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学生魔導士は街を駆ける ー現代社会における魔導の在り方ー  作者: 小仲はたる
第1章 全てを失った少女

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第1章:第11話『軟派な魔導士』

 三木(みき)が運転する車中。誠奈人(まなと)が助手席に、莉央奈(りおな)律華(りっか)が後部座席に座っている。誠奈人が三木に学校での出来事を報告していた。


「そんなわけで、まだ魔力は使えないみたいだ。時間の問題だとは思うが。魔導学園という絶好の環境にいるわけだしな」


「わたしも早くカッコイイ魔導が使えるようになりたいです。できれば自分の身を少しは守れるくらいには」


 莉央奈は両手を握って意気込む。運転中のため三木は前を向きながら返答する。


「頼もしいね。またいつ狙われるかも分からないから、こちらとしても、それは助かるところだよ」


「その後、日野(ひの)剛也(ごうや)の行方はどうだ? というかなんで逃げられた」


「日野は未だに行方知れずだ。自力で逃げたのではなく、仲間が救出に来たようだ」


「そうだったのね…。仲間の人数は、何人いたんですか? 」


 律華が三木に尋ねたが、返ってきた答えに一同は驚きを隠せなかった。


「それが、たった一人の魔導士だったそうだ。対魔導士用の装備で固めた警察官四人が護送車に乗り合わせていたそうだが、全員重症だ。命に別状はないがね。敵ながら大した手腕だ」


「警察や協会の応援が来る前に四人を戦闘不能にして、日野を連れて足取りをらくらませた…その魔導士はかなりの手練のようね」


「収容所から日野を出すという行為自体がナンセンスだったが、一応備えはしてあったか…その魔導士の特徴とかはわからないのか? どんな魔導を使ってた?」


「全身黒ずくめで、顔もしっかり隠されていたようだ。わかるのは細身だったという体格くらいだな。それも何かで偽装されている可能性すらある。魔導についても、基礎的な身体強化と魔力放出のみで、固有の魔導は使わなかったそうだ。それでもその戦闘力は並の魔導士ではない。襲われた四人も、魔導士との交戦経験があるベテランだったようだ」


「手掛かりは無しか…。ん、その仲間の魔導士はどうして護送車をタイミング良く襲う事ができた? その日その時間に日野が誤送されると分かっていなければ、できない事じゃないか。そもそも収容された魔導士が警察に連れて行かれるという事態そのものがイレギュラーなんだ。なかなか予測できるものじゃない」


 聞き手に回っていた莉央奈が、そこではっとなる。


「もしかして情報が漏れていた…? 」


 それを聞いて三木が感心したように頷く。


「私もそれを疑っていた。収容所の近くでずっと張り込んでいただけという可能性もあるが…察しがいいね」


「調子に乗るから褒めすぎないでな。まぁ、楽観視はしない方がいいな。予測できる材料があったのか、それとも移送計画自体を知る手段があったのか…」


「誠奈人くん、わたしは調子に乗らないよ。そんは簡単には」


 莉央奈は誠奈人の一言を聞き逃さず、運転席と助手席の間から顔を出して抗議した。


「そんな所から顔を出すな。悪かったよ」


「随分打ち解けたようだな。安心したぞ」


 思わず笑みが溢れる三木。不安材料が散見される中で、莉央奈のこの様子は嬉しい事だった。


「ああ。友達になった」


 その言葉を聞き、誠奈人の顔を見る三木。満更でもなさそうな表情を見て、また微笑む。


「えへへ。友達になってくれてありがとう。誠奈人くん、律華ちゃん」


「気にしなくてもいいのに。あなたが嫌な子だったら、お断りしてたかもしれないし」


「じゃあ律華ちゃんから見てわたしはいい子だってことだねぇ。褒めれた」


「ふふ、その通りよ」


 莉央奈を褒めちぎる律華をよそに、誠奈人が三木との会話を再開する。


「あとは…最初に莉央奈を見つけた辺りでは、何も見つかってないか? 」


「あぁ。調査隊が捜索しているが、怪しい物は特に見つかっていないようだ」


「なるほどね。莉央奈、お前は一体どこから来たんだ」


「それが分かったら良いんだけどねぇ。気付いたらあの港にいて、あのおっかない男の人から逃げてたの。なんで追いかけてくるのかも教えてくれなかった」


 眉間に皺を寄せてむむむと唸る莉央奈。


「しょうがないな。唯一の手掛かりだった日野もいなくなった。だけど日野をわざわざ助けに来るというのは向こうにとってもリスクだったはずだ。それをするだけのメリットがあるってことだな。」


