第2章:第3話『神楽誠奈人の自己分析』
ファミレスを後にして帰路に着いた誠奈人達。寮に戻り、夕飯までそれぞれの時間を過ごしていた。誠奈人は寮の片隅にある道場の中で、寮の守衛である仙田玄治と話し込んでいた。
「成程。至遠はそんなに腕を上げていたか…。それで、今の自分では力不足だと感じたわけだね」
「はい。今回は即効性が欲しくて…何か新技を覚えたいと思ってます」
「あちらは待ってくれないからね。だが焦っては元も子もないよ」
「それは、わかってるつもりです。基礎鍛錬も欠かさず続けます。その上で、一気に戦闘力を高められる新技を開発しようかと」
「新技…か。基礎を重んじるタイプの誠奈人にしては珍しいね」
「確かに今まで俺は基礎的な魔導を鍛える事に力を注いできました。そのおかげで身体強化や魔力放出をかなりの威力で扱えます。魔力のコントロールの技術を磨いたおかげで形成魔導や纏魔の装も、他の魔導士より高いレベルまで昇華できていると思います」
「そのとおりだね。過大も過小もなく、よく分析できているよ」
形成魔導は魔力を物体の形に押し固めて実体化させる技。一般的には武器を作り出すことが多く、誠奈人は専ら刀を形成して近接戦闘を仕掛ける。纏魔の装は形成魔導で作り出した物体に別の魔導を重ね掛けする技だ。誠奈人は炎や雷といった属性を刀に付加するシンプルな使い方をする。形成魔導を使う魔導士は多いが、纏魔の装は高等技術のため使い手は限られる。
「基礎を鍛えるのは大切だ。だけどそれだけじゃ格上には勝てないし、至遠と戦った時みたいなイレギュラーな状況にも対応しづらい。それに、莉央奈や仲間を守りながら戦うのも限度がある」
「たしかに、刀の剣撃だけではシンプルな戦い方しかできないね。必要なのは手数が多く、多面的な戦い方ができる技…といったところかな」
「はい。その上で必殺の一撃にも繋がると理想です」
「なるほどねぇ。なかなか条件は厳しいな。苦労すると思うよ」
「覚悟はしてます。付け焼き刃で半端な技を身につけるよりは、余程良い」
「そうか。じゃあ僕も協力させてもらうよ。とりあえず、ざっくばらんにアイデアを出してみようか」
誠奈人と玄治は腰掛けて相談を始めた。あーでもない、こーでもないと、様々な意見が飛び交う。そこから少し離れた所で莉央奈と律華も話をしていた。
「莉央奈が使えるようになった治癒魔導は便利だけど、弱点もいくつかあるの」
「弱点…? 」
「例えば、治癒魔導で直せるのは魔力で受けた怪我だけなの。それ以外の、物理的なダメージなんかは治せない。殴られたり、車に轢かれたり、包丁で刺されたり。そういうのは無理」
律華が挙げる例が妙に恐くて、少し背筋が凍った気がした莉央奈。だがとてもわかりやすい例ではあった。
「なるほど…あれ、じゃあ例えば魔力を使って爆発を起こしたとして、その爆発のダメージは治せると思うけど、爆発で出来た炎とか飛んできた何かのはへんとかはどうなるの? 対象外?」
「いえ、魔導で何かに触れた時、基本的には微弱な魔力が伝播していくものなの。だから、莉央奈が言ったように副次的に発生した物も、魔導と触れて発生したのであれば治せるわ。例え少ない魔力であっても含まれていれば、それに反応して治癒魔導は効力を発揮するわ」
「魔導士と普通に戦ってるぶんには、だいたいの怪我が治せるって事でいいのかな」
「それで構わないわ。魔力で強化したパンチやキックでダメージを受けても、治せるしね。形成魔導で作った武器も同じ。とは言っても治癒魔導は高い集中力が必要だから、動きながら使うのはほぼ不可能」
「走りながら治せるお医者さんなんていないもんね。確かに、すごい力だと思ったけど万能ではないんだね」
「過信は禁物ね。でも便利な力なのは間違いないわ。自分たちの怪我を治せるのは勿論、犯人を捉える時に多少無茶しても相手の怪我を治せるから」
「そ、そうだね」
(なんだか今日の律華ちゃんは殺意が高い気がするなぁ)
「私が次に覚えるとしたら、どんな魔導がいいかな? 」
「まずは基本の身体強化と魔力放出ね。これができればひとまず戦いはなるわ」
「魔力放出って、前に授業でやった魔力の弾を発射するやつ? 」
「そうそう。魔力をそのまま撃ち出して相手を攻撃するの。最初はボールを軽く投げるくらいの威力しか出ないけど、相手の動きを止めたり目眩しにしたりはできるかな」
「確かに、人によって大きさも速さもまちまちだったね」
「身体強化はその名の通りね。体の動きを魔力で補助してあげる事で、パワーやスピードが上がる。これも人によって練度は大きく異なるわね。ただこれは体に無理をさせているわけだから、やり過ぎると痛い目を見るわ。私も前に凄い筋肉痛になって動けなくなった事がある。その程度で済んで良かったけどね」
「身体強化して相手にパンチとかキックするのも、魔力で攻撃してるって事になるの? 」
「ええ。身体強化の魔導を使うと、強化した部位の体表に魔力が溢れ出す。体の動きを強化するだけじゃなくて、纏った魔力による攻撃力も加わるわ。だからその分治癒魔導の対象になるってわけね」
「狙ったところをピンポイントで強化するのって、なんか難しそうだね。ちゃんと魔力をコントロールしないとだよね」
「そのあたりのイメージが掴めるようになってきたみたいね。そう、身体強化も基礎的な魔力だけど、ちゃんと活用しようと思ったら適切な魔力のコントロールが必要になる。最初のうちは全身を広く弱く強化するような感じになると思う。そこから徐々に強度を上げたり、不要な部分の魔力を節約したりすればいいかな」
メモを取りながら、うんうんと何度も頷く莉央奈。以前から魔導について話を聞く時は、きちんと記録している。
「じゃあちょっとやってみましょう。魔力をイメージ通りに操る練習」
「うん、よろしくお願いします! 」
莉央奈と律華の話がひと段落した頃、誠奈人は形成魔導で様々な武器を作り出しては素振りで試していた。刀で空を斬り、槍で突き、斧で裂く。全く異なる性質の武器を舞踊のように滑らかに使いこなす。
「刀、槍、斧、戟、薙刀…色々試したけど、刀以外どうもしっくりこないな。長物は使い慣れてないのもあるけど」
「やっぱり形成魔導から派生させるつもりかな? 」
「一から何か生み出すより、得意技を元にした方が良いんじゃないかと思って」
「うん、完成させるのも使いこなすのも、その方が早いだろうね」
「手数があって、色々な戦い方ができて、威力もある…ぐぎぎ。当然だけど難しいな」
「そういえば、至遠はどんな魔導を使っていたんだい? 」
「あいつは、今も形成魔導魔導を使ってました。昔と同じようなサーベル型の剣。ここにいた頃は剣から斬撃型の魔力弾を飛ばす技をよく使ってたけど、今回は使ってなかったな。主に使ってたのは…初めて見る技だったかも」
「どんな感じだった? 」
「纏魔の装みたいに、剣の周りに魔力を上乗せしてました。それを鞭みたいにしならせて攻撃したり、棘のような形にして地面の下から突き出してきました」
「魔力の形を戦いながら自在に変えるのは、かなり繊細なコントロールが必要だ。腕を上げたようだな。その分戦いの幅はかなり増すだろうね」
「実際、かなり厄介でした。間合いも取りづらかったし。最後の一撃なんかは威力も申し分無かった」
「真似をする必要はないけど、ヒントにはなりそうだね」
「確かに、そうですね。ちょっと参考にします」
「あとはそうだな。自分より強い魔導士の戦いを見たり、教えを乞うたりしてみてはどうかな? 」
「自分より強い魔導士…か」
「確かに誠奈人は随分強くなった。それでも上には上がいる。前を行く者を見て学ぶのは大事な事だよ」
「そうですね。機会を見つけて、やってみます。協力してくれる人がいるといいんですが」
「たとえば三木隊長はどうかな? 実践は退いて指揮官を主としているけど、彼もかなりやり手の魔導士だ」
「うーん…もちろん実力は俺も知ってますけど、あの人忙しいからなぁ」
「あー…。確かに、かわいそうなくらいにね。彼が有能だからではあるんだけど。まぁ時間さえあれば誠奈人の頼みは断らないだろう。長い付き合いなんだから」
「そういやそうですね。協会に来てからずっとだから。時が経つのは早いもんですよ」
「それは年寄りの台詞だよ。誠奈人が使うにはまだまだ早い」
「玄治さんもまだ若いからね。使えないでしょう」
「ははは。気持ちだけはね。体の方は最近どうも色々とね…困ったもんだよ」
「しょーがないですね。皆そうだ。あんま無茶はしないでくださいね」
「お互い様だよ。君に何かあったら、おじいさんに顔向けできないからね」
「わかってますよ」
「さて、そろそろ夕飯の時間だな。引き上げようか」
「そうですね。律華、莉央奈、そろそろ行こう」
「はぁい。もう少しで何か掴めた気がするんだけどね…」
「焦らない焦らない。上手くできてたわよ」
「律華は莉央奈には甘いよな。また調子に乗るぞ」
「乗らないよ? 調子」
「そうよ。莉央奈が良い子だから優しくしてるだけ」
「甘やかしてるように見えるがな…みーこがまたぶすくれるぞ」
「そんなつもりはないんだけど。まぁ、みーこには今度なにか優しくしてあげます。恐がられるのも嫌だから」
「お前はたまに普通に恐いけどな」
「そんな事ありません。私を怒らせる人がいるだけよ」
「それはそうなんだが…限度というものがな」
「…何か言ったかしら? 」
鷹のように鋭い眼光で誠奈人を威圧する律華。そのあまりの迫力に誠奈人は閉口するしかなかった。しばらくの沈黙の後、誤魔化すように話題を転換する。
「さぁて、今日の夕飯はなんだろうな! 」
「今日は和食だって。ちょうどいいね」
「ピザをたらふく食べたからな。これでバランスが取れる」
「バランス…何のバランスなの? 」
「和洋のバランス」
「栄養とかじゃないんだ」




