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学生魔導士は街を駆ける ー現代社会における魔導の在り方ー  作者: 小仲はたる
第1章 全てを失った少女

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第1章:第21話『最後の一撃』

 誠奈人(まなと)至遠(しおん)、二人の刀剣が何度も交錯した後、鍔迫り合いの形になるが、互いに一歩も譲らない。二人はしばらく押し合った後、同時に後ろへ跳ぶ。


纏炎刀(てんえんとう)


 誠奈人は刀を横に薙ぎ払い、刀身に纏わせた橙色の焔を真っ直ぐに放つ。飛来した炎に向けて至遠は剣を払い、炎に込められた物よりも強大な魔力でもってそれを消し飛ばす。至遠はそのまま剣を地面に突き立て、魔力を込める。剣の切先から伸びた魔力が誠奈人の足元から噴出し、鋭い棘の形となって誠奈人に襲い掛かる。それを横に跳んでかわしたが、かわした先の地中からも魔力の棘が誠奈人を貫こうと伸びてくる。それをかわしても更に追いかけるように新たな棘が次々に誠奈人を追い立てる。しばらく走り回って回避に徹していたが埒があかず、誠奈人は足に魔力を込めて高く跳び上がる。瞬時に五メートル程跳躍して眼下に至遠を捉えると、左の掌を向けて魔力の固まりを放出する。授業で見せた時と同じ一メートル程の球体が、至遠を襲う。


「返すよ」


 至遠は地面に突き立てた剣を掴み、引き抜きながら斬り上げ、魔力弾を正面に弾き飛ばした。落下先に上手く返され、避けられないと悟った空中の誠奈人は腕を体の前で交差させて防御の構えを取った。ドン! という爆発音と共に魔力弾が爆ぜる。至遠はすかさず自分も魔力弾放つ。誠奈人の物より一回り大きいそれを二発、三発と連射する。その全てが誠奈人の腕によって上空へ弾かれ、明後日の方向に飛んでから破裂し、消滅した。


「近所迷惑だ」


「誠奈人のせいだよ」


 一定の距離を保ったまま睨み合う二人。お互いに相手の隙を窺っている。


「お前達はなんで莉央奈を狙う。お前がその組織に身を置いてる理由はなんだ」


「前者は言えない。後者は僕の目的と組織の活動方針が一致しているから」


「おまえや日野が所属した所を見ると、日本国内の組織か」


「そんな事を知っても何の意味もない。君に出来ることなんてないのだから…あの時と同じように」


「…確かに俺は今まで、何かをなくしてばかりだった。でもそれは、今を諦める理由にはならない。失って、失って、絶望しても。それでも抗い続ける。生きてる限り」


「その抵抗が実を結ばなかったとしても? 」


「駄目かもしれないってやる前から諦めるよりも、とりあえずやってみる方が俺の好みだ」


「…少し喋り過ぎたか」


 至遠は目を閉じ、心を鎮める。次に目を開いた時、一瞬にして誠奈人の目前に移動していた。誠奈人の右から一気に剣を切り上げる。誠奈人は直前で体を後ろに反らしたが、腰の右から鳩尾までを斜めに斬り裂かれる。傷は深くないが、鮮血が吹き出す。二人の戦いが始まってから、初めての明確なダメージだった。誠奈人は顔色ひとつ変えずに刀を振り払い、至遠の追撃を阻む。至遠は剣に魔力を纏わせ、それを振り下ろした。剣の周囲で妖しく光る魔力が鞭のように伸び、誠奈人の胴体に絡みつく。至遠が剣を引くと、誠奈人の体は引っ張られるように引き寄せられた。空いている左手で拳を握り誠奈人の顔面に叩き付けようとするが、誠奈人は頭突きで迎撃する。誠奈人の石頭が顔面に直撃して至遠は顔をしかめた。誠奈人の額には血が滲んでいたが、構わずに今度は自分の左拳をすかさず至遠の腹に叩き込む。衝撃で至遠の口から一気に空気が吐き出される。


「き、さ、ま…!」


 至遠は倒れそうになるのを堪え、怒りに任せて誠奈人の左右のこめかみに両拳を叩き付ける。頭部の両側から衝撃を受け、誠奈人の視界がぐらつく。足がもつれて転びそうになるが、片手を付いて体を支える。動こうとするがすぐには体が言うとを聞かず、その隙に至遠の右掌底が誠奈人の額に突き刺さる。後方に激しく吹き飛ばされる誠奈人。至遠はほくそ笑むが、右腕から血が吹き出し、驚愕の表情を浮かべる。掌底を繰り出した際に、誠奈人の斬撃がわずかに届いていた。


「苛立ってるな。自分の方がずっと強いと思ってたか? おまえがどこで何をしていたか知らないが、俺も協会の魔導隊員として絶えず最前線で闘ってきた。なんて事ない事件も勿論あるが、多くの死闘を乗り越えて今の俺がいる。確かにおまえも二年間でとんでもなく強くなってるが、俺だって同じだと言う事を計算してなかったようだな」


「減らず口を…僕は別に君の事など気にしない。目的の達成を邪魔されていらついているだけだ」


「そうか。じゃあもっと邪魔してやろう」


「黙れ…すぐに細切れにしてやるよ」


 二人がお互いに向けて同時に走り出し、両者の距離がぐんぐん縮まり、やがて刀と剣がぶつかり合う。激しく音を立てながら高速での攻防が続く。莉央奈は律華の治療を続けながらも、二人の魔導士による闘いに目を奪われていた。


「これが、魔導士の、本気の闘い…」


 両者一歩も譲らず、紙一重の所で相手の攻撃を防ぐ。魔力で強化した身体能力での斬撃の応酬は激しさを増していく。


(至遠…本当に強くなったな)


 隣で共にいられたのなら、親友の成長を素直に喜べただろう。だが、今の至遠を強者足らしめているのは、負の感情を源とした力だ。誠奈人はそれを苦々しく思う。そして、誠奈人は少しずつ押され始めている。負傷の影響を痛感していた。傷付いた内臓や筋肉は再生されたが、失われた体力や栄養素、血液までは取り戻せない。


「動きが鈍ってきたな。そろそろ終わりのようだ」


「そうだな…だが終わるのはおまえだ」


 斬り合いを続けながら二人は言葉を交わす。


(このままでは、体力と魔力を削られ続けるだけだ。それが一定のラインに到達した時、あいつの剣は俺の命に届く。誰かが来てくれる事を祈って少しでも時間を稼ぐか? それとも一気に勝負を決めるか? 早く判断しないと勝率が下がるだけだ…だったら、来るか分からない味方を待つよりは、やってみるか)


 このままではそう遠くないうちに押し切られると判断した誠奈人は、最後の勝負を仕掛ける決意をした。その直後、至遠の蹴りが放たれ、真 誠奈人は両腕で防ぐ。地面から足を離さないように堪えることはできたが、後ろに吹き飛ばされ、足と地面が擦れる音がする。


(迷うな、惑うな。考えろ、目の前の『敵』を叩き斬る方法を)


腕の隙間から誠奈人が至遠に鋭い視線を送ると、至遠も誠奈人の考えを本能的に理解した。体力で優っている至遠には、誠奈人を消耗させるという選択肢もあったが、それを選ぶ気はなかった。自分に正面からぶつかろうとしているかつての親友を、こちらも正面から迎え打たなくてはならないと感じていた。過去から脱却するために。


「―纏魔刀(てんまとう)


 誠奈人は今まで雷の魔導や水の魔導など、魔力を別の何かに変換する魔導を発動して、それを刀に纏わせていた。しかし、今回は変換せずに魔力を直接刀に纏わせた。魔力を使って魔導を発動させる時、そこには一定のロスが生じる。通常、10の魔力を使ったとしても7や8の威力の魔導しか発動することはできず、残りの2や3の魔力は浪費される。魔導士の習熟度によって程度に差はあるが、魔力のロス自体を完全に無くすことはできない。しかし、魔力を何かに変換せずに直接エネルギーとして使用する場合は、そのロスを限りなく減らす事ができる。そのロスを鑑みても利便性等の点で魔力を魔導に変換するメリットは大きいが、今の誠奈人は単純な破壊力に特化させるため、刀に魔力そのものをまとわせて、強大なエネルギーの塊を形成した。魔力をそのまま放出する事自体は基礎的な技術ではあるが、大量の魔力を一点に集中させる事は高度な魔力操作のスキルを要する。刀身に宿った魔力の輝きは、今や誠奈人の体よりも大きく膨れ上がり、稲妻のようにバチバチと音を立てて迸っている。


「まさに最後の一撃ってところか…。だったらこちらも、同じ土俵で戦おう。完璧に打ち負かすために」


 至遠も誠奈人と同じ要領で、剣に大量の魔力を纏わせていく。


「…待たせたね」


 至遠は剣を構え、冷たく言い放つ。両者の刀剣に宿った魔力は、ほぼ同じ大きさとなった。辺りが静まり返り、お互いに相手の姿をまっすぐに見据える。呼吸を整え、神経を研ぎ澄まし、己の力を最も発揮できる瞬間を待つ。そして…。


「うおぉぉぉ!! 」


 誠奈人と至遠の咆哮が響き、互いの力が交錯する。嵐のような爆風と轟音の奔流が起き、二人は閃光に包まれた。

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