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学生魔導士は街を駆ける ー現代社会における魔導の在り方ー  作者: 小仲はたる
第2章 アイドル魔導士、がんばる

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第2章:第1話 実莉央奈の入隊

 日本魔導協会本部。東京都内の、都心からは少し離れた場所にある巨大なビル。その一室に(みのり)莉央奈(りおな)はいた。


「実莉央奈。ここにあなたの入隊を認めます。栄えある魔導隊の一員として、職務を全うするように」


 日本魔導協会会長の神代(かみしろ)龍文(たつふみ)。オールバックの灰髪に鋭い眼光を備えた壮年の魔導士から、莉央奈に書状が手渡される。日本魔導協会、そしてその内部組織である魔導隊に所属した事を示す辞令書だ。莉央奈はそれを両手で受け取り、頭を下げる。厳かな雰囲気で緊張しているのか、少し動きがぎこちない。


「さて…少し砕けた話をさせてもらうが、今回の君の入隊は特例的な措置になる。本来、学生が魔導隊に入るにはそれなりに厳しい審査がある。将来ある若者を危険な任務で失わない為に、実力のある者だけを配属するからだ。高校を卒業してからであれば、そこまでの審査は無いんだがね」


「は、はいっ」


「君が悪意ある魔導士に追われていた事から、魔導隊に身を置く事は、君を守る事に繋がる。そして君自身が魔導の鍛錬を積めば、自衛手段を得る。何より、先の戦いで見せたという治癒魔導は魔導隊の隊員と比較しても何ら遜色の無い精度だったと聞く。それらを総合的に判断した結果、魔導隊への入隊が、君にとっても協会にとっても有益になると判断した」


「はい。そのように聞いています。感謝いたします」


「うむ。まぁ、何よりの決め手になったのは君がやる気になっているという事だな。自ら魔導隊に志願したそうじゃないか。実に感心だ」


「守られているだけじゃなくて、自分でも何かをできるようになりたかったんです。それが、わたしの記憶を取り戻す事にも繋がるかもしれないと」


「前向きで良い事だ。我々は同胞として君を歓迎するよ。既に伝えたとおり、君の所属は三木隊長率いる第一学生魔導隊となる。見知った面々だろうから、上手くやってくれたまえ」


 側に控えていた三木(みき)博貴(ひろたか)が頭を下げる。今日もスーツで身を固め、背筋を綺麗に伸ばしている。短めの前髪を左右に分けており、その鋭い目付きが遠目でも良く見える。第一学生魔導隊は誠奈人(まなと)美心(みこ)達が所属する部隊で、高校生以下の魔導士が中心となって配備されている。莉央奈とは、記憶喪失の彼女を最初に保護してからの付き合いだ。勝手知ったる部隊への配属となり、莉央奈は胸を撫で下ろす。


「はい。協会の魔導士として、精一杯頑張ります! 」




 緊張から解放されて思いっきり背伸びをする莉央奈。学生第一魔導隊の執務室まで戻って来た。


「はぁ、緊張したぁー」


「お疲れ様。会長は怖かったか? 」


 隣に座る誠奈人(まなと)が茶化すように莉央奈に声をかける。


「怖いというか、なんか威圧感があったなぁ。大人になると、みんなあんな感じになるのかな? 」


「誰も彼もがああなったら困る。安心しろ」


「そういえば、ここにも自分の席があるとは思わなかったよ。OLさんになった気分」


 執務室内には学生では無い隊長の三木と、副隊長の卯月(うづき)(つかさ)、それと若干名の事務員が常駐している。彼らのデスクは勿論、莉央奈達学生のデスクも用意されている。もっとも、学生は何か用がある時でなければ協会本部には来ないので、大人達と比べると簡素な席だ。


「会議の時とか、報告書とかの書類を作る時とか、ここを使うのは限られた時だけどな。それでも便利に使わせてもらってる」


「自分の居場所が増えるって、なんか、いいな」


「…そうか。そうだな。俺もそう思う」


 過去の記憶を失った莉央奈には自分の居場所や帰る場所すら無かった。誠奈人は自分が幼少の頃に両親を失い、その数年後には唯一の家族だった祖父も亡くなった。それを思い返し、莉央奈の気持ちに同調する。自分が安心してそこにいられる。そんな場所の大切さを実感しているからだ。


「誠奈人くんと律華ちゃんが隊長に口利きしてくれたおかげだよ。ありがとう」


「あなたの力が評価されたからでもあるから、そんなに殊勝にならなくてもいいのに」


 莉央奈から見て誠奈人とは反対側の席に座っていた律華(りっか)が返す。佐倉(さくら)律華(りっか)は誠奈人、莉央奈の同級生である律華は、二人と同じ第一学生魔導隊の所属だ。先の戦いでは怪我を負った誠奈人と狙われていた莉央奈を一人で守り抜いた。その行動が、莉央奈の魔導を覚醒させる要因にもなった。


