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学生魔導士は街を駆ける ー現代社会における魔導の在り方ー  作者: 小仲はたる
第2章 アイドル魔導士、がんばる

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第2章:第9話『苦労人・三木博貴』

 日本魔導協会本部にある、第一学生魔導隊の執務室。隊長である三木(みき)博貴(ひろたか)は、室内に備え付けられた固定電話で通話をしていた。


「そうか…言っても聞かないのだろうな」


 自身の席につき、片手を額に当てながら溜息をつく。電話の相手は学生隊員の中では最年長の常盤(ときわ)聡太そうただった。


『すみません…全員意見が一致してまして。勿論、問題になるような事はしないように細心の注意を払います。』


「君達の行動そのものは、特に咎められるような事ではないが…警察から快く思われないのは確かだろう。場合によっては協会の上層部からもな」


『はい。そちらを刺激しないように留意します。弁明の効くように』


「頼むぞ。上手くブレーキをかけてくれ」


『責任重大ですね。でも、隊長はいつもそういう繊細な調整や根回しをしてくれているんですよね』


「分かってくれているなら結構だ。まぁ、私も今の君らのようにグレーなやり方を取る事は、たまにあるからな。推奨はしないが」


「もし協会内部で問題になりそうだったら、いつものように上手くやってもらえると非常に助かります」


「その時はなんとかするしかなかろうが…できればそうならないように立ち回ってもらわないとな。その辺り、聡太もそろそろ上手くなってきただろう」


『隊長と比べれば、まだまだですよ。卒業までは、隊長のもとで勉強させてもらいます』


「正直、バランサーの君がいなくなるのは痛いがな…高校を卒業したら学生魔導隊からは一旦外れるのが慣例だ」


『いつか戻ってこれるといいんですけどね』


卯月(うづき)君のように能力が評価されれば、若くして副隊長を務める事はあるかもしれないな。期待しているぞ」


『ありがとうございます。では、行って来ます』


 三木は通話を終え、天井を仰ぎ深く息を吐いた。会話を横で聞いていた卯月が声をかける。


「ご愁傷様です」


「まだ何か起こると決まったわけじゃないさ」


「隊長って、こういう時は優しいですよね。隊員達の気持ちを汲んでらっしゃるから」


「明らかな規則違反だったら無理にでも止めたさ。彼らがそこまではやらないと信頼しての事でもある」


「直接言ってあげたら皆喜びますよ」


「君から伝えておいてくれ。あとは、とにかく不用意に危険な事に首を突っ込まないように」


「隊長が一番怒る事ですものね。やっぱりお優しい」


「はぁ、よしてくれ」


「それに、さっき私の事も褒めてくださいましたよね? 嬉しいです」


 卯月はウェーブのかかった明るめの茶髪を左手の人差し指でくるくる巻きながら、頬に手を当てて喜んだ。


「事実を述べたまでだよ。私は君にいなくなられたら困るしね。いや、困るどころではないな…」


「うふふ。例えば私が今辞表を提出したら、この部隊は崩壊するかもしれませんね。各部署とのスケジュール調整とか申請書類の作成とか事件現場までの送迎手配とか、誰がやるのかしら」


「恐ろしい事を言わないでくれたまえ。ひょっとしてそれで私の手綱を握っているつもりかな? 」


「とんでもない。私は隊長の忠実な部下ですもの。それに私、今の仕事結構好きなんですよ。学生のみんなもかわいいですし」


「適性があると言ったのはそういうところだよ。事務能力や指揮能力が高くても、彼らと上手くやっていけないようでは、学生部隊の管理職は務まらん」


「ありがとうございます。では、隊長だって能力だけじゃなくて適正バッチリですね」


「ありがとう。この歳になると誰かに褒められる事が減るのでね。励みになるよ」


「いつでも褒めて差し上げますよ。いつもお世話になってますからね」


「こちらの台詞だ。君のような有能な部下がいてくれて助かってるよ。今の状況では、心の底からそう思える」


 話がひと段落すると、ちょうど固定電話の呼び出し音が鳴り出した。外線からの呼び出しとは異なる大人ため、内線である事がわかった。ワンコールのうちに、卯月が受話器を取る。


「はい、第一学生魔導隊卯月です」


 三木はデスクのパソコンに向かい、仕事を再開するが、すぐにその手が止まる。


「三木、ですか? 確認しますので少々お待ちください」


 あまりいい予感はしなかったが、三木は表情を変えないように努めた。観念して卯月に伝える。


「卯月君、構わない。変わってくれ」


 保留ボタンを押して受話器を置いた卯月は、苦笑いしながら三木に返事をする。


「はい、よろしくお願いします。第二学生魔導隊の高杉隊長です」


「面倒事の可能性は低いな。よしよし」


「お電話代わりました、三木です」


 通話中の三木を尻目に、誰もいない学生達のデスクを見つめる卯月。大きめの丸眼鏡の位置を整えながら、物思いに耽る。先日起きた魔導学園の生徒に対する通り魔事件。その事件の手掛かり捜索や再発抑止のために、皆で事件現場近辺に向かったという。彼らは莉央奈を除き全員が第一線で活躍する一人前の魔導隊員だ。(その莉央奈も、先日修羅場を乗り越えたばかりだ。)なので、自分達の身の安全は十分に守れるだろう。それでも、卯月はよく心配になってしまう。特に今回は得体の知れない相手だ。