「そうだな。もしくは相応の仲間意識があったかだ。魔導士の犯罪組織は結束力の高い事が多いからな」


「魔力の無い人達に迫害された結果、非行に走るケースが多いしな。動機や目的がちゃんと共有されてる組織は結束が強い」


「さて、到着だ。続きは中で話すとしよう」


 都心のはずれにある大きなビル。その地下駐車場へと車を走らせる三木。ここが日本魔導協会本部。日本中の魔導士を統括する組織の総本山だ。


 地下からエレベーターに乗り、一階で降りる四人。少し進むと警備員が立っていたため、誠奈人と律華と三木は協会員としての身分証を提示して、莉央奈は来客用の身分証を受け取った。紐付きのカバーに入れられていたそれを、莉央奈は首から下げる。警備員のいた場所のそばに閉ざされた分厚いガラス扉があった。脇にある機械に身分証をかざすと中に入れる仕組みだ。扉の中に入り、莉央奈は警備の厳重さに感嘆する。


「すごいなぁ。セキュリティは機械なんだね。そういうのも魔導でやっているものかと」


「それだと常に魔力が必要になるからな。現代では魔導士も科学技術を積極的に使っている。昔は日本にも魔導士は魔導だけを活用するべきだという思想もあったみたいだが、今はほぼ絶滅したな。近代化の波には抗えない。魔導士も、そうではない人も、たいして違わない」


「そっか。魔導士だって人間だもんね。他の人たちと一緒だよね」


「そういうことだ」


 一旦言葉を切った後、少し考えるような素振りを見せた後、誠奈人はまた口を開いた。


「莉央奈。魔導士だって人間…その考えは、できればこれからも持ち続けてほしい。そうしてもらえると、俺は嬉しい」


「えっ? …うん、わかったよ」


 誠奈人の真意は掴めなかったが、そこに何か大切な物が秘められていると感じ、莉央奈は誠奈人の目を見て返答した。


「三木隊長! 」


 扉の先にあった広いロビーで、一人の男が声をかけてきた。パーマがかかった長めの髪をセンター分けにして、ワイシャツにネクタイを締めず、その上に薄手のコートを羽織っている。どこか軽薄な印象が拭えない。


藤堂(とうどう)君。奇遇だね」


「さっきまでちょっとした会議だったんすよ。それより聞きましたよ、色々大変だって。あ、律華ちゃんに誠奈人くんもお久しぶり。ひょっとしてそっちのカワイイ女の子が、例の? 」


「お久しぶりです、藤堂さん。この子についてはお察しのとおりです。莉央奈、この人は協会の魔導隊に所属している、魔導士の藤堂(とうどう)(かい)さん」


 丁寧にお辞儀をしながら誠奈人が返す。


(みのり)莉央奈(りおな)です。はじめまして」


「莉央奈ちゃん! 名前もカワイイねー。辛い目にあっただろうけど、もう大丈夫。日本魔導協会は、きみの味方だよ。もちろんこの俺も! 」


 迫真の笑顔で白い歯を見せながら、莉央奈に跪く快。苦笑いする四人。


「あはは。ありがとうございますっ」


「いやぁ本当に可愛いね。辛い境遇でも輝くその笑顔は皆を明るく照らす太陽のように美しい。俺のハートも魅せられちゃったな。罪な子だなぁ、その美貌が魔性の力を持っているんだ。一見無垢で純粋なように見えるが、一皮剥ければきっと妖艶な魅力も秘めているよ。俺にはわかる。そういうことで、まずはお友達から、始めてはもらえないな? 」


