表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
「連載版」婚約破棄されて辺境に追放された悪役令嬢ですが、のんびりカフェを開いたら無愛想辺境伯様に溺愛されています  作者: 夢見叶
第1章 婚約破棄と辺境行き

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

6/24

第6話 メイドのマリアと買い出し少年ノエル

 コンコン、と扉を叩く音で目が覚めた。


「お嬢様、お時間です。朝食の支度を始めたいのですが」


 私は布団の中で伸びをしてから、ゆっくり返事をする。


「どうぞ、マリア」


 扉から顔をのぞかせたのは、昨日自己紹介してくれたメイドのマリア。きちんと結い上げた髪と、少し緊張した笑みが印象的だ。


「おはようございます、お嬢様。よくお休みになれましたか」


「おはよう。はい、とても。前の人生も含めて一番ぐっすりでした」


 つい本音が漏れたが、もちろん意味は伝わらない。マリアは首をかしげ、すぐに表情を引き締めた。


「あの、朝食はこちらで用意いたしますので、お嬢様は暖炉の前で──」


「待って。ここでは、お嬢様って感じでもないから」


 私はベッドから起き上がりながら、前から決めていたことを口にした。


「呼ぶときはリリアナでいいですよ。ここでは私も、一緒に働く人のひとりですから」


「そ、そんな。公爵令嬢様に……」


「元、公爵令嬢です。それに、この家をカフェにするつもりなので、仕込みから立ち会いたいんです」


 マリアは目を丸くし、それからおそるおそる微笑んだ。


「……では、リリアナ様。ご一緒に台所へ」


     ◇


 キッチンには卵に根菜、少しのベーコン。私は卵を手に取り、そっと《生活鑑定》を使った。


《卵 鮮度:良 栄養:中》


(よし、今日中に使い切るのが良さそう)


「この卵、スープとパンに合わせて軽く焼きませんか。寒い朝だから、しっかり食べたいですし」


「た、卵を二品も……?」


「働く人のエネルギー補給です。ここで暮らすなら、まずは体力から」


 前世で鍛えた時短家事スキルを発動しながら、野菜を刻んで鍋に放り込む。鑑定で煮え具合を確認しつつ味を整えると、素朴だけどいい香りが立ちのぼった。


「すごい……王都の料理長さんみたいです」


「いえいえ、前は残業続きで、自分で作らないと食べ損ねる生活だっただけです」


 冗談めかして笑うと、マリアもつられて笑った。


「リリアナ様は、本当に不思議な方ですね」


     ◇


 朝食を片づけて一息ついたころ、玄関でドンドンとやや乱暴なノックが響いた。


「あ、きっとノエルですね」


「ノエル?」


「領主館から回された、こちらの買い出し担当の少年です」


 マリアが扉を開けると、霜焼け気味の頬をした少年が木箱を抱えて立っていた。乱雑に切られた金髪に、つり気味の目。


「買い出し担当のノエルです。……よろしく」


 ぶっきらぼうな挨拶。うん、ツンツンだ。


「リリアナ・フォン・グランツです。これからお世話になります、ノエル君」


「……公爵の、お嬢様」


 彼は小さくそう呟き、そっぽを向いた。完全に「どうせすぐ帰る貴族」扱いの目だ。


 だからこそ、私はにこっと笑ってみせる。


「ちょうど市場を見て回りたかったんです。良ければ案内してもらえますか」


「えっ」


 マリアまで目を丸くした。


「ここで暮らすなら、物の値段を知らないと。生活設計、大事ですから」


 社畜時代に叩き込まれた予算感覚は、転生しても健在だ。


「……分かりました。足元、気をつけてくださいよ。転ばれたら俺が怒られる」


「気をつけます。ノエル君も、荷物持ちすぎないでくださいね」


     ◇


 道の両側には雪に埋もれかけた家々。白い息を吐きながら歩く人々の間を抜け、私たちは小さな市場へ出た。


「ここが市場で、その先が中央広場っす」


 ノエルの歩き方は慣れていて速い。私は転ばないよう慎重に足を運びながら、並んだ露店を眺めた。


「このにんじん、いくらですか」


 私は店主に尋ね、勧められた値段を聞いたうえで、笑顔を崩さずに切り返す。


「でしたら、この量でこの値段というのはどうでしょう。あちらのかぶも一緒に買いますので」


 少しの沈黙のあと、おじさんは頷いた。


「お嬢さん、やるねえ。その条件で」


 袋を受け取りながら、私は内心でガッツポーズを決める。隣ではノエルがぽかんとしていた。


「……ほんとに値切った」


「当たり前です。お金は有限ですから」


「貴族って、そういうの気にしないもんだと」


「お小遣い制だったので」


 思わず出た言葉に、ノエルが変な声を上げた。


「お、お小遣い……?」


「はい。月末に帳簿とにらめっこして、こっそりお気に入りのカフェ代を捻出するのが特技でした」


 帰り道、マリアが街並みを眺めながらぽつりと漏らす。


「ノルドハイムも、昔に比べればずいぶん賑やかになりました」


「ディルク様のおかげ、ですか」


「……はい。でも、そのお話はいつかご本人の口から聞いてください」


 マリアはそう言って笑った。


 ノエルも、前を向いたまま小さく付け足す。


「領主様を悪く言わない貴族なんて、初めて見ましたけど」


「悪く言う理由がありませんもの。私を罪人ではなく客として受け入れてくださった方ですよ」


 ノエルはしばらく黙っていたが、やがて照れ隠しのように鼻を鳴らした。


「……変な貴族」


「ありがとう。褒め言葉として受け取っておきます」


     ◇


 家に戻り、買ってきた野菜をテーブルに並べる。にんじん、かぶ、雑穀のおまけまでついてきた。


《雑穀 栄養:中 体を温める:+1予測》


 鑑定結果を見ながら、私は暖炉の火を見つめた。


(この街の人たちに合う、あったかい一杯を作りたい)


 王都の真似ではなく、雪の街ノルドハイムのためのカフェを。


 マリアとノエル、そして無愛想な辺境伯様を巻き込みながら、ここで生きていく。その絵が、少しだけはっきりと浮かぶ。


「まずは、この雑穀から試してみましょうか」


 小さく呟いて、私は焙煎器にそっと手を伸ばした。


 第二の人生と、のんびりカフェ計画。その準備が、静かに始まろうとしていた。


ここまでお読みいただきありがとうございます。第6話では、メイドのマリアとツンツン少年ノエルをしっかり登場させてみました。

この2人は、今後リリアナのカフェ計画を支える大事な仲間になっていく予定です。


元公爵令嬢なのに値切り交渉するリリアナ、そしてそんな彼女を横目で見てびっくりしているノエル。

辺境ならではの生活感や、雪国の街ノルドハイムの雰囲気を、少しでも楽しんでいただけていたらうれしいです。


この作品は、のんびりカフェを開きつつ、無愛想な辺境伯様とのじわじわ恋愛と、街の人たちとのあたたかい交流を書いていきたいと思っています。

続きが読みたい、リリアナたちの今後がちょっと気になる、と思っていただけましたら、


・ブックマーク登録

・評価ポイント

・感想や一言コメント


などで応援していただけると、とても励みになります。

作者のやる気ゲージがぐんと上がって、更新速度にも反映されるかもしれません。


それでは、次回もお付き合いいただけたらうれしいです。

今後ともリリアナたちの物語を、どうぞよろしくお願いいたします。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