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学生魔導士は街を駆ける ー現代社会における魔導の在り方ー  作者: 小仲はたる
第2章 アイドル魔導士、がんばる

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第2章:第6話『魔導士叩き』

 放課後、日本魔導協会本部の一室隊長の三木(みき)博貴(ひろたか)、副隊長の卯月(うづき)(つかさ)、高等部三年の常盤(ときわ)聡太(そうた)、高等部二年の神楽(かぐら)誠奈人まなと佐倉(さくら)律華(りっか)(みのり)莉央奈(りおな)、高等部一年の一条(いちじょう)大治(だいち)、中等部三年の水野(みずの)美心(みこ)。部隊の全員が集まった。 


「それでは、第一学生魔導隊の定例会議を始める」


 三木が音頭を取り、会議の時間が始まる。業務連絡や情報共有のため、部隊の会議は協会本部で定期的に開催されている。莉央奈は今まで魔導事件被害者で保護対象

だった為、護衛のため会議室まで一緒に来て、自身に関係ある話には同席していたが、それ以外の時は誰か一人と一緒に離席していた。正式に隊員となったので、今回初めて最後まで参加する事ができる。


「まずは莉央奈の事件に関してだ。おさらいだが、莉央奈は数週間前に港の倉庫群で魔導士の日野(ひの)剛也(ごうや)に追われていたところを、誠奈人が救出し、我々魔導協会が保護した。その時点で既に記憶喪失となっており、何故追われていたのかは判明していない」


 事実と相違無く、その場の全員が頷く。


「そこから一週間程経ち、寮から少し歩いた所の公園で、再び襲撃があった。実行犯は日野剛也と…かつて我が隊に所属していた、久住(くずみ)至遠(しおん)だ。」


 誠奈人と同じ魔導学園高等部の魔導科二年に所属していた、久住至遠。誠奈人とは親友だったが、この時の戦いで誠奈人と律華に容赦なく攻撃を仕掛けている。至遠の名前が出ると、皆一様に顔色が暗くなった。


「収穫としては、その時に実さんが魔導の力に目覚めた事だ。それが無かったら危ない状況だった。よくやってくれた」


 他の面子が拍手を贈ると、褒められた莉央奈はえへへと笑いながらぺこりと頭を下げた。


「しかし、他に今のところ新たな収穫は無い。調査隊が引き続き敵の足取りを追ってくれているが、なかなか尻尾を掴めない状態だ」


「一体どういう組織なんでしょうかね。賢者の石片(フラグメント)なんて代物を持ち出してきたくらいだ」


 大治が顎に手を当て、疑問を漏らす。賢者の石片(フラグメント)は、魔導と科学の複合技術である魔科学の産物だ。魔導の力を増幅する装置だが、危険なため製造も使用も禁止されたいる。至遠はそれを持ち出して日野の頭部に無理矢理装着し、日野には扱いきれない程の力を強引に引き出した。結果、日野は自我を失い戦うだけの兵器と化した。


「麻薬や銃火器とは訳が違う。製造には魔導的にも科学的にも高度な技術が必要だ。他所から入手するにしても、おいそれと手に入る代物じゃない。その組織が自ら作り出しているのか、どこかから手に入れているのかは分からないが、どちらにしろ巨大な組織と見ていいだろう」


「日本の既存の組織で、当てはまるようなところはないんでしょうか。反社会的な組織だけでなく、真っ当な企業等も含めて」


 律華が三木に質問する。日本国内には魔導の研究を行っている公的施設や、民間企業も存在する。それらが裏で違法な行為に手を染めている可能性は否定できない。


「魔科学の研究には世界的に大きな制限がかけられているからな。それほどの技術力を表立って所有している団体は存在しない」


「正体不明な、地下組織ってところですか。秘密結社と言った方がいいかな。どちらにしろ、かつてない程巨大な敵と感じてしまいます」


 聡太は今までの経験から推察する。世界には魔導士を中心とした大きな犯罪組織やテロ組織も存在している。日本ではそれらに匹敵する規模のものは確認されていないが、魔導士が団結し、組織で犯罪に手を染める事はある。魔導という力を持ちながら、差別や偏見に晒されやすい魔導士は、同じ境遇の魔導士達が互いに共感して徒党を組む事が往々にしてある。


「先の襲撃はなかなか大事になったからな。向こうもやり方を変えてくる可能性がある。引き続き誠奈人と律華は実さんの護衛をよろしく頼む」


 誠奈人と律華は了解、と返事を返す。


「それと本件は別の魔導隊の協力も得られた。その時の人的余裕にもよるが、有事の際は応援が期待できる」


「それは嬉しい。一体どこの部隊が? 」


「第一特務魔導隊だ」


「えっ…!? 」


 質問した誠奈人の顔が驚きの表情に変わる。


「どういう部隊なんですか? 」


 他の部隊について詳しく知らない莉央奈が尋ねると、三木が説明を始めた。


「第一特務魔導隊は、神代(かみしろ)龍馬(たつま)隊長が率いる、日本魔導協会で最も優秀とされる部隊だ。魔導隊は我々のいる学生魔導隊、成人の属する正規魔導隊があるが、特務魔導隊は大きな事件や事案を主に担当する部隊だ」