「藤堂君。ナンパならよそでやってくれるか」


 三木は冷めた表情で苦言を呈する。


「なっはっは、失礼しました。カワイイ女の子には目がないものですから。俺の生きる理由と言っても過言じゃないですからねぇ。つらく長い人生を彩る、色とりどりの可憐な花達が大好きなんですよ」


 呆れる四人をよそに快は立ち上がると、咳払いをしてから、真面目な表情に切り替える。それを察知した誠奈人と律華と三木も真剣になる。


「この一件、長引きそうな予感がするんですよね。予想よりもデカい話かもしれない。用心してください」


「あぁ。忠告ありがとう。我々も警戒しているよ」


「それじゃ、今日はこれで。またね莉央奈ちゃん」


 表情が軽薄そうな笑みに戻り、手を振りながら立ち去る快。


「なんだか、協会にも色んな人がいるんだね」


「あの人も軽薄なだけで悪い人じゃないんだけどな。実力も協会の魔導士の中でトップクラスだ。それにあの人の父親は協会の副会長なんだ」


「へぇー。そうなんだ、人は見かけによらないね」


「適格だな…」


「嫌いってわけじゃないけど、わたしはああいう人よりも、誠奈人くんみたいな実直なタイプの方がいいな」


「…これからも実直に生きていく事にする」


「うむっ」




 予定の時刻まで少し間があったため、一階にある休憩スペースにやってきた一同。


「この後、部隊の人たちと顔を合わせるんでしたよね」

「ああ。私が指揮する学徒第一魔導隊の定例会議の日だったのでね。君を紹介しておく。誠奈人や律華が動けない時は彼らに護衛を頼む事もあるだろうから、よろしく頼むよ」


「はいっ。ところで魔導隊っていうのは、他にもあるんですか? 」


「学生魔導隊は第一以外にも複数の部隊があって、高校生までの魔導士が所属している。それ以外は通常の魔導隊に所属する事になる。それなりの数が揃っているが、最近は増加傾向にある魔導犯罪の対応に苦慮しているのが現状だ。優秀な魔導士は簡単には育たないのでね…協会も全国の魔導学校と連携して、育成に力を入れてはいるのだが」


「魔力を持ってる人がそもそも少ないんでしたよね…。協会には魔導士じゃない人もいるんですか? 」


「ああ。魔導士以外では事務作業や魔導事件の捜査、広報などを対応してくれる協会員もいる。魔導士だけではとても人手が足りないんだ。彼らに対しては、わざわざ魔導士と関わる仕事を選んでくれた事には感謝の念が絶えない」


「人手不足なんですねぇ」


「猫の手も借りたいほどだ。魔導士という存在の世間的立場を暗に示しているかのようだよ」


 莉央奈はまだ記憶を失って日が浅く、魔導士以外の人間と関わる機会も少ない事から、魔導士とそれ以外の人間との間にある壁を感じてはいなかった。しかし、魔導士の口からはその話題が漏れる事がこの短い間にも散見される。莉央奈が関わる魔導士は良心的な者が多かった事もあり、少しいたたまれない気持ちになった。


「魔導士と、そうじゃない人が分かり合うのって大変なことなんでしょうか」


「大変だよ。古くから世界中で続いてきた問題だ。科学が発展した近年になって顕著になったところもあるが、過去にも中世の魔女狩りなどの歴史がある。だがらといって全く不可能だとは思わない。魔導士が現代社会と調和し、人々と分け隔てなく生きていけるように、というのが協会の行動理念だ。そのために、魔導事件の解決以外にも色々な活動をしている」


「そうなんですね。調和…できるといいな」


「きみも今後魔導士として、そういった軋轢に呑み込まれてしまう事があるかもしれない。だが、安易に憎しみや怒りには走らず、我々を頼って欲しい」


「はい、ありがとうございます」


「さて、そろそろ時間だな。会議室に行くとするか」


 時計を見て立ち上がった三木に、他の三人も続いた。歩いている最中も、莉央奈は三木との会話を思い返していた。

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