「ありがとう。あの後練習して治癒魔導だけはなんとか使えるようになったから、皆の助けになれるといいな」


「治癒魔導は結構難しいからな。特に他者を治すのは更に難易度が高い。誰でも使える物じゃないから、助かる。魔力の消費も大きいしな」


「莉央奈が回復してくれれば、その分の魔力を他に回せる。アテにしてるからね」


「お、おっす。頑張ります」


「順番がちぐはぐになったが、基礎練習もやっていくか。授業でも教えてくれるはずだ」


 三人が話していると、三木と卯月がやって来た。先ほどの部屋に残って会長達と少し話をしていたようだ。ウェーブのかかった髪を軽くかき上げながら、卯月が莉央奈に話しかける。


「莉央奈ちゃんお疲れ様。緊張したでしょう? 」


「どきどきしました。無事に終わって良かったです」


「これで名実共に私達の部隊の一員。改めてよろしくね」


「はい。早く一人前になれるように頑張ります」


「あとは、自分が狙われているという自覚は忘れないように。誠奈人と律華の護衛も継続する。不自由かもしれないが、当面は我慢してくれ」


 正式に部下となったため、以前よりも砕けた口調で話す三木。


「もちろんです。三木隊長も、ありがとうございます。わたしを推薦してくれて」


「会長も言っていたが、我々にとっても嬉しい話だったからな。いつまでも外様でいるより、身内になってくれた方がこちらとしてもやりやすい。それに、魔導の才も確かなようだ。期待させてもらうよ」


 話をしながら三木は自分のデスクであくせくと何かの書類やファイルを集めていた。それらをビジネスバッグに詰め込み、デスクから離れる。


「では、悪いが私は別件で失礼する。学生組は、今日はもう好きにして大丈夫だ。帰るようなら、気を付けるんだぞ」


 誠奈人、莉央奈、律華が返事をすると、三木は足早に執務室を後にした。


「隊長って皆あんなに忙しそうなんですか? 」


「うん、どの部隊でも大変な仕事だと思う。でも、あの人の場合は頭が切れて仕事早いから、いろんな事をやらされてるって側面もあるのよねぇ」


 莉央奈の素朴な疑問に、困ったように眉をひそめながら卯月は返答する。


「私もやれる事は手伝ってるんだけどね。協会の人手不足もあるから、なかなかね」


「仕事ができる人の方が大変な目に遭ってるっていうのも、なんだか変な話ですね」


「莉央奈ちゃん鋭いねぇ…。社会というのは、そういうものなのよ。できる人がたくさん仕事をして、そしてその分お給料が増えるとは限らないの。世知辛いよねぇ」


「そんなの、なんだか皆サボっちゃうような気がしますけど…」


「そんな中でも頑張っちゃう人がいるのよ…。困っちゃう。まぁ協会はサボる人はそんなにいないけどね」


「働くって、なんか複雑な事情が色々あるんですね」


「そうなのよ。莉央奈ちゃんも大人になったら分かる時が来る。でもあなたはそのままの、純真無垢な子でいてね」


「善処します! 」


「もう一つ教えておくと、『善処します』は、大人の世界では誤魔化しの言葉なの」


「大人…奥が深い…」


「さて、三人はどうする? 隊長も言ってたけど、帰ったっていいのよ」


「少し時間を潰してから行きます。みーこが言い出したんですが、昼にどこかで莉央奈のお祝い会をしようと」


「あらあら、いいわねぇ。学生の特権ね」


「この前歓迎会をしてもらったばかりだから、なんだか照れ臭いですっ」


「みーこは皆で集まって遊びたいんだろ。きっかけがあって助かったんじゃないか」


「そうかな。えへへ」


「じゃあ、一息ついてから集合場所に行きましょう。よかったら副隊長もどうですか? 」


「ありがとう。せっかくだけど、私も少し仕事をしていくから。皆で楽しんできて」


「大変ですね。今日は土曜日なのに…ちゃんと休んでます? 」


「休日出勤したらちゃんと代休をもらってるから大丈夫。隊長はたまに休まず働こうとするけど、私が見張ってます」


「お疲れ様です。じゃあせめて、少しお手伝いしてきます」


 誠奈人、莉央奈、律華の三人は、コピーや書類整理のどの雑用をこなして卯月を助けつつ、時間を潰した。集合時間が近くなったところで卯月に別れを告げて協会本部を後にした。

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