(無茶はしないでね…皆は優秀な魔導士だけど…それでも、まだ子供である事に違いはない。子供に戦わせてる大人がそんな事言ったって、説得力ないけどね)


 組織がそのような体制を作っているに過ぎないとはいえ、子供達に戦わせる事を心苦しく思う事もある。学生魔導隊は能力があっても本人の意思がなければ配属される事はない。しかし、家族のいない誠奈人のように、他の道を選べなかった者もいる。卯月はそんな子供達のためにも、せめて自分の仕事を精一杯こなし、万全にサポートしている。いくら仕事に忙殺されようと、自分は自分の戦いに負けるわけにはいかないと、己に言い聞かせている。


(大丈夫、あの子達は強いし賢いから。きっと絶対、大丈夫)


 卯月が考え事をしているうちに、三木は電話を終えて小さく息を吐いていた。


「あら、早かったですね。良かった」


「本当にな。今日はもう電話がかかってこないと良いんだが」


「電話はお嫌いですか? 」


「仕事中の電話は好きではないな。仕方ない事だが、自分の作業に強引に割って入ってくる感覚が苦手だ」


「確かに、仕事のペースが崩されますよね。メールとかなら自分でペース配分できるんですけど」


「大概電話で連絡が来るのは急ぎの内容だからな。だからこそ苦手とも言えるか…」


「とにかく電話で伝える派の人もいますけどね」


「柔軟にやって欲しいものだ。大した事ない内容で同じ人間から何度も電話が来るとさすがに苛立つ」


「誰の事かは聞かないでおきますね」


「失敬。忘れてくれ」


「イライラ、溜まってますか? 隊長は苦労人ですからね。あんまり溜め込み過ぎないでくださいね。爆発しちゃいますよ」


「まだ大丈夫だ。ストレスを発散する時間もなかなか無いがね」


「私でよければなんでもお付き合いしますよ。また居酒屋でも行きましょうか」


「助かるよ。君にとって無理の無い範囲でな」


「私にとっても発散になるでしょうから。気にしないでください」


「当たり前だが、卯月君もストレスを溜めることがあるわけだな」


「あら、どうしてそんな事を聞くんです? 」


「人並みだが、君は穏やかな気質で怒っているところや苛ついているところをなかなか見た事がないからな」


「嫌ですわ隊長。私だって平凡なOLなのですから、そういう時だってあります」


 笑顔が普段の三倍増しになる卯月。まさか自分がストレスを与えてしまっている訳ではなかろうか…と三木の脳裏に心配と一抹の恐怖がよぎる。


「そ、そうか。ならちゃんとストレスは発散しないといかんな。最近は精神の健康も大切な時代だからな」


「魔導士にとっては余計にそうですね。私達も気を付けましょう」


 いつもと同じ笑顔に戻った卯月を見て、内心ホッとする三木だった。


「それと…」


 卯月が悪戯っぽく笑ってウインクする。


「私、三木隊長にストレスを感じている訳じゃありませんから。とってもやり易く、お仕事させていただいてます」


「…謀ったな、私を」


「ふふ、すみません。また三木隊長にいらぬ苦労をかけてしまいました。でもおかけで私のストレスはちょっと解消されましたよ。感謝です」


「やれやれ。お言葉に甘えて今度は私の方に付き合ってもらうとするか」


「喜んで。大人だけで美味しいものでも食べに行きましょうか」


 今度もまた、ちょうど会話がひと段落したところで内線電話がかかってきた。例によって卯月がワンコールで電話を取る。


「はい。第一学生魔導隊、卯月です」


 三木は再びパソコンに向き直し、作業を進める。最近何か食べたい物はあっただろうかと、三木にしては平和な事を考えながらキーボードをうつ手を動かした。


「三木ですね。確認いたしますので、お待ちください」


 またか…と、少々辟易する三木。卯月が気を利かせて在席している事をまだ相手には伝えないでいてくれた。面倒そうな相手だったら、不在を装う事も可能だ。


「今度は、藤堂(とうどう)副会長からのお電話ですけど…いかがいたしますか? 」


「なん…だと…」


 さすがに魔導協会のナンバー2からの電話を無碍にする事はできず、電話に出る意思を固めた三木。


「嫌な予感が…するな」


「お偉い方からの電話って、大抵嬉しい話ではないですよね」


「く…だが、仕方あるまい。副会長からの電話に出ないという選択肢はない」


「はい…御愁傷様です」


 三木は最近の出来事を頭の中で巡らせて、副会長が一体なんのために電話してきたのか考えてみた。しかし、莉央奈の件で接触が多かった神代(かみしろ)会長はともかく、副会長とは最近話しておらず、誰かと副会長に関連した話をした覚えも無かった。結果として要件は全く検討が付かず、電話に出る前に備える事は出来なかった。


「すまないが、万一学生達から連絡があったら、私が電話中でも教えてくれ」


「はい。承知しました」


「ええい、ままよ! 」


 三木は意を決して、固定電話の受話器を手に取った。副会長からの電話は全く想定外の内容だった。

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