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学生魔導士は街を駆ける ー現代社会における魔導の在り方ー  作者: 小仲はたる
第1章 全てを失った少女

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第1章:第15話『魔導士二人、休日出勤にて』

「休日出勤、かぁー」


「しょうがねーよ。早く終わらせれば早く帰れる。気張ってこーぜ」


 不満そうに口を尖らせる美心(みこ)と、嗜める大治(だいち)。人のまばらな大通りを並んで歩いていた。


「ホシは見つかりますかねぇ?」


「それは言うなー。可能性があるなら無視はできないって」


「眠たい頭を起こすために、おさらいしましょう。今日みーこ達はなぜこんなところにいるんでしたっけ」


「兼ねてより捜索中だった連続ひったくり犯の男を警察が発見したが、捕まえようとしたところ、魔導で抵抗。そこで魔導士だという事が発覚した。男はそのまま逃げ仰せたので、魔導士絡みってことで協会にお鉢が回ってきた…だったな」


「監視カメラの映像から、この辺に潜伏してる可能性が高いんでしたよね。近隣のバス停や駅には容疑者の痕跡は無かったと」


「ああ。車で移動した可能性なんかもあるけどな。とにかく相手が魔導士だから、交戦状態になった時の事を考えて俺らが呼ばれた。見つかるといいな…この辺にいるかわからんけど」


「いるかいないかわからない人を探すのって、結構辛いですねぇ」


「こういうのはどこまで行っても地道な捜査が重要だろ。監視カメラの情報があるだけマシだと思っておこうぜ」


 ひとまず納得したのか、美心は口を閉じる。魔導隊の仕事は魔導士との戦闘が最も多いが、今回のような攻撃的な魔導士の捜索や、莉央奈の件のような魔導士からの護衛など、多岐に渡る。魔導士の力が必要となれば、駆り出される事が多い。


「みーこ、朝飯食ったか? 」


「今朝髪型がなかなか上手く決まらなくって。時間足りなくて食べ損ねました」


「プロテインバーならあるけど、食うか? ココア味」


「プロテインてところがちょっと引っかかりますが、ココア味なら欲しいです! 」


「引っかかるな。ほら」


「わぁい。ありがとうございます! むぐむぐ。意外といけますね。ちょっと喉が乾きますけど。ちらっ」


「はいはい、あそこに自販機あるから」


「ありがとうございまぁす!」


 美心は末っ子気質で、おねだりが得意だ。大治も口では文句を言う事がありつつも、ちょっとした要求にはつい応じてしまう。


「はぁ。甘やかし過ぎかな」


「そんな事ないですよ。美心は甘やかされて伸びるタイプなので」


「褒められて、だろ普通は」


「わたしりんごジュースがいいでーす」


「はいはい。ほら、自分で押しなさい」


 自販機に小銭を入れてやる大治。


「ご馳走様です! ぽちっ。大地先輩は何にしますか? 」


「俺は水にしとく」


「うっわ、ストイックですねー…ぽちっ。はい、どうぞ。みーこの奢りですよっ」


「俺の金なんだけど」


「みーこの愛情を奢っています」


「本来は有料ってことか? おまえの愛情は」


 渋々受け取り、ペットボトルの蓋を開ける。


「はぁー。みーこもたまには莉央奈先輩の護衛の方をやりたいです。誠奈人先輩たちがうらやましいなぁ」


「学年が同じの方が都合良いからな。仕方ねーよ。しかし、もうすっかりお気に入りだな」


「みーこはカワイイ人が大好きなんです。莉央奈先輩めちゃくちゃかわいくないですか? それに優しいし」


「まぁ、そうだな。良い人だと思う」


「はぁん。その反応、大治先輩のタイプというわけでは無かったようですね」


「邪推するなバカ。俺らの役目はあの人を守り抜く事だ。浮かれて舞い上がってると足元すくわれるぞ」


「それは気を付けます。りんごおいひー」


 それからしばらく、通り過ぎる人、自転車、車。歩きながら注視していたが、不審なものは見られない。大通りから一本中に入った路地での探索を始める大治と美心。調査班からの情報をもとに、怪しい場所を周っていく。しばらくそうしていると、不意に電信柱の裏から白い猫が飛び出してきた。


