配者なのかも)
律華は莉央奈の秘められた力を目の当たりにして、真剣な顔でそんな事を考えていた。
「そういえば、今日は誠奈人先輩は隊長とおでかけしてるんでしたっけ。どこ行ったんですか? 」
「藤堂副会長のお宅みたい。快さんも一緒にね」
「お偉いさんのとこでしたか。大変ですねー」
「誠奈人くんは、藤堂さんに魔導の手解きを受けようとしてるみたい」
「向上心のある人ですね。あれよりまだ強くなりたいと。まぁ藤堂さんならレッスンを受けるには丁度いいかもしれないですね」
「やっぱりすごい人なんだね、藤堂さんて。あんまりそうは見えなかったけど」
「あはは。あの人、普段は軽いですからねー。女の子大好きだし。それでも実力はとんでもないです。目の前で見た事ありますけど、目にもとまらぬ速さってやつでした」
「そっかぁ。わたし、第一印象があんまり良くなくて」
「特に女性は好き嫌い別れるでしょうね。みーこはそれなりに上手く噛み合いましたので、嫌いではないです。でも苦手な気持ちはすごくわかります」
「に、苦手ってほどではないんだけどね」
「莉央奈は硬派な男の方が好みってわけね」
律華は顎に手を当てて、真剣な眼差しで推理する。
「硬派っていうか、ううん…難しいよ、異性の好みなんてっ」
莉央奈は赤面して手をぶんぶん振る。記憶をなくしてばかりな事もあり、自分の好みがどうとか、ちゃんと考えた事はなかった。
「じゃあこれからはそういう事も考えていきましょう。女の子なんだから」
「ぜ、善処しますっ」
「あら? 電話だわ。卯月さんから。ちょっと出てくるわね」
振動しているスマートフォンを取り出し、莉央奈は席を立った。
「休日だというのに、なんでしょうね。私用の電話でかかっね来るって事は、仕事ではない気がしますけど」
「ドキッとしちゃうよね。みーこちゃんと大治くんもこの前休日に働いてたし、大変だね」
「その分の報酬はあるんですけどね。そのうち莉央奈先輩も同じ目に遭う時がきますよ! 」
「覚悟はしておきます…。お金、稼がないとだしね」
「先輩がお金の事を言うと、言葉の重みが違います」
「あはは。無一文で投げ出された身だからね」
莉央奈と美心が笑い合いながら話していると、電話を終えた律華が戻ってきた。そして、その電話の内容は意外な内容だった。
「通り魔事件の犯人、捕まったみたい。それに、その人はネット上で魔導士への誹謗中傷の投稿をしていたみたい。まだ事実確認を進めている段階のようだけど」
「えっ! 早かったですね。間違いないんでしょうか」
「犯行現場の近くを徘徊している怪しい男の人を警察が職務質問したら、持ち物から刃物が出てきたらしいわ。問い詰めると、通り魔事件の犯行を自供したって。持っていたスマホで、歩きながら魔導士への誹謗中傷の投稿をしていたようね」
「みーこちゃんの件も、その人なのかなぁ」
「どうかしら…。少なくとも身の危険が無くなったのは嬉しいわね。まだ警察関係者から流れてきた速報っていう段階みたいだから、詳しい事はこれから分かっていくと思う」
「ふむ。とりあえずは良かったです。犯人には直接物申してやりたいところではありましたけど」
「わたしも、ホッとしたよ」
「じゃあ、お祝いとしておかわりしちゃいましょうか」
「賛成! 」
「賛成でーす! 」
三人は店の入口にあるショーウィンドウに向かい、上機嫌でケーキを物色し始める。カロリーや糖分の事など頭から抹消し、存分に甘味を堪能した。