「す、すごい人達なんですね。そこが協力をしてくれると」


「ああ。この件は会長が以前から気にしていてね。そんな中、賢者の石片(フラグメント)を用いた襲撃があった。それを受けて会長が立案してくれたんだ」


「協会内でも重要視してくれてるっていうのは助かりますね。その分、僕達も気を引き締めないと」


「確かに、聡太先輩の言うとおりっすね」


 他の部隊からの協力に安心せず、舞台を鼓舞するように聡太が声を上げると、大治もそれに賛同した。


「今のところは、ここまでだ。嬉しいニュースもあって良かったが、謎が多い事に変わりはない。聡太の言うように、気を引き締めて行こう」


 三木の号令に、隊員達が頷く。莉央奈の事件に関してはここまでとなり、別件に話が移る。


「さて、話は全く変わるが…今少し困った事が起きていてな。美心にも関係している事だ」


「…いやな予感」


 三木が美心を見ながら話し出すと、美心は露骨に嫌そうな表情をして眉をひそめる。


「SNSで、魔導士に対する批判的な投稿が相次いでいる。協会の運営するアカウントや、魔導士個人のアカウント、対象は様々だ。美心のところにも、そのような投稿があったようだな」


「……はい。ていうか、みーこだけじゃなかったんですか! 同一犯なんでしょうか」


「こういった事は今に始まった訳ではないが、ここ最近急激に数を増やしている。投稿をしているアカウントは複数あるようだが、勿論それらが同一人物の可能性もある。そこまではプロバイダ等に問い合わせてみなくては分からないだろうが」


「ここで議題に上がるって事は、よっぽど悪質なんですね。みーこは身を持って体験してますけど」


「数も多いが、過激な発言も多いようでな。殺人予告のような、一線を越えた物はまだ無いようにだが。協会も現在対策を協議中だ。だから美心も早まった事はしないように」


「まだコメントはしてません。そんな大事になってるなら、様子を見ようかな」


「それが懸命だ。あとは、インターネット上だけで無く、現実でも何か嫌がらせ等があればすぐに相談してくれ。魔導士に対して直接手をあげるような事は考えづらいが、それでも各員用心しておくように」


「やっぱり、魔導士じゃない人がこういう投稿をしているんでしょうか? 」


 莉央奈は俯き、切なそうな声色で疑問を口にする。


「魔導士を批判したり、存在を否定するような投稿がほとんどだから、犯人は魔導士ではない可能性の方が高いだろうね。あるいは、魔力を持って産まれたが、魔導士にはならなかった者、魔導士の家系に産まれたが自分だけは魔力を授からなかった者…ただの愉快犯という線もある。どうしてこんな事をするかは、本人に聞くしかないだろうな」


「うぐぐ…みーこだけでなく他の人のところにまで。ますます許せませんね。協会には強硬な姿勢を望みます! 開示請求です! 」


「美心が個人としてそれを望むなら、我々が止める事はできん。どうする? 」


「んむーーー…。一旦、我慢します。みーこだけが突っ走るわけにもいかないですし。それに協会が調べてくれてるなら、犯人がそのうち見つかるかもしれないですよね」


「わかった。何かあれば相談してくれ。これからも続くようなら無理に我慢する事はない。上にも打診してみよう」


「ありがとうございます。さすが、隊長は頼りになりますねっ」


「隊長として当然の事だ。では、引き続き連絡事項を。卯月君頼む」


 そこからは卯月から雑多な連絡事項が続いた。協会本部近隣の工事について、先月の事件発生件数について、他の部隊の活動状況について…など。


「連絡事項は以上です。皆からは、何かありますか? 」


 特に話す事はないようで、皆一様に頷く。美心が「ありませーん! 」と、意見を代弁した。


「はい。それでは隊長にお返しします」


「うん。なら今日の会議はこれで終了する。学生諸君は自由にしてくれ」




 会議の後、一旦全員が執務室まで引き上げて来た。三木を除いて。


「隊長は本当に忙しいですね。大丈夫なんでしょうか」


「いつも色んな人に心配されてるの。私もサポートしてるし、皆も手伝ってくれているから、何とかなってはいるんだけど…」


 聡太と卯月がいつもどおり多忙な三木を心配する。三木は能力が高い上に人望もあり、人も仕事も彼の所に集中する傾向にある。


「卯月さんは大丈夫ですか? 」


「私は隊長よりは全然マシよ? 上司が自分より頑張ってるんだから、これぐらいはなんとかしなきゃって気になるし」


「大人の仕事って、大変なんですね…みーこはやっぱりアイドルで生計を立てられるように頑張ります…」


「なんだ、魔導隊は辞めちまうのか? 」


 大治が美心に言葉を返す。何気ない一言のつもりだったが、美心は邪推してかかる。


「大治先輩、みーこがいなくなると寂しいんですかぁ? しょうがない人ですねぇ。くすくす」


「こいつ…」


「大治君抑えて抑えて。みーこちゃんは、自分が寂しいから、大治君も同じかどうか聞いてみたんじゃないかな? 」


 聡太がフォローを入れるが、期せずして二人の攻守が逆転することになった。


「なんだ、そうなのか。素直じゃないな。最初からそう言えばいいのに」


「違いますぅ! みーこは別に平気ですぅ! 」


 歪み合う大治と美心をよそに、律華が卯月に声をかける。


「卯月さん、今日は何かお手伝いできる事はありますか? 」


「ありがとう律華ちゃん。今日雑務も含め、落ち着いてるから大丈夫よ。皆はいつも体を張ってくれてるから、休んでくれていいんだから」


 卯月の言葉を受けて、誠奈人達はしばらく談笑した後、協会本部を後にした。会議で話した事が想像以上の事態につながっていく事を、まだ知らずに。

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