「あら猫ちゃん。カワイイにゃー」


「ん…首輪が付いてるな。飼い猫か? 」


 白猫はまるで観察するようにこちらをじーっと見つめている。大地達の頭の上から爪先まで目線を移していく。


「なんか、すごい見てきますね? 」


「まるで値踏みされてるみたいだな。どうしたんだか」


 二人が怪訝そうな顔をしていると、その白猫はみゃー! と強く鳴いて飛び跳ねる。数回それを繰り返した後、踵を返して立ち去ろうとする。少し歩いたところでこちらを振り返り、また数回鳴いた。こちらの目を見つめながら。


「ついて来い、とでも言いたそうだな」


「ならば行ってみましょう。何かあるかもしれません」


「うーん、まぁ気になるしな」


 魔導士の捜索中ではあったが、まるで進展が無いため、なんとなしに大治は同意した。こういうイレギュラーが意外と停滞した状況を動かしたりするのだと、淡い期待を持ちながら。大治と美心が歩き出すと、白猫は前に向き直り、再び進み始めた。


「探してる魔導士は成人男性でしたよね? じゃあ、あの子の飼い主が…っていう可能性は低いかなぁ」


「男だって猫を飼う事はあるさ。それに、今から向かう先が飼い主の所とは限らないだろ」


「ひょっとしてあの猫ちゃんに結構期待してますか? 」


「ちょっとだけ、な」


 いくつかの曲がり角を越えて、トテトテと猫は軽快に歩く。途中、車や自転車とはち合わせる事もあったが、ちゃんと通り過ぎるのを待ってから動き出していた。その所作を見ると、やはり誰かの飼い猫であるように感じた。よく躾けられている。たまに振り返り、大治と美心が着いてきている事を確認すると、よしよしと言わんばかりにみゃー! と鳴く。その行動には明確な意思が感じられた。


「猫って賢いんだな。まるで人間が操作してるみたいだ」


「生物を操る魔導って実在してるんですか? 」


「人を含め、生物を操るための魔導ってのは未だに無いようだな。何か異常な力の副作用として意識を失ったり、暗示が掛かったように他者の命令を聞きやすくなったり、という程度の現象なら確認されてるらしい。思い通りにコントロールできるような、都合の良い魔導は存在してないはずだ。昔から精神操作の魔導を研究する魔導士もいたみたいだが、結果は実らなかったし、今はほとんどの国で禁止されてるな」


「副作用…精神操作というより心神喪失ですね。しかし、昔から悪い事考える人はいたんですねぇ」


「どの時代にも、どんな分野にもいるさ。世の中の人間全てが善良で争い事が全く無い世界なんてのは、有史以来存在してないと思うぜ」


「世知辛い世の中です。その状況を打破するには、やはりカワイイのパワーしかありませんね。世界中の人がカワイイものに夢中になれば、争いは無くなります。カワイイは世界を救うのです」


「…すごい飛躍してるが、理念としては悪くないんじゃねーの」


「ありがとうございます! これからも水野美心をよろしくお願いします! 水野美心、水野美心でございますっ! 」


「選挙カーかよ! 」


 そんなやり取りをしているうちに、やがて白猫は年季の入った一軒家の前に辿り着く。正面玄関は素通りし、裏の勝手口に向かっていった。


「ここがきみのおうちなの? 」


「なんか、嫌な予感がするぞ」


 勝手口が少しだけ開いており、白猫はその隙間から家の中に入っていった。古びた紐がドアノブから伸びており、それによって扉が閉じないように固定されているようだった。猫が出入りするために、家主がそのようにしたのだろう。大治と美心は顔を見合わせて頷く。後をついて行く決心を固め、紐を外して勝手口の扉を開いた。


「お、お邪魔しまーす」


「どなたかいらっしゃいますかー」


 靴を脱ぎ、二人は恐る恐るその一軒家に足を踏み入れた。白猫は先に行ってしまい、姿が見えない。周りを警戒しながら、薄暗い廊下を少しずつ前に進む。すると、うぅ…というしゃがれた呻き声が聞こえ、美心はびくっと跳ね上がる。一方で大治は何かを察したようで、声の聞こえた方に急ぐ。美心も慌ててそれに続いた。


「どこですか? 大丈夫ですか!? 」


「こ、こっち…」


 大治の呼びかけに応えるように、女性の物と思われる返事が聞こえた。声を頼りにその主の元へ辿り着くと、高齢の女性が床に倒れ込んでいた。大治が側にしゃがみ込んで寄り添う。


「転んじゃって…足が痛くて動かない」


「折れてるのかも…みーこ、救急車たのむ」


「はい! 」


「ごめんなさいね…でも、どうしてわかったの? 」


「あの白猫が教えてくれたんですよ」


「えっ、ミコちゃんが? 」


 名前を呼ばれた白猫は、側にあったテーブルの上から大治達を見下ろしていた。にゃー、とどこか誇らしげに鳴き声を上げる。そしてスマートフォンで救急に電話を掛けていた美心は、女性が白猫の名前を呼んだ瞬間にギョッとしてそちらを見る。その目線を感じたのか、白猫は美心の方を見てニヤリと笑った、ように見えた。ミコと同じ名前のお嬢ちゃんなら、信じて着いてきてくれると思ったにゃ。おばあちゃんを助けてくれてありがとにゃ。と言っていたかは定かでは無いが…最初に出会った時と比べると、かなり落ち着いている様子だ。自分の飼い主が助かりそうだという事は察しているのだろう。猫が垣間見せた知能の高さに感嘆する大治と美心だった。




 救急車を呼んだ後、女性の親族にも電話を掛けたところ、すぐに駆け付けてくれた。救急車も程なくして到着し、後の事は救急隊と親族に任せ、大治と美心は撤退した。


「いいことしましたね。あのおばあちゃん、動けないまま時間が経ってたら、さすがにちょっと危なかったかも」


「そうだな。探してる魔導士とは全くこれっぽっちも関係無かったけど、人助けになったんだから良しとしようか。さ、張り切って行くぞー」


 実際、親族からは深い感謝をもらっていた。何かをしても感謝などされない事も多い仕事なので、二人は悪い気はしなかった。


「なんか修羅場を一つ越えたら、どっと疲れちゃいました。集中力が途切れてます」


「言うな。今一生懸命に気持ちを盛り上げてるんだから」


「そですね…。歌いましょうか? 」


「歌わんでよろしい…おまえは魔導の鍛錬もちゃんとできてるのか? 」


「もちろんです。たしかに、SNSの更新、歌やダンスの練習など、みーこにはやらなきゃならないことがいっぱいあります。だけど、どれかで手が抜けてしまうようでは真のアイドルにはなれないのです。魔導も全力です。みーこの鮮やかな技は見る物を魅了するでしょう…そういう大治先輩はいつも鍛えてばかりっていうイメージがありますね。ちゃんと遊んでますか? 」


「人並みにはな。俺の場合は鍛えるのが好きってのもあるけど。」


「すごいですね…筋肉がつくのが楽しいんですか? 」


「それもあるけど、前より思いバーベルを持ち上げられたり、体脂肪率が下がったり、短距離走のタイムが縮まったり。体を鍛えるってのは、数字で結果が出るから、努力の成果が見えやすいんだよ。その成果を確認すると、満足感があるんだよな」


「なんか意外としっくりくる理由でした。数字だけに振り回されるのはナンセンスですけど、確実な指標の一つではありますよね」


「そういうこと。何か努力をする時、その道標になる物だからな。今は情報も多いし色んな物が数値化できるから、一人で黙々と努力をするにはやりやすい時代だと思うぜ。個人的には」


「なんか、みーこ達がこんな知的な会話をしているとは。感無量です」


「おまえたまに俺を馬鹿にしてるよな」


「筋肉馬鹿だと思ってはいますけど、馬鹿にはしてませんよ。先輩として尊敬してます! 」


「俺は律華先輩より優しいから一回目は許してやる」


「あ、今の律華先輩に言っちゃおーっと」


「おい待てそれはまずい! 」


「何がまずいんですか? 言ってみてくださーい」


「ちくしょうっ! 」